第14話 伝説の合体ロボ

 妄想と行動力こそが世界を変えうる。


 ≪妄想力≫の天恵は、そこに行動が伴ったことで古代遺跡にかけられたセキュリティコードを書き換えてしまった。そしてそれは、ヴァルムロディとマクシミリアンの天恵をも合体させた。


 ズゴゴゴゴゴゴ!


「ぎゃー! なにー?」


 国王は泣き叫んだ。


 それはそうだろう、城がいきなり揺れ始めたのだから。


 そして、ぼこぼこと音を立てながら城の外周の地面があちこち隆起し始める。そこからいくつもの箱が飛び出してくる。


「とう!」


 なんとマクシミリアンは見張りの塔から飛び降りてしまった。


「きゃー! お兄様!」


 だが、彼の肉体は稲妻のような光に包まれたかと思うと落下速度は穏やかになり、さらに浮遊した。同様に森からも光に包まれたヴァルムロディが何かに導かれるように浮き上がってきた。


 二人は同じ光を放ち、そこへ地面から湧き出た箱が集合していき、包み込んでいった。


 箱の集合体は変形、合体しながらみるみると人型に変化してゆく。


「うおおおおおおおおお!!!! 超合体!」


 そして完全に人型になると、かっこいい決めポーズを取った。


『合体勇者ロボ、ヴァルムヴィーサMAX!!』


 コクピットが明るくなると、ヴァルムロディとマクシミリアンは上下二段のシートにそれぞれ座っていた。


「これが合体ロボ……」


 上のシートに座すマクシミリアンの声は感動に打ち震えていた。


「これで敵を迎え撃つことができる」


「ロディ、ダメージは大丈夫なのか?」


「ああ、この兜をかぶったらみるみると回復していったぜ。しかも王都だからなのか、箱の数が俺のところよりも圧倒的に多い。この合体ロボはめちゃくちゃでかいぜ!」


 敵のドラゴンが頭から尾の先までで二十メートルはあると思われるが、それと同じかもう少し大きい。翼をもつドラゴンが細身なのに対し、合体ロボは逞しさと重量感があり見た目にも優位性がある。


「お兄様は? お兄様はどこ?」


 箱の中に取り込まれた兄をイェシカは心配していた。


「イェシカ、安心してくれ。私はロディと共にこのロボの中にある」


「お兄様の声が聞こえますわ。ヴァルムロディ様と一緒に戦うなんて夢のようですわ」


「ああ、私が上で、ロディが下でやっている。見ていてくれ!」


「お……お兄様が上で、ヴァルムロディ様が下になってやってる……そ、そうなのですね。ぐふ、ぐふ、ぐふふふふふふ……」


「ど、どうしたのじゃ、イェシカ……?」


 謎の妄想に耽り始めた王女に周囲はドン引きした。



「ぎょえええええええ! なぁんじゃそりゃあ!」


 スカークは目が飛び出さんばかりに驚いた。


 合体ロボの勇壮な姿に一瞬敗北の予感さえした。


「けええ! 焼ぁき払ってやるぅ! やれぇ、ドラゴン!」


 その不安を振り払いかのように命令し、三十頭のドラゴンが一斉に巨大ロボに炎を放つ。


「≪完全防御≫!!」


 すべての炎が異次元に吹っ飛ばされた。


「ちいぃ、やぁはり≪完全防御≫の能力は残ったままかよぉ」


 追い詰められたような言葉を吐きつつもスカークの目に失望はなかった。


「このスカーク様がぁ、合体ロボとの対決を想定してなかったとでも思うかぁ?」


 スカークは森のずっと遠くを見た。


「チャーナレ!」


 声なんて届く距離ではないのに森に潜むチャーナレという名のラミアの女性は確かにその意図を受け取った。


 次の瞬間、森がぐわっと盛り上がったかと思うと、合体ロボの前にそれを上回る大きさのゴーレムが現れた。



「なんてでかさだ!」


「このゴーレム使いはとんでもないぞ!」


 そのゴーレムがパンチを繰り出してくる。


「≪完全防御≫!!」


 異次元の渦がパンチの力を吸収する。しかし!


「ぐわああ!」


 合体ロボは吹っ飛ばされた。


「バカな! ≪完全防御≫が通じないというのか?」


「いや、違う。奴の拳のエネルギーはすべて異次元へ逃がすことができた。だが敵が大きすぎてパンチで踏み込む足のエネルギーまで消すことはできなかった。殴られたというより、敵の体重を浴びせられたような形だ」


「相手がでかすぎると想定外のことが起こるということか」


「ああ、同じ攻撃なら足下のエネルギーを飛ばすことを考えた方が良さそうだ」


「その前にこっちが敵を倒せばいいさ!」


 合体ロボの防御はマクシミリアン、攻撃はヴァルムロディの担当だ。


「出でよ、『ミョルニル』!!」


 腕の一部が変形して大槌になる。


 そのまま叩きつけると、激しい雷撃と共にゴーレムを打ち砕いた。


「やったか!」


 たしかに砕け散った。だが、そもそもが土や岩石の集合体に過ぎないのだ。再度集合して新たなゴーレムができるだけだった。


「これは……敵のゴーレム使いを探してやっつけるしかないということか? しかし『魔力探知』をもってしても見つけることができんとは。敵はかなりの使い手のようだ」


「向こうも私がくたびれるのを待っていたんだ。あるいはこっちもゴーレム使いが疲れ果てるまで壊し続けるか?」


「ちいっ。ロボになっても消耗戦になってしまうとは……」



「こ……これは一体?」


 見張りの塔に駆け上がってきた中年の男は、国王お抱えの歴史学者だ。


「あなた、知ってるの?」


 いつも引きこもってばかりで顔もまともに合わせようとしないイェシカ王女に話しかけられて学者はちょっと喜んだ。


「あれは二千年前に魔王を倒したという鉄の人型では?」


「おそらくそうよ」


 まともな返事が返ってきて学者は幸せそうだ。


「ということは、二千年前の伝説は事実だったということではないでしょうか」


「伝説って何?」


「伝説によれば、魔王を倒した勇者は五人。その五人が合体して一つの人型となって魔王と戦ったというものです。人間が合体するなど考えられませんので、この伝説は作り話だとされていました」


「そんな伝説があったのね」


「あまりの荒唐無稽さから誰も信用せず、言い伝えられることもなく、古い文献にわずかに残るのみですが……」


 学者はゴーレムと戦う人型と、いつもと様子が違う王女にこれまでにない興奮を覚えていた。

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