第2話 オメェに教える錬金術なんぞねぇっ!



「オメェに教える錬金術なんぞねぇっ!」



 バタムっ! 


 ――散々罵詈雑言を浴びせ掛けられた上に乱暴にまた扉を閉められてしまった。


 …まあ、さっきみたいに敷地から蹴り出されないだけましだったな。


 だが、本日こんな事が20回以上も続くと流石に誰でも凹むだろ。

 ちょっとこの辺で大の男がガチ目に泣いていいッスか?

 いや、例え神が許さずとも俺が許す! 泣け!咽び泣け!!



「どうだ? やっぱりダメだったろ」



 俺がトボトボと紹介して貰った錬金術工房やそれに類する専門店全てから容赦なく門前払いされてギルドへ帰るとだ。


 ギルドの門前になんとキチンと身支度を整えた大きな豚さん・・・が。


 あ。違った…豚の如き頭をしたオッサンが仁王立ちで立って俺を待ってくれていたわけだ。



 ちょいと話を半日前ほど戻そう。



 俺は不法侵入を犯したせいで件の神々のサボりとやらに遭遇したとばっちりで転死(神的には転生とは別物らしーが)してしまった!

 その詫びとしてその神の世界…いわゆる異世界で新しい肉体を貰って新しい第二の人生をスタートするハメになったのな。


 おニューの身体の心地はどうかって?


 それが意外にも大した違和感もないんだコレが。

 …まあ、強いて言えば肌の色がちょいと灰色っぽいのと手足が小さくなって背が縮んだ気がする・・・・ことか?

 でも、俺の元のボディを抹消しやがった神の奴が言うには同年齢程度の器を用意するって言ってたから問題ないだろう。


 所持品は神から貰った餞別・・が一つのみだ。

 一応、ちゃんと服を着させてくれてただけの優しさはあって助かったぜ…。


 俺はその餞別品を改めて背負うと周囲を見渡してみる。

 ボチボチと人が近場を行き来していたので、いきなりハードモード待ったなしのホット・スタートならぬデッド・スタートにならないことに心から安堵したもんだ。


 そういや、俺と同じく消された他の仲間達はどうなっているのかと今更ながらボンヤリと考えながら人の多い方に歩いて行くと直ぐに大きな建物が道の先に見えた。

 どうやら街道っていうかもう村の一部みたいな場所に既に居たっぽいな。

 草原めいた広さの畑ばかりで家屋が少なく、俺が村と認識できなかっただけか。


 いや、その建物。

 建物じゃなくて壁だった。

 城壁ってヤツかな。

 ファンタジーじゃありふれてる代物なんだろうが、異世界どころか、某ランドにも行った事が無かった俺はただその巨大さに終始圧倒されるばかりで呆けるしかなかったわけよ。


 その城壁に寄せてテントを張ってる行商人っぽい連中からクスクス笑われて恥ずかしかったが…仕方ないだろ! 今日が異世界初日なんだぜコッチは?



「灰色の肌…異民族、流民、他所の大陸からってところか」


「身分証か入市税を払えるか?」



 おお! ちゃんと言葉が通じる。

 良かった…異世界初心者も安心だったみたいだな。


 俺は何となくフラフラとその城壁内に入ってやろうと思い、検問待ちの列に並んだだけだが。


 身分証? 入市税?

 んなもんねーよ。



「身分を明かすものも持たず、一文無しと来たか…」


「滞在は許可しないが、一応銀貨7枚さえ納めれば要塞内には入れるんだがなあ」



 俺を困ったような顔で見下ろしながら頭をガシガシと掻く門衛。

 そんなこと言われても困っちゃうぜ?

 文句ならアンタ達の神に言ってくれよ、マジで。



「…いや、厳密に入れない事は無いんだが」


「おいっ」



 そう言葉を零すオジサン門衛Aに隣の別のオジサン門衛Bが眉を顰めた。

 え? 特に何も提示せず、払わずに入れるの?

 いいじゃん、ソレで!



「坊主…お前、此処をあの・・グリフォンヘッドと知ってそれを望むのか?」


 

 ふ~ん。グリフォンヘッドって名前なのか!

 結構いかつい名前なんだな?

 あ。それで城壁の角上っぽい所に鷲の頭が付いてたのかぁ~なるほどね。


 てか、流石にこの歳で坊主呼びはちょっと…カチンってよりはちくと恥ずかしい…。



「……はあ、それでも諦める気が無いなら仕方あるまい。付いて来い」


「おい。追い返した方が良い! どうせ檻送り・・・にされるぞ?」


「本人が望むんだ。まあ、ポーキーの旦那にお願いしてみるさ」



 …? よく解らんが、どうやら俺は問題無く中に入れるようになったようだ。


 あの頭を掻いていた門衛のオジサンが終始渋い顔でオノボリさん状態の俺をこれまた異世界じゃあ定番のギルドとやらまで連れてきてくれた。

 コレぞフェンタジーって展開だな! もしくは単なるテンプレ。

 ありがとうオジサン!

 

 後、そんなに頭が痒かったらたまにはシャンプーしたらいいぞ?

 異世界でもシャンプーくらいあるだろう流石に…アレ? ないか?

 それは俺が困るな……ま。何とかなるだろうさ。


 俺は背中にあるものを意味有り気に後ろ手で軽くさすった。



「では、旦那。お願いします!」


「…………」



 ギルドって言えば冒険者ばかりのムサイ場所を想像してたが、結構綺麗だった。

 そのギルド“ホワイトライオン”という所はこのアペル公国(どこ?)最大級の要塞である城塞都市グリフォンヘッドでは古参のギルドで最も信頼を置かれる良ギルドらしい。

 まあ、道すがらあの門衛のオジサンがそう言ってたんだがな?


 で。俺をバトンタッチで受け取ったっつーか、押し付けられた人物は何と何とだ!

 かの異世界種族代表格であるエルフやドワーフに並ぶオークだった。


 つーかデカイ。普通に体感3メートル近くある。

 後、オークは緑色って勝手に想像してたけど普通に肌色だったわ。

 それにちゃんとスーツ?(貴族っぽい仕立ての服)も着てる。

 彼がそのポーキーの旦那で間違いないらしい。

 なんてこったい! 喰われる!?



「フン…! 俺がホワイトライオンのポーキーだ。チビ助、お前名前は? それと齢は幾つだ?」



 お、おおぅ…坊主からチビ助にランクダウンかよぅ。


 いやいや、俺ってば成人男性ハタチですよ?

 それと名前はチェリオと名乗った。


 あの神が言うには前の世界の名前を使うと神の定めた法に触れるとか何とか…。

 後は単なる俺の渾名が“チェリ夫”だったからだ。


 何で? 言わせんな恥ずかしい…。



 でも、初の自己紹介虚しく……めっちゃ睨まれました(泣)


 何でよ? 確かに日本人は外国人から見たらベイビーフェィスだとかよく言ってっけどさあ~…。



「一文無しの身でよくもまあこの要塞にノコノコ来たもんだ! その根性だけは褒めてやる。だが、この要塞は乞食を壁の中に置いておくほど甘い場所でもないわな。どうやって日銭を稼ぐ気だった?」



 俺は今度こそ自信満々に背中のものを前に出しこう答えたやったね!



 ――俺は錬金術師! ポーションを作って生計を立てるんだ!!


 …ってな。



 そしたら……さっきの三倍くらい怖い顔で睨まれました(泣)

 ちょっと漏らしました…(正直)



「はあ~。俺はそっち方面錬金術はまるで素人だがな? 少なくともそんなちっぽけな小鍋・・一つでどうにかなるもんじゃねーってことだけは判るぜ。…悪いことは言わねえ。そもそも錬金術なんて難儀なモンに手を出す方が馬鹿だ。お前にはポーションクラフターになるなんぞ土台無理な話さ? 止めて故郷に帰った方が身のためだぜ」



 ……どうやら単に強面オークって訳じゃなく俺を心配してくれてるようだぞ?

 

 けど、小鍋て。

 ソレって一応はアンタ達の世界の神様から貰ったチートアイテム的な代物(のはず)なんだけど?

 恐らく、何とかこう…なし崩しにどうにか…なる? と思うぞ?(無計画)


 俺が意思をどうにも曲げる気はないと察したのか、渋面デカ溜め息オークがギルドのカウンターに詰めていた女性職員に話し掛けて何か持って来ると俺の顔に放り投げた。



「錬金術って学問は全く以て荒唐無稽の如しだが、商売ってなると割と手狭い業界だ。…特にこのグリフォンヘッドは、な」



 …どうやら地図と住所が記載された丸められた紙束だった。

 しかも、そのどれもが錬金術関連のもののようだ。


 ポーキーはドカリと長椅子に実に重い腰を降ろして煙草に火を点けた。



「フゥ~……残念だが、チビ助。ポーションで満足に商売するにはある程度の知識や度量よりも、それなりに肩書き・・・なんてものが必要でな? その渡した紙束のどっか一つでもお前を引き取って面倒見てくれる場所を見つけてきな。…まあ、端から無理だとは思うが。後、陽が暮れる前にはギルドに帰って来いよ。いいな?」



 ……………。



 

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