第19話 創造の力

『ブリスタ・パンチ!』


 合体ロボのパンチがコロニーゴーレムに当たる寸前に爆発的に伸び、破壊力を倍増させる。その一発でゴーレムの半分が砕けた。


 だが、それでも即座に再生する。


「うおおおお、チャーナレ! もういい、もういいんだ!」


 もはや勝ち目はない。


 スカークは叫んだ。


 それでもゴーレムは合体ロボに攻撃を仕掛けてくる。


「敵のゴーレム使いが音を上げるまで破壊し続けるしかないのか!」


 いくら巨大になって優位になったところで、ゴーレムが再生し続ける限りそれしか方法はないだろう。


「イェシカ!」


「はい! ヴァルムロディ様!」


「君の魔力探知でゴーレム使いの魔力の出所を探ってくれ! 俺の探知能力では引っかからなかった!」


「そんな、ヴァルムロディ様にできないのに私にできるわけが……そもそも魔力探知なんてやったことなどありません」


 いきなり無茶を言われて混乱する。


 だが、ヴァルムロディは言った。



「いや、君にならできる!」



 ずっきゅうううううん♡


 その言葉は、今まで変人扱いされ引きこもりになった少女の承認欲求を激しく燃え上がらせた。


「わかりましたわ!」


 成功した後にヴァルムロディにいい子いい子してもらえることを妄想したら、鼻血が出そうなくらいに興奮した。


 妄想とは端的に、ないものをあると信じる行為である。


 それはものでも技術でも才能でもそうだ。


 そして、その存在を信じる力が強いほどそれに近づくことができる。


 もちろん、近づいたとしても最終的にたどり着けないことだってあるだろう。もしかするとそうなることのほうが圧倒的に多いかもしれない。


 だけど、近づく。


 必ず近づく!


 イェシカはやったこともない魔力探知を試みた。ゴーレムを操る魔力はどこからきているのか。それがどのように流れてきているのか。これだけの大きなゴーレムを動かすには相当量の魔力が必要なはずなのになぜ探知できないのか。


 イェシカは精神を集中させた。


 ないものをないと信じるならば、ないものは永遠に存在しない。


 ないものをあると信じるならば、ある瞬間に生まれることだってあるだろう。


 妄想とはすなわち、創造である。


 その創造によって新しい未来が拓かれてゆくのである。


 そして、イェシカの中になかった能力が突然創造される。


「は!」


 イェシカの目に、いや脳に魔力の糸が見えた。


 城の敷地の奥にずっと広がる森の何千何万か所から微弱な魔力がゴーレムに向かって流れ込んでいる。これらが一か所に集まればこれだけ大きなものだって動かせてしまうだろう。


 そして、無数の微弱な魔力はもっと離れた別の一か所から供給されているのが見える。


「あそこです!」


 イェシカはモニターに映る森の一点を指した。


「よくやった!」


 合体ロボはゴーレムを破壊して動けなくしたところで、森のある場所に向かってビームを放った。


 爆発が起こった。


 同時にゴーレムは再生しなくなり、ただの土の山となった。



「うわああああああ! チャーナレ!」


 スカークはわかっていた。その爆発が起こったところにチャーナレがいたことを。


 慌てて爆発現場へ飛んで行く。


 降り立つとそこには、上半身が人間、下半身が蛇のラミアの女性がぐったりしていた。


 爆発のせいか、それともゴーレムを無理して操り続けたせいで力尽きたのか、いずれにしても完全に気を失っていた。


「チャーナレ、チャーナレ!!」


 スカークはチャーナレを抱きかかえたが返事はない。


 生きてはいるが呼吸も弱い。


 このままでは死んでしまうかもしれない。


 なのに自分には≪治癒魔法≫の能力はない。


 念のためにもっておいた回復ポーションを飲ませようとしたが、もはや飲み込む力も残っていない。


「うううう、誰か助けてくれ。チャーナレを助けてくれ」


 スカークは己の無力さに泣いた。


 その時、ざわざわざわと森がどよめき、見上げると上空に戦闘機がホバリングしていた。変形して足が生えると、そのままゆっくり着地した。


 戦闘機から下りてきたのはヴァルムロディたち三人だった。


「あ……あんたたちが合体ロボを動かしていたのか?」


 スカークは警戒しながら問うた。


「ああ、そうだ。そのラミアがゴーレム使いか?」


 見下ろして答えるのはヴァルムロディだった。


「魔力プリズム」


 その手には一つの黒い魔石が握られていた。魔力プリズムとよばれる魔力を屈折、分散させる石だ。


「ゴーレム使いの強大な魔力を一度探知できないほどに分散させ、森にばらまいた魔力プリズムで屈折させて改めて一か所に集める。超広範囲でゴーレムを操れるからこそできる芸当だが、まさかこんなやり方があるなんて考えもしなかったぜ。驚かされた」


 敬意を含んだ内容に反し、その声色は冷酷さが際立っていた。


「負けを認める! 頼む! 我々を見逃してくれ!」


 スカークは土下座した。


「なぜだ? 魔王からの命令とはいえ、散々この国を蹂躙しておきながらそんなことが言えると思っているのか?」


「わかっている。殺されて当然だ! 俺の命はくれてやる! だから、だから、このチャーナレの命だけは助けてやってくれ!」


「俺たちにとってはこのゴーレム使いのほうが脅威だった」


「こいつは俺の命令に従っただけだ! 命令に忠実なだけだ。俺が死ぬ前にもう二度とこの国を攻めるなといえば絶対に攻め込んだりはしない! だからお願いだ、チャーナレだけは殺さないでくれ!」


「もう死にかけているではないか」


 必死の命乞いにマクシミリアンやイェシカは心動かされるものがあったが、ヴァルムロディの目は冷たかった。


 そしてぐったりしたままのチャーナレに手をかざす。


「うわああああ! やめてくれぇ!」


 スカークは泣きながら止めようとした。


 だが、ヴァルムロディは容赦なく魔法を放った。

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