Ⅰ - 4 頑張ります。
「今年の球技大会、めちゃくちゃ楽しみだな!」
さっきまでも十分元気に響いていた絢芽の声がさらに轟く。周りの生徒たちもチラチラこちらを見ている。絢芽はそんな視線は気にせず、私をまっすぐ見つめる。
「今年も一香はバレーボールで出るんだろ!?」
絢芽の期待は読むまでもなくこのことだ。
「まだ先のことですから、考えていませんけど……でも、みんなが望んでくれるなら、そうするつもりです」
私は絢芽の圧に負けたわけではなく、あくまでも自分の意思で、そう選択していると思ってもらえるような態度で振る舞う。
「あ、そっか。去年バレーの決勝で一香のチームと戦ったの、絢芽のチームだったわね」
穂垂が記憶を探るように顎に人差し指を添えて呟くと、時雨もぽんっと手を叩く。
「そうそう! あのあとしばらく運動部からの勧誘が絶えなかったんだよね」
「ええ。その中で一際熱く勧誘していたのが絢芽で、勧誘はお断りしましたけど、それがきっかけで仲良くなったんですよね」
「おう! 運動部じゃないのにあの身のこなし。この身体能力は只者じゃないってウチの全細胞が騒いで、居ても立ってもいられなかったんだ!」
微笑みかけると、絢芽は今でも細胞が騒いでいるんじゃないかと思うほど力強く語ってくれる。その熱に煽られた穂垂と時雨も口調が熱くなる。
「あのときの一香すごくかっこよかった。クラスメイトみんな一香に惚れてたもん。味方としてこの上なく頼もしかった!」
「あの逆転劇にはあたしも敵ながら惚れ惚れしたよ! あのドラマをつくったのは、間違いなく一香の諦めない心と、それが生み出した強烈なサーブだったよねー」
きらきらと輝く瞳で、三人は私のことを見てくれている。
「もう、三人とも言い過ぎです。私はただ、クラスの力になれるように必死にやっただけですよ。先生の奢りの焼肉もかかっていましたし」
謙遜しながら最後にオチをつけると、三人とも笑ってくれた。
「そう言えばそうだったね。あれは人生で一番美味しい焼肉だった!」
「いいなー。あたしも先生のお金で焼肉食べたいよ」
「安心しろ時雨。今年は焼肉確定だ。なんてったって––––」
言葉を溜めた絢芽は力強く私の背中を叩いた。
「ウチらがいるんだからな! 優勝は確定だ!」
絢芽の宣言に二人は暖かな笑みをこぼす。
「そうね。楽しみにしているわ」
「あたしも二人の活躍超楽しみ!」
「おう! 任せとけ! な! 一香!」
また、三人の煌めく瞳が私に向けられる。
花の香りは三人のものが合わさって、とても華やかになっている。色とりどりの花束のよう。
私はその花束を胸の中で抱きしめる。
それはきっと、私が三人から見てもらえている証しだから。
嬉しさと安寧を噛み締めつつ、自分の気持ちを今言うべき言葉に変換する。
「ええ、そうですね。みんなの期待に応えられるように、頑張ります」
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