第16話 筋の通った馬鹿


『お前、筋の通ったバカだよな』


 悪友からの最初の言葉は、とても良いものではなかったけど、不思議と、こいつとは仲良くなれると思えた。


『模擬戦闘訓練? ……やらなきゃだめなのか、それ?』

『お腹が空いた? そうだな、家庭科室のカセットコンロ拝借するか……、なに、バレなければ問題ないだろ?』

『鮭とハンバーグ交換しないか?』


 模擬戦闘は全試合不戦敗、鮭は皮のみだったし、カセットコンロは爆発した。

 そんな、頼りになるのかならないのか分からないアホ。でも、筋は通しているアホ

 それが、僕の中の斎藤冬至だ。


「斎藤冬至は、やる気にさえなれば、誰よりも頼り甲斐のある人間だと、私(わたくし)は思います」


 夜道を歩きながら、神崎さんは、そうはっきりと言った。


「冬至って、やっぱり有名人なの?」

「ええ、私たち名家の中での人気はすごいですよ、アイドルみたいなものですわ。 ……はい、これブロマイドです」


 ブロマイドには、寝てる姿の冬至が載っている。 

 ……こんなの需要あるのかな? 今すぐ側溝に投げ捨てたいんだけど……。

 だけど、僕も冬至の協力は不可欠だと思う。あの召喚獣は、他の召喚獣とは訳が違う。『召喚獣は兵器』っていう言葉を、そのまま表している。


「着きましたわ」


 目の前には、少し大きめの一軒家が、ポツン、と立っている。

 何度か遊びに来たことがある。当時のお家だ。

 ピンポーンと、インターホンを押してもらう。

 ……あれ、なかなかでてこない。どうしたんだろう。


「神崎さん」


 もう一度インターホンを押してもらう。今は午後11時過ぎの真夜中、少し罪悪感はあるけど、緊急事態だから、冬至の家族には我慢してもらおう。

 ………。


「あら、来ませんわね」

「うーん、トイレかな……」 


 急にドタドタ、と激しい足跡が聞こえ、ドンっ、と勢いよく玄関ドアが開いた。 


「お兄ちゃん、どいて! そこの泥棒猫を串刺しにできないでしょ!」


 可愛いフリルのワンピースをきた、中学生ぐらいの女の子がでてきた。


「落ち着け! どうして女をみると串刺しにしたがるんだ!」


 続いて、可愛いタオルのみを腰に巻きつけた、高校生ぐらいの男の子がでたきた。


「お兄ちゃん、猫っていうのはね、一度エサを与えたら、何度でもねだりにくる陰湿なストーカーなの、もう殺すしかないの、ねぇ、わかってお兄ちゃん?」

「分かるか! 頼むから、女がインターホンを鳴らすたびに包丁持って出迎えるのはやめてくれ! 殺人館だと勘違いされちまう!」


 そして、また家の中に戻って行った。


「……なに、いまの?」

「……さぁ? ですわ」


 よく見えなかったけど、中学生の子が刃物をもっていたような……。

 また、ガチャっ、と玄関扉が開いた。


「……あなたは、神崎碧ですね。 どうせお兄ちゃんの噂を聞きつけてやってきたんでしょうけど、お兄ちゃんは天性のシスコンですから、あなたみたいな美人さんには1ミリも興味ないですからね!」


 彼女は、綺麗な黒髪を腰の辺りまで伸ばしていて、清楚な雰囲気を感けど、話の内容と、右手に持ってる包丁のせいで台無しになっている。


「おい、何言ってやが…… 勇気! いいところに来た! 少し手を貸してくれ!」


 可愛いキャラもののタオルを巻き付けていて、普段の太々しさが想像できない……。

タオルにプリントされているキャラ、どこかで見たことあるような……。

あっ。


「プリキュアだね」

「それどころじゃないだろ! もっと先にやるべきことがあるだろ、少しはそのアリンコ並の頭で考えろ!」


 もっと先にやるべきこと、ということは、先に言うべきことがあると……。

 ……ここは冬至の実家。現在の時刻は深夜……。

 はっ! なるほど。


「こんばんは」

「おい佳奈(かな)、その包丁を貸してくれ!」


 あれ? 挨拶は大事だと思ったんだけど……。


「こんばんは、勇気さん」

「なに普通に挨拶返してるんだ!」


 彼女の名前は、斉藤佳奈(さいとうかな)、冬至の妹で、おとなしくていい子…… だったはずなんだけど……。


 「私考えたの、どうしたら、お兄ちゃんに寄生しようとする虫を駆除できるのかなっ、て。そして思いついたの。だからねお兄ちゃん、何も聞かないで目を閉じてほしいの、そうしたら、……終わるから」


 はぁはぁ、と頬を赤ながら、冬至の腰に巻いてあるタオルに手を伸ばす佳奈ちゃん。


「俺の人生も終わるわ! ……おい、まて、どうして今タオルを握りしめた?」


 一ヶ月前冬至の家に遊びに来た時は、よく冬至のこと睨みつけていたから、てっきり兄弟仲は良くないと思っていたんだけど、分からないものだなぁ。


 突然、カシャっと、隣からシャッターオンが聞こえた。

「なにしてるの?」

「いえ、お構いなく」

 神崎さんは、一眼レフカメラを構え、じっくりと、撮影に勤しんでいた。


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