第7話 対戦相手


「僕異世界転生しようと思うんだ」

「………先週、『僕はYouTuberになる!』って言ってなかったかしら?」


 雑誌を片手にソファでくつろいでいる好が、呆れながら返してくる。

 神崎さんとのいざこざがあってから、一週間が経とうとしていた。

 現在は、僕の家で連休の作戦会議をしている。


「うーん、どうしたもんかなぁ」


 正直、作戦会議になんて頭が回らない。あんなに怒った人を見たのは、家庭科室のコンロを爆破した時以来だ。その時は反省文を書いただけで許してくれたけど。今回はどうすれば許してくれるのだろう……。彼女は三大名家の一人。最強クラスの召喚士だ。そんな人に目をつけられるなんて……。


「神崎さん、どうしたら許してくれるかなぁ」

「………彼女、根に持つタイプだから、謝るだけじゃ許してくれないわよ。 絶対」

「うっ、あんなに怒ってたしね。……っていうか、なんで好みがそんなこと知ってるの?」

「昔色々あってね……。」

「へー、そうなんだ」


 連休を僕たちと過ごすぐらいだから、友好の幅はそんなに広くないと思ってたんだけど……。

 もうずいぶん長く一緒にいるけど、知らない事もあるんだな。


「あーあ、せめて僕に彼女でもいたらなぁ」


 高校に入るまでは、召喚士資質の高い生徒という肩書きもあって、そこそこ人気はあつわたと思うけど、最近ではめっきりだ。理由は明らかなんだけど。


「か、彼女ね……。ねぇ、ちなみになんだけど、勇気のタイプって、どんな女性なの……?」


 む、どうしたんだろうか。そんなどうでも良さそうなことを聞いてくるなんて。


「胸が………」


 ちょっとまった。流石に、胸が大きい人が好きですって正直に答えたら、いくら幼なじみとはいえ失礼だよね、本人も胸の大きさを気にしてるっぽいし、なんとか濁さないと……!


「むね? むねがなによ?」

「む、胸が……その。や、優しい人かな」


 僕には少々難しかった。


「胸が優しい女性って、いったいどんな女性よ……」

「あはは、なんちゃって〜…」

「勇気、正直に答えなさい。怒らないから」

「巨乳」


ダダダダダ バン!


「おい、今相川がものすごいスピードで家から出ていったんだが、何かあったのか?」

「冬至、今すぐこの家から出て行こう。 化け物が帰ってくる前に」


 彼女はおそらく獲物を買いに行っている。


「まぁ、自業自得だろ。女に向かって、胸が大きい人が好き、なんて言うかよ、普通」

「聞いてたのかよ!」

「面白そうな会話してたからな」 


 このゲス野郎め! この状況を楽しんでるなんて!


「だったら、早くこの家を出て行こう! ほら、冬至だって友達が包丁で串刺しにされる姿はみたくないでしょ?」

「はっはっは。包丁じゃ串刺しにはできないぞ? なんて言ったって刀身が短いからな」

「何冷静に分析してんだよ馬鹿野郎!」


 こいつ! 親友の危機をなんだと思ってるんだ!


「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ」

「いや、良くないんだけど、僕が」

「これを見てくれ」


 冬至ゴソゴソとポケットからスマホを取り出し、画面を僕に見せてきた。


「えーっと、次の模擬戦の対戦表?」

「そうだ、お前の対戦相手見てみろよ」

「僕の対戦相手っと……、高橋勇気vs川井日向。って、まさか、僕の対戦相手って……」

「そのまさかだ。お前の次の対戦相手、自然実習でお世話になったランキング1位だぞ」


 いつかお礼を言おうと思っていたんだけど、まさか対戦相手が川井君だなんて……。


「いや、でも、仲が良い分、楽に葬ってくれるかも……」

「それで勇気、一つ頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと? ……できるだけ残酷に死ねって?」

「それも見てみたいが今回は違う。……勇気、川井と全力で戦って、できるだけ模擬戦を長引かせてる欲しいんだ」

「長引かせる? どうして?」

「少し気になることがあってな。調べたいんだが、それにはあいつを引き止めてもらう必要がある」

「直接頼めば教えてくれそうだけど?」

「俺も最初はそうしようと思っていたんだがな、なぜか頑なに俺と会おうとしないんだ」


 ふむ、頑なに冬至と会おうとしないか……。


「たしかに気になるね」

「だろ? だから頼む」

「報酬は?」

「どんぐり三個だ」

「冬至、僕の事幼稚園生か何かと勘違いしてない?」

「安心しろ、アクがすくないマテバシイだぞ」

「違う! 僕が気にしているのはどんぐりの種類なんかじゃない!」

「冗談だ、カルビ定食でどうだ?」

「乗った」


 普段なら断ってるところだけど、僕自身冬至が調べようとしてることが気になるし、なにより今月は金欠気味なんだよね。

 そうと決まれば……。 


「冬至、ちょっと公園にいってくるから、留守番をたのむよ。……ほら、とっとと起きないと焼き鳥にして食べちゃうぞ」

「ピ……ピヨ〜」


 羽をうまく動かして起き上がるヒヨコ。プクプクに太ってとても美味しそうだ。鳩に連行される理由もわかる。


「お、ずいぶんやる気だな」


 冬至にニヤリと含みのある笑みを浮かべる。


「まぁね、親友の頼みだから、気合い入っちゃったのかも」

「なに気持ち悪い事言ってんだ。食券のためだろ」

「さすが、よく分かってるね」


 ヒヨコにリードつなぎ、服もお散歩スタイルに着替える。ふむ、なぜだかこの服装はおちつく。


「じゃぁ、行ってくるよ、せめて鳩には勝てないと話にならないからね」 

「いや、鳩に勝てたところで話にならないことに分かりはないと思うが……。あと、今日は無理だと思うぞ、飼育員さん」

「だれが飼育員さんだ! 今日は無理って、なんで?」

「なんでってそれは」


 冬至がそこまで口にした時、リビングの扉が勢いよく開かれた。そして、そこに立っていたのは……。


「ただいま♪」

「あ……お帰りなさい」


 鉄パイプをもった悪魔だった。

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