第2話 ショッピングモール


……迷った。


 バスを利用し、三十分程かけショッピングモールに辿り着いた僕たちは、とりあえず回ってみようとぶらぶらしていたのだが……。いつの間にか他の二人はいなくなり、僕一人になってしまった。


 慌てるな僕。僕はもう高校生で、小さい頃と違っ連絡手段も持っているんだ……!

 不本意だが、合流するために電話をかけることにした。

 プルルルル、と電話をかける。

 すると、2コール目で繋がった。


『どうした、迷子』

「迷子じゃないわ! ………ちょっと道に迷っただけだよ!」

『世間一般ではそれを迷子と言うんだが………、そうだな。周りに何が見える?』


 僕を誘ってくれるようだ、このショッピングモールによく通っているようだし。ここは彼にまかせてみよう。


「うーんと、服屋さんがたくさんある」

『あぁ、そこか、そうだな…… 近くにエスカレーターがあるだろ?』

「エスカレーターっと、うん、あったよ」

『そのエスカレーターで上がって、まっすぐすすめば……』

「進めば?」

『右手に迷子センターがある』


 目頭がじんわりしてきた。


「………」

『あっはっはっは』

「ぶっ○してやる!」


 こいつ、人の揚げ足をとり、ここまで愚弄するとは! ゆるすまじ!


『エスカレーターをのぼって待っててくれ、迎えに行ってやるよお子様』

「一言多いよ!」


 プツっ

 くっ、正直気に食わないけど……、背に腹はかえられない、認めたくはないけど、実際に僕迷子になってるし。

 目的地に向かい始めようとした時、ふと目を奪われた。

 ぱっと見男性にも女性にも見える顔立ちに、透き通るような白い肌、片程度まで伸ばしている艶のある髪、そして……我が校の女性用制服を着ている。

 可愛い子だなぁ、あんな子が同じ学校に通っていたなんて……。

 だけど、僕みたいな底辺召喚士とは関わることはないだろう。

その可愛い子は、高級店で大きめのパーカーを買ったあと、ピンク色が目立つ『sweets』

という名前の女性用下着販売店に入っていった。

 ……って、なにしてるんだ僕は。

 目的はあくまで買い出しだし、こんなことしている場合じゃない。なにより、これ以上見ていると警備員さんのお世話になりかねない。

 エスカレーターに向かい歩いていると、ふと違和感を覚えた。


 ………あれ? 


 ついさっきまでポケットの中で寝ていたヒヨコがいない……。

気づかないうちにポケットから転げ落ちたのかな?、

 あんなでも一様は召喚獣だ。簡単なコミュニケーションは取れるし、放っておいても家に帰ってこれるだろう。

……でも、問題を起こされたらすべて僕の責任になる。まだ近くにいるだろうし、探してみようかな。

 トコトコ、ときた道を戻っていると……。


『ピヨピヨ』


 鳴きながら歩いているヒヨコを見つけた。


 ……先程の女性用下着店に入っていく姿を。


「………」


 まずいことになった。

 もし、ヒヨコを取り戻しに店に入った場合…… 見つかった時のリスクが大きすぎる。現在はインターネット社会、些細な情報でも一瞬で世界中に広まってしまう。

 ……奴には申し訳ないが、このままこの場を離れさせてもらおう。。

 Uターンし、待ち合わせ場所に向かおうと足を伸ばした時、重大な事実を思い出した。

 そういえば、同じ学校の生徒がこの店に入ったばかりじゃないか……!

 彼女が僕の召喚獣を知っている可能性がある……!

 この事実がある限り、僕の未来のため、ここから逃げ出すことはできない……!

 再び180度回転し、店と向かい合う。

 意を決し、店に侵入する。

 数々の死線(店員の視線)をマネキンを利用し掻い潜り、奥に潜入していくと……。

 見つけたっ! って、今にも更衣室に下の隙間から入ろうとしてる! 


「さ せ る かぁ!」


 叫びと共にダッシュし、全力で腕を振り翳す。

 受け身をとって体勢を立て直し、掴んだものを確認する。

 よし、なんとか捕まえた! もうこんな場所とはおさらば………。


 ………あ


僕の右手には、見慣れたヒヨコと共に、見慣れない水色のフリルがついた下着が握られていた。


「すごい音しましたけど、大丈夫です……か…… え?」 


 更衣室の中から、胸部分を服で隠している、下着姿の好がでできた。

 僕を見るなり、まるで氷漬けにされたように固まっていく。


「やぁ、好、ここにいたんだね、随分探したよ」 


 その氷を溶かすような暖かい表情で返答する。僕が慌ててしまっては、かえって相手を不安にさせてしまう。冷静な対応が重要だ。


「え?…… 勇気?」

「ん、どうしたんだい?」


 異常事態に頭がショートしているのか、僕が女性用下着販売店にいることに疑問を抱いていない、もしや、このままやり過ごせるのでは!


「ゆ、勇気はこんなところで何してるの?」

 …………。

「何って、下着を買いに来たんだけど……、ここは下着売り場であってるよね?」


 さぞ、この場所に居ることが当たり前のように振る舞う。


「そ、そうよね、ここにいるってことは下着を買いに来たってことよね、当たり前よね!」


 当たり前ではない気がする。


「好は下着専門店にいたんだね、てっきり冬至と一緒に行動しているのかと思ってたよ」

「その、せっかくショッピングモールに来たから、ついでに買っておこうと思って…… 成長しているかもだし……」

「うん、いい考えだね」


 一体僕は何の話をしているんだ。

 とにかくこの店から離れよう。大きい音を立ててしまったから、そのうち人が集まってくるかもしれないし、なにより好に申し訳ない!


「じゃぁ、僕は先に冬至と合流してくるね」

「うん、分かった」

「エスカレーター付近で待ってるから、ゆっくり選んできてね」

「うん、ありがと」


 ……あ、忘れてた。


「これ返すね」


 そう言い、好みの手にあるものを握らせた。

 →僕が握りしめていたフリルの下着


「こんなところで何をやってんのよ!!!??」

「やばい、正気に戻ったぁ!!」

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