第16話 直撃

「お兄様!」


 城の見張りの塔から戦い全体を見渡せるイェシカはその攻撃が極めて危険であることが即座に理解できた。


 だが、何ができるというのか。


 すでにその光線はゴーレムさえも飲み込んでしまっていた。


 叫んだ次の瞬間には大爆発が起こり、数秒後にすさまじい爆風が襲ってきた。


 穏やかになった後にもう一度見ると、大量の煙が上がる奥に森の一部がえぐれてしまっているのが確認できた。


「あ、あああ……お兄様……ヴァルムロディ様……」


 その惨状にイェシカは青ざめるばかりだった。



「けーっけっけっけ! やったぞ! つぅいにやぁったぞぉぉぉぉ! 小型砲台も合体ロボも大爆発だぜ!」


 スカークは勝利を確信した。


「よくやったぞぉ、チャーナレ! お前なくしてこの勝利はなかった」


 遠くに潜むチャーナレにもその感謝は届いていた。


「さあ、ドラゴンどもよ。最後の仕上げだ。城を陥落させてやろうではないかぁ!」


 スカークはドラゴンたちのほうを見た。


「なぁ?」


 思わず驚嘆の声が出る。


 なんと、二十頭以上いたドラゴンが四頭しかいなくなってしまっている。


 下を見ると、ボロボロになったドラゴンたちが次々と墜落しているではないか。


 そして、相対していたはずの自動砲台は健在だ。


 さらにあろうことか、煙が晴れたら合体ロボさえも無傷で立っているではないか。


「な、な、な、な、な、なんでだぁー?」



「『ベクヴァム・ビーム』!」



 敵に当たれば殲滅し、味方に当たっても全然ダメージはないというあまりに都合のいいビームだ。


 なんと反対を見れば、かなり大きな砲台があるではないか。


 つまり、ドラゴンのさらに後ろからビームを放っていたということだ。


「なんだこいつはぇ? こぉんなでかいの、ロボから分離したのなんて見てないぞ!」


 スカークは理解が追いつかず混乱を極めた。


「簡単なことだぜ。ルンドストロム領の箱をこっちに呼び寄せただけさ!」


「それが、ビーム砲台になって攻撃したということか! だがルンドストロム領は大丈夫なのか?」


『巨大なゴーレムになった途端にあっちのゴーレムはすべて土に帰ったのだ。敵のゴーレム使いもこれだけのものを動かすにはあっちを放棄せざるを得なかったのであろう。つまり、二正面作戦はその時点で潰えたのだ』


 レットヴィーサの声がした。


 彼を通じて自分の領地の安全が判断できた段階で、ヴァルムロディは箱を移動させていたのだ。森での爆発はゴーレムが吹き飛んだ爆発だった。


「だ、だが! 合体炎はすでに放たれていた! 放たれていたのだぁ! そして気づいていなかった! ≪完全防御≫はできなかったはずだ! なぜ無事でいられた、なぜ無事でいられたぁ!?」


 驚きを隠せないのはスカークだけではなかった。


「すごいな、ロディ。君はこのロボに乗って戦うのは何度目だ?」


「ロボならば、これで二度目だ」


 ――なんだって?


 一度戦っただけであれだけの動きができるというのか? どれだけの才能の持ち主なんだ。信じられない。


 彼はとんでもない天才なのかもしれない。


 だけど、弱音を吐くわけになんていかない。


 自分は王子として、天恵を持って生まれた者としてこの国を守らなければならないのだ。


「いくぜ、マックス!!」



「うわはぁー! お兄様、生きてた! すごいわ、合体ロボ!」


 イェシカはぴょんぴょん跳ねて喜んだ。


 こんな明るい王女を初めて見て、学者も心がぴょんぴょんした。


「すごい力です。あの合体ロボは。文献に載っていた記述よりもすごい」


「それはそうでしょう。二千年前に文字があったかどうかも怪しいし、その戦いを見ていた人がいるのかもわからないし。だから、あなたはこの戦いをしっかりと記録して未来に残すのよ。お兄様の活躍を永遠に残すのよ!」


「はい、わかりました!」


「私も本当に勇者の末裔なら、あのロボに乗れるのかしら?」


「たはははは、それは私にもわかりませぬ」



 スカークが魔王から受けた指令はこの国の王都を叩き潰すことだった。これまでの幹部たち以上の戦果は挙げているはずだが、城を落とせなかったという結果で終われば評価は変わらないだろう。


 そして、大切にしてきたドラゴンのほとんどを殺されてしまった。


 彼は新たな決断をした。


「おのれ合体ロボめ……奴だけは絶対に許さん。チャーナレ、最終形態に遷移するぞ!」


 チャーナレはその指示を正確に受け取った。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……


 またしてもゴーレムが再生してゆく。だが、今度は何かが違う。


 生き残った四頭のドラゴンがゴーレムに突っ込んでいく。それは砕け散ってしまったと思うほどの勢いだったが、すべてがゴーレムの中に飲み込まれていった。さらには、死んでしまったドラゴンさえも取り込んでいく。そしてぐにょぐにょとうごめいたかと思うと、ゴーレムは変形し、両肩、腹部、頭部、脚部、あちこちからドラゴンの顔が現れ、背中から無数の羽が生えた。


 大きさは五十メートルを超え、合体ロボの倍以上になった。


「なんてまがまがしい……」


 見た者は皆そう思った。


「頭の数が多すぎる。これは……単純にドラゴンがゴーレムに埋まったというわけではなさそうだ」


「ドラゴンを吸収し、ゴーレムの力に変えたということではなかろうか」


 その推察はマクシミリアンを戦慄させた。


「ということはもうあのドラゴンたちは……」


「元に戻ることはできないだろう……」


 スカークはすでに覚悟を決めていた。


「けけけけけ……かわいいドラゴンたちを集合させたコロニーゴーレムだ。このゴーレムが崩れたときにドラゴンたちの命はもうないが……個ではない、集合の力と味わうがいい」


 魔王の目的を達成するためには大切に飼いならしてきたドラゴンさえも犠牲にする。その声からはさっきまでの高揚が消え、暗黒の狂気をはらんでいた。

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