第15話 協力者

「こっちですわ」

  午後十時頃、ラインで指示されたファミレスに入ると、大のテーブルでポテトを摘んでいる女性から声をかけられた。

 服装は、いつもの雰囲気からは想像できないほどカジュアルなものを着ている。


「こんばんは、神崎さん」

「こんばんは、高橋勇気 ……ファミレスのお食事、意外と美味しいですわね」


 パクパクとスピーディーにポテトを食べる神崎さん。


「神崎さん、悪いんだけど、さっそくいいかな?」

「……あ、分かりましたわ」


 ポンっと手を叩き、テーブルのタブレットに手を延ばした。


「はい、どうぞ」

「……あの、メニュー表もいいんだけど、その、送ってきたメールについて教えてほしいなって……」


 なぜメニュー表を? もしかして、見た目によらず、結構気の抜けてる人なのだろうか。


「あぁ、そっちのことですの、まぁ、食べながらゆっくり話ましょう」


 そういうと、ポテトの入ったバケットを差し出してきた。

 一つ頬張ると、なかなか塩味が効いていて、汗をかいて塩分が抜けている僕にはとても美味しく感じられた。


「まぁ、そうですわね、一言で言うと、ある一族が、記憶操作の魔法を使い、先日のランキング戦、および相川好(あいかわこのみ)に関する事実を捻じ曲げてています。」


 ……よかった。

 ……好はちゃんといる。僕の親友は存在している。

 相当まずい状態なのは分かっているけど、内心ほっとしてしまう。

 神崎さんは、ずずずとストローでジュースを飲みながら、視線だけ向けて話を続ける。


「私は名家、神崎家の次期当主です。召喚獣の悪用を見逃すわけにはいけません。ですので、この記憶操作の魔法を使っている召喚獣を倒し、記憶操作の魔法を解きます」


 します、と言い切る神崎さん、その瞳には一切の曇りはなかった。


「……たしかに、倒すことができれば、記憶は元に戻るかもしれないけど、……っていうか、その前に、いったいどれだけの人が、その記憶操作の魔法にかかっているの?」

「おそらく、世界中の人間全部ですわ」


 そんな恐ろしいことを、すらっと言った。


「……マジで?」

「マジですわ」


 スケールが大きすぎる。世界中の人間の記憶を操作できる召喚獣に太刀打ちすることなんできるんだろうか。


「神崎さん、質問があるんだけど」

「はい、どうぞ」

「どうして、その記憶操作を行った召喚士は、好の記憶も消す必要があったんだろう?」


 僕がいくら頭を捻っても、答えが出ることはなかったけど、神崎さんなら何か知っているかもしれない。


「……まだ確定ではないですけど、だいたい予想はついていますわ」

「ほ、ほんと! だったら……」

「ですが、これはあなたが自分で行き着かなくてはいけない答えです。悔しいですが、今の私(わたしく)にはどうすることもできません……」


 少し悲しそうな表情でそう呟く神崎さん。

 僕が自分で行き着く……? 

 そういえば、冬至も同じようなことを言っていたような……。


「他に聞きたいことはありますの?」

「……じぁあ、最後に、どうして、その魔法に僕と神崎さんはかかってないの?」

「私(わたしく)は抵抗(レジスト)しました」


 これまた、すごいことをすらっと言った。世界中の人間がかかるような魔法をレジストできるなんて、相当な召喚士じゃなきゃできないはずだ。


「あなたが魔法の影響を受けていない理由は、先程話した理由と同じです、自ずと分かるはずですわ」

 自ずと分かる…… か。

 正直、今の僕には検討もつかない。 


「あと、そこのヒヨコも覚えてらっしゃるそうですわ、……あなた、なかなかの召喚獣を使役してますわね」

『ピヨッ!』


 テーブルの上で、ポテトを突きながら元気よく鳴いた。


「ヒヨコ、覚えてたんだね」

『ピヨッ』

 こんな近くに同郷者がいたなんて、もっと早く気づけば、一人で悩む必要はなかったはずなのに……。


「では、まずは、協力者を集めましょう」

「協力者?」


 元の記憶が残っているのは、僕と神崎さんだけなのに、僕たちの話すことを信じて、協力してくれる人なんているのだろうか。


「いえ、一人いるじゃないですか」


 僕の内心を読んで、そう返答する神崎さん。

 その顔には、笑みが浮かんでいた。

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