第10話 鬼蘭

 入ってきたのは、背の小さい子供だった。

 多分150センチもないと思う。


 7分袖に、膝くらいまでのハーフパンツのような昔見たアニメに出ていた中国人の女の子キャラが来ていたような赤い服を着ている。

 前を留めている金の組みひもが何とも派手派手しい。

 

 その子があたしを見て小走りに駆け寄ってきた。勝ち気な目があたしを見上げる。


老士せんせい、俺は鬼蘭クィランっていうんだ」

「ああ……はじめまして。あたしは柳原伊澄」


「なあ、老士せんせいは五行の道術が使えるって本当か?」


 なれなれしい口調だけど不思議と失礼な感じはしない。

 頬や袖からのぞく肌には赤い隈取りをしていて、目も赤い。赤みがかった髪を後ろで結っていて、左の額から短い角が生えているのが分かった。


 人間じゃないのかな、と思ったけど、羚羊みたいなのも居るんだから、いても不思議じゃないのかもしれない、となんとなく納得した。

 エルフとかみたいな妖精族もいたりするんだろうか。


 顔立ちは整っている。

 服装は女の子みたいだけど、やんちゃな口調は男の子のようでもあり、性別は良くわからない。


鬼蘭クィラン、控えよ!」

「黙れよ、腑抜け爺い、あんたには話してない」


 鍾離さんが一括するけど、鬼蘭クィランとよばれたその子が一転して辛辣な口調で言い返す。


「なあ、どうなんだ、老士せんせい

「ええ……多分、あたしにこの魔法をくれたお爺さんがそう言ったわ」


 期待に満ちたって感じの視線で、なんか勢いで答えてしまった。

 あのお爺さんが言っていた五行の道術、というのがこの子の言わんとしていものと一致しているかは分からないけど。

 鬼蘭クィランが嬉しそうに笑みを浮かべてあたしの手を取った。


「よし行こうぜ、老士せんせい。あんたがいれば西夷シャアイーとだって戦える。それに、こんな腑抜爺と話してたらあんたも腐った腑抜けになっちまうぜ」

「口を慎めと言っているのが聞こえんか、柳原道士に対して無礼は止めよ」

「戦いもしねぇでこんなところにグダグダ引きこもってるやつが何いってんだ、ボケ」


 かなり年長者相手だけど、鬼蘭クィランが一歩も引かずに睨み返す。


 なんとも険悪な感じで……あたしとしては居場所がない。

 仲がかなり控えめに言っても良くないのは分かったけど、あたしをそっちのけでケンカしてほしくはないんだけど。


 顔を布で隠した人は何も言わずに黙って成り行きを見ている。

 ていうか止めてほしい。 


「はいはい、お取込み中失礼しますよ」


 気まずい雰囲気の中、外から声がかかって部屋にもう一人入ってきた。



◆ 祁 祁 祁 ◆



太婀ディア


 鍾離さんがほっとしたように男の人を見る。誰だかは知らないけど、あたしとしても空気を換えてくれる人が来てくれたのはありがたい。

 

 入ってきた男の人を見る。

 身長は180センチは超えているだろう。年は30後半くらいって感じだろうか。


 癖のある黒髪を髷のように後ろで結い上げている。日に焼けた顔つきは精悍でベテランのスポーツ選手みたいな雰囲気だ。

 ただ、薄笑いを浮かべるような口元がなんか愛嬌がある。


 カンフー映画でみるような簡素な服を着て、手首と足首を布で纏めている。動きやすそうな感じだ。体を鍛え上げているのはその服越しでも分かる。

 体を交差するように飾り帯を締めて、その飾り帯の背中側には長い剣を担いでいるのが見えた。肩口から剣の柄が見える。


 その人があたしを見て胸に手を当ててすっと頭を下げてくれた。 

 なんとなく空手とか剣道の試合開始の時の礼を思わせる雰囲気だ。背中に担がれた剣がそういうイメージを生んでるのかもしれないけど。


鬼蘭クィラン

「……大哥哥アニキ


 男の人が鬼蘭クィランの前に立って見下ろした。何か言いかけた鬼蘭クィランが口を閉じる。


「こんなところで暴れて道士殿にあきれられたらどうするんだ?恥をさらすのはよくないぞ」


 剣を背中に担いだ男の人が言う。太婀ディアっていう名前らしい。諭すような穏やかな口調だけど、有無を言わせない迫力をあたしでも感じる。

 鬼蘭が舌打ちして床を軽く蹴った。


姐姐ねえさん、あとでまた来るからよ」


 そういって鍾離さんを一にらみして鬼蘭クィランが出て行った。


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