第3話 可井日向
ショッピングモールで2人と別れた後、僕は1人で歩いて帰っていた。
帰って何をしようか考えていると、近くの公園から叫び声にも似た幼い声が聞こえてきた。
ちらりとその公園を覗くと、低学年の小学生たちが、蛇口にホースを付けて水遊びをしている。
僕も小さい頃この公園で遊んでたなぁ。
そんなことを考えたながら眺めていると、小学生達にまじって、一人小学生にしては大きい人がいることに気がついた。
……しかも、なんか屈んでいて、小学生達に水をかけられ続けている。
ま、まさか……!
だとしたら眺めている場合じゃない、小学生をとめないと……!
「こら、なにしてるんだ小学生達」
『げ、おとなだ』
『こらー? なんで?』
『なんか、おとななのにもどみたいなひとだね』
あまり悪びれる様子もなく、僕の方に駆け寄ってる子供達。
むっ、これは、悪いことをしていることに気がついてないんだ。
だとしたら、年上として、ちゃんと教えてあげなくちゃいけない。
「人に水をかけちゃだめでしょ?」
『え? なんで?』
『どうしてどうして?』
『きもちよさそうにしてるよ?』
「気持ちよさそうにしててもダメ、自分がされたらいやでしょ?」
『え? ぼくされたいよ?』
『かけていいよ』
『あついからみずあびたいよ?』
「いや、でも」
『でもじゃない、みずあびたいからみずかけて』
『おにいさん、さっきされたらいやなことするなっていった』
『だったら、されたいことしてほしいな』
あれ? 僕、もしかして小学生に言い負けてる?
い、いや、そんなわけない、さすがに一回り小さい子供に論破されるなんてことは……。
「あ、あのね、子供達」
『こどもたちじゃない、ぼくはこうへいってなまえだよ』
『おとうさんにいわれたよ、ちゃんとなまえをつかいなさいって』
『おにいさん、おとななのにこどもだね』
………。
ちがう、頬に流れているのは涙じゃない、そんなわけはないんだ。
「もう、水掛け続けてっていったわよね…… え?」
屈んで水を浴びせられていた人が起き上がった。
僕と同じ制服を着ている、おそらく男子生徒。
見た目では、男か女かわからないけど、男性用制服を着ているから、おそらく男だ。
茶髪のショートヘアで、肌がきめ細かく、白い。
アルトボイスで、透き通っている声
ん? どっかで見たことがあるような……。
「あ、もしかして、可井くん?」
そうだ、学校でよく見かける、可井君だ。召喚獣の模擬戦全勝の男。
いつも女生徒からちやほやされており、一部の男性から嫉妬の熱を浴びせられてる。召喚士育成高等学校の代表のような存在。
「え、あ、うん。そうだよ。奇遇だね、勇気君」
「僕の名前知ってるの?」
すると、少し慌てながら、目を逸らす可井君。
「ま、まぁ、有名ですから」
「へぇ、そうなんだ……?」
そこで、違和感を覚えた。
「水掛けられてたけど、大丈夫?」
「う、うん、ボクが掛けてほしいって頼んだんです」
「そうなんだ、なんだ勘違い……か?」
ん? あれ?
「勇気さんは、どうしてこの公園にいるんですか?」
「うん、えっと、なんでだろうね」
「?」
全く話が頭に入ってこない。緊急事態に脳がショートしている。
だって、仕方ないよね。
シャツの隙間から下着が見えていた。
水色の、ブラジャーが。
「ど、どうしたんですか? 顔真っ青ですよ?」
青いのは君のブラだ。
これは指摘したほうがいいんだろうか、でも、おそらく可井君も隠しているに違いない、根拠はないけど。根拠はあるんだ。
「ん? どこかおかしいところあります?」
「ど、どうだろ、おかしいのは世界かもよ?」
「? 何言っているんですか?」
く、どうしたらいいんだ!
『み、みずいろだ』
『ママもおなじのつけてる』
『おにーさ、おねーさ、おねーさん?』
「どうしたの、こうへい君たち? 水色?」
まずい、このままだと気づく!
(行け! ヒヨコ!)
『ピヨッ』
ぱたぱたぱたと、手羽先部分を懸命に動かし、可井君の肩にちょこんとのるヒヨコ。
「…………」
可井君は、ぎゅっとヒヨコを手でつつみ、頬当たりまで持ち上げた。
「……かわいい」
そう呟くと、ヒヨコに頬擦りし始めた。
よ、よかった、普段の印象とは違い、可愛いものがすきっぽい。
『いいなぁー、ぼくもー』
『わたしもー』
『はやくかしてー』
小学生達も彼の元に集まっていく。ヒヨコが興味を引いてくれたおかげ、ブラの事は頭からなくなっているようだ。
「あ、そろそろ時間…… じゃあね、こうへい、まりも、あいな」
『またねー』
『ばいばいー』
『ばいならー』
「ちょ、ちょっとまって!」
「どうされました?」
このまま行かせたら、水で透けたブラジャーを見せびらかしながら公道を歩くことになる。それはなんとしても避けなくては!
「あ、その、濡れてるけど大丈夫?」
「はい、あるいてたら乾きますから」
「で、でも、乾かしたほうがいいんじゃない? か、風邪引いちゃうかもだし」
「うーん、分かりました。そこまで言うなら……。おいで、グリフォン」
物陰から、横幅2メートルはある。巨大な鳥類がゆっくりと姿を現した。
「これが、噂に聞くグリフォンかぁ。」
その貫禄から発せられる威圧感に一歩さがってしまう。かっこよくて、そして強そう。
「ふふ、可愛いでしょ?」
頭をごしごしとなでながら頬擦りする可井君。なんとも幸せそうだ。
「じゃぁ、お願いグリフォン」
「クルァァ」
グリフォンが声を上げると同時に、ドライヤーの弱ほどの風が彼の体の周りに拭き始めた。
「これ、もしかして…… 風魔法?」
「はい、この子が1番得意な魔法です」
なんとも羨ましい話だ、うちの鳥はまじでなにもできないっていうのに。
「ふぅ、乾いた。 ありがとね」
「クルァァ!」
今度はグリフォンから可井君に頬擦りをしている。
「もう、くすぐったいってば!」
「クルルル」
なんとも微笑ましい光景だろう。僕も真似してみよう。
「おいで、ヒヨコ!」
「ピヨ?」
「おいでヒヨコ!」
「ピヨ」
「こいヒヨコ!」
「ピヨッ(プイッ)」
「あはは、もう、ヒヨコったら。 ……焼き鳥にして食べるぞ」
「ピヨー(僕の肩にちょこん)」
「あっはっは、もちろん、冗談だよ?」
言うことを聞いているうちはね。
……っと、こんな茶番やってる場合じゃない。
彼のブラジャーは……、うん、もう透けてない。
「じゃぁ、可井君、また学校で」
「……はい、また学校で」
あれ、今一瞬顔を曇らせたような……?
「どうかしたの?」
「い、いや、なんでもないです! ではまた!」
彼はグリフォンに乗り、超スピードで空に舞い上がった。
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