Ⅰ - 1 新しいクラス。
麗らかという言葉を自然と使いたくなる四月の今日は、始業式。高校二年生が始まる日。
一年間通い慣れた道を、私は少しだけ引き締まった心持ちで歩く。
穏やかな風に肩下辺りまで伸びた私の黒髪が旗のように舞う。応援されている気分。
後押しに応える足取りで校門をくぐり、昇降口の掲示板に貼り出されたクラス分けを見る。
これから一年間を共にするクラスメイトと、今まで人間関係を築いた人たちが何組なのかを覚える。それからなされる会話を可能な限りシミュレートする。
あらかたできると教室に向かう。一度深呼吸をしてから、扉を開ける。
ガラガラと扉がレールを滑る音は、前学期までと大して変わらないのに、新学年の初日だと注目を集める。
「おはようございます」
私は道すがら過った麗らかという言葉が似合う笑顔を携える。
「あ、丹花ちゃんだ。おはよ!」「おはよう一香さん」「おっす丹花。今年もよろしくな!」
一年時から関わりのあった人たちが、男女問わず挨拶を返してくれる。彼ら彼女らと軽く会話をしながら、黒板まで移動して、自分の座席を確認して席に向かう。
「一香おはよー!」
私が指定されたはずの席には、先客がいた。
ミルクチョコレート色の髪をウルフカットにした小柄な少女、
「おはようございます、時雨。でもそこは私の席だと思うのですが?」
「そうだよ! 今年は一香と同じクラスになれたのが嬉しくて座っちゃった!」
ひまわりみたいな笑顔で私に喜びを伝えてくれる彼女は、中学からの付き合い。
「ふふ。そうですね。私も二年ぶりに時雨と同じクラスになれて、とても嬉しいです」
「本当だよー。一香と同じ高校行くために頑張っていっぱい勉強したのに、クラス別々になっちゃうんだもん。去年はこの高校に進学した意味なかったよ」
「それは言い過ぎなのでは……?」
「いいや! 言い過ぎじゃないよ! あたしがこの高校に進学したのは一香と青春を過ごすためなんだから、断固として言い過ぎじゃない!」
椅子に片足を乗せ、がたんと音を立ててまで強く主張する時雨。そこ私の席という指摘は、きちんと上靴を脱いでいたので、私は目をつぶってあげる。
「こら時雨。椅子に足を乗せないの」
だけど時雨の背後から来た、黒髪三つ編み+眼鏡という、真面目の具現化のような容姿の彼女は見逃してくれなかった。
「えぇ〜、靴脱いでるからいいじゃん。気にしすぎだよ
「だめに決まっているでしょう。そこは時雨の席じゃないんだし。それに時雨、スカートが捲れて中のハーフパンツが丸見え。あなたはもっと気にしなさい」
「はーい」
時雨は渋々椅子から足を下ろしてスカートを整える。
その様子を見て満足げに頷いてから、穂垂は改めて私に向きなおる。
「一香おはよう。今年も一香が同じクラスで安心した」
「おはようございます。私も穂垂と同じクラスで心強いです。色々よろしくお願いしますね」
「こちらこそ! よろしくね!」
穂垂は彼女の性格に似合わず童顔なので、笑うと小学生みたい。真面目さとのギャップも相まってとてもかわいい。背は時雨の方が低いので、ぱっと見どちらが子供っぽいかと言われると答えに窮するけど。
そんな穂垂から、花の香りが漂っていることに気がつく。
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