第9話 厚化粧


 我が教室のドアをガラガラと開くと、クラスメイト全員が僕に視線を集めていた。


「?」


 不思議に思いながら、席に着く。すると、少々厚化粧が目立つ女生徒、たしか…… 安藤さん? が僕の机の前にやってきた。


「……どういうことよ」


 なんでこんなに威圧的なんだろう? 


「どうしたの?」

「どうしたの? じゃないわよ! 私に言わなきゃいけないことがあるんじゃないの?」


 そ、そうと言われても……。

 あ、なるほど、今日は一段と気合が入ってる。そこを褒めて欲しいんだ。


「化粧が濃くて可愛いね」

「ぶっ○してやる! 表にでなさい!!」


 僕に拳が当たる寸前で、ガタイのいい男が彼女の襟を持ち上げ止めてくれた。


「ちょ、離しなさい! 顔面殴れないでしょうが!」


 最近僕の中の女性の像が崩れつつある。どうして僕の周りの女性は凶暴なんだろう。


「ふぅ、助かった」

「まぁ、当たってたとしても自業自得なんだかな」


 冬至が、安藤さんの首根っこを掴み持ち上げでいる。軽くはないはずなのに、軽々と持ち上げるなんて、意外と筋肉あるんだな、こいつ。


「……お前、無自覚でいってんだな、いつも」

「え? 何が?」

「いや、なんでもない。そっち方がおもしろそうだしな」

「?」


 何を言っているんだろう? そっちの方がおもしろい?


「んで、なんで安藤は怒ってるんだ?」

「高橋、あんた、卑怯な手を使って日向様に勝ったんでしょ? 日向様が、あなたみたいな雑魚召喚士に負けるなんておかしいじゃない!」 


 目玉をひん剥き睨みつけてくる。


「うーん、結果的にはそうなっちゃったのか」

「だったら、私が仇を取る! 離しなさい! こ、この!」


 冬至から逃れようとジタバタしているが、冬至は微動だにしていない。


「まさか勝っちまうとはな、正直ビックリしている」

「うん、まぁ、不本意な勝利ではあるけどね、あと絶対手離さないでね、今にも僕の命を奪おうとしているから」

「がるるるるる!!!」


 確かに、今まで全敗の僕が、可井君に勝つことはおかしい。

 彼女が疑う理由もわかる。

 別に隠す理由もないし、正直に言ってしまおう。


「安藤さん、実はね、可井君が……」

「まて勇気、そのことも含めて、お前の家で話をしよう」

「え、なんで……。あ、そっか」


 そのことも、ってことは、冬至が探っていたことも含めて話したいってことか。

 だから、安藤さんや他の人たちに聞かれては困るってわけだ。


「よし、じゃぁ、さっそく行くか、なんか、帰っていいらしいからな」

「ん、了解」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」 


 帰ろうと鞄に伸ばした手を掴まれる。


「私にも教えなさい、じゃないと、この手を捻り潰すわよ」

「ふん、望む所だ」

「ねぇ冬至、勝手に返事しないでもらえる?」


 初めて聞く言葉に動揺を隠せない僕。

 手を捻り潰すって、いったいどうなるんだろう。


「……どうしても教えてくれないのね」

「あの、安藤さん? 冗談だからね? 僕は何も望んでないからね? ……お願いだから手に力を込めるの勘弁してもらえないかな?」


 手がゴリゴリと嫌な音をたてている。


「安藤、こいつとの話が終わったら、あとは煮るなり焼くなり好きにしてかまわない。 だから、少し我慢してもらえるか?」


「ねぇ、なんでさっきから僕の体を交渉材料にしているの?」

「……わかったわ。今回はそれで許してあげるわ」

「よかったな、許してくれるってよ」

「一つも良くないよ⁉︎ 結局僕が酷い目にあうだけじゃないか!」


 パッ、と信じられないくらいの力で握っていた手を離してくれた。

 あぶなかった……。もう少しで捻り潰されるところだった。 いや、どうせ後で捻り潰されるんだけどね。


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