第12話 知略

「けーっけっけっけ! どぉだ、このスカーク様の策略は!」


 ドラゴンを操る竜人は小者感あふれる笑みを浮かべた。


「かぁつて魔王様を倒したという合体ロボが現れたらしい。だからルンドストロム領と王城の同時攻撃でロボの出撃を封じてやぁったぜ! あぁとはドラゴンと投石の飽和攻撃を続けていれば、≪完全防御≫のマクシミリアンは疲れきって城は無力化されぇる! その時にこの城を攻ぇめ落としてやればよぉいのだ! けーっけっけっけっけ!!」


 竜人スカークは魔王の配下の一人であるが、活躍の機会に恵まれずその能力に比した評価を受けていなかった。


「こぉの地域こそあの憎き合体ロボが眠るところ! 魔王様は早々にこの城を陥落させたいという意向を示された! だぁが幹部たちはすべて≪完全防御≫の前に屈した!」


 それゆえに彼はこここそが好機と自分の能力を最大限に発揮できる作戦を立案し上奏した。その過程で幹部たちと一悶着あったが、成功すれば性格の悪いあいつらをごぼう抜きで追い越す出世となるだろう。


「この二正面飽和作戦という壮大な攻撃はスカーク様にしかでぇきんのだぁ!」


 彼の天恵は≪竜使い≫。


 これだけの数のドラゴンをこれだけの数操れるとなるともはや最上級の竜使いといえる。


「さぁ、ドラゴンどもよ! 攻撃を絶やすんじゃないぞぉ!」


 誰もいないのに裏返った声で現状を熱弁するスカークは、すでに勝利を確信して高揚していた。



「くうう、交代で火を吐いてくるから、攻撃が休まることがない!」


 野心に燃えるスカークの戦略は目論見通り、マクシミリアンを追い詰めていた。


 通常ドラゴンは全力で炎を吐いたら数分の休憩をしないと次が放てない。しかし、三十頭もいれば誰かが休息している間にほかの者が攻撃できる。しかもその攻撃に規則性がないから三六〇度全方位に注意を払う必要がある。


 一定以上近づいてくることがないからまだ対応できるが、闇からの投石にも意識を割かれるとなると、わずかな時間でもみるみると彼の精神を削っていった。


「ひいいい、ドラゴン怖いよー!」


 さらに父親の国王が負担を強いてくる。


 そのころ、ヴァルムロディは城を囲む森にいた。


 この森のどこかから敵が岩を投げつけている。


『熱探知』


 動物の体温を探知する魔法だ。あれだけ大きな岩を投げるということは何頭かの魔物が協力して準備していると考えられる。ある程度集合した熱源を探す。ただし、ゴーレムやリヴィングデッドのような体温のない魔物だとこの方法で探すことはできない。


 見つかるのは獣の熱反応だけだった。


『魔力探知』


 魔法で岩を飛ばしているならかなりの魔法使いだ。あるいはゴーレムがいたとすればそれは魔力によって動いているので、少なからず反応があるはずだ。


「む、あれは!」


 森の中のあちこちで微弱な魔力が集合しているのが見えた。


 ヴァルムロディは飛翔魔法で一瞬にしてそのうちひとつの地点に到達した。これだけの速度で移動できるのはレットヴィーサをまとっているおかげだ。


 そして、その場所には十体ほどのゴーレムがいた。


 土に魔力を流し込むことで人の姿になり使役することができる。ある種合体ロボと似ているが、知性を持つことや機動性において圧倒的にロボの方が優れている。


 反面、優秀なゴーレム使いになると何千体と同時に操ることができる。


 まさに五体が投石機に乗り、変形・結合して巨大な岩石になろうとしていた。これを城に飛ばそうというのか。


「させるか! 『スティルヴィング』!」


 鎧の一部が変形し剣になった。そのまんま突っ込むと岩と投石機は粉々に砕けた。


 ゴーレムの動き自体は緩慢だ。


 残りのゴーレムも粉砕してこの場は片付けることができた。


 しかし、このような反応は森全体で無数にある。


 すべてやっつけていても時間の無駄になるだけだろう。


 その元となるゴーレム使いを探してやっつけねばならない。――が、この魔力の源は探知できないでいる。


 少なくとも言えることは、ゴーレム使いは能力が高いほどより多くのゴーレムをより遠くから操ることができるが、複雑な行動は近くにいなければできないということだ。


 ルンドストロム領の襲い方はレットヴィーサの情報によれば数こそあれ単調なようだ。つまり、ゴーレム使いはこの城に近いところにいるということは間違いないだろう。


 その推測に基づいて次の投石機を探知しようとした瞬間、無数の岩が降ってきた。


「なんだと?」


 もちろんこれをかわすこと自体は難しいことではない。


「俺の位置が正確に知られている!?」


 次々と岩が飛んでくる。


 ヴァルムロディは視界を確保するため、飛翔魔法で森から空へ出た。


「ぐわああああ!」


 その瞬間を狙い打たれた。


 ドラゴンの炎が彼を焼いたのだった。


「ロディ!」


 その瞬間がマクシミリアンの視界に入り、一瞬集中が途切れる。


 そのわずかな隙が防御を遅らせ、炎が城を焼く。


「しまった!」


「うぎゃー! 城が……城がぁー!!」


 泣きわめいて暴れる国王にマクシミリアンの集中力はますますかき乱される。


「けーっけっけっけ! さあ、さあ、さあ! 綻び始めたぞ、ほぉころぉびはぁじめぇたぞぉー!!」


 スカークは高らかに笑った。



 城のダメージの振動は地下のイェシカにも伝わっていた。


「この揺れは……まさか、お兄様が!?」


 絶対的な強さを誇ってきた兄が負けるなんてことは想像したこともない。だからこそその予期はこれまでにない不安となって彼女を襲った。


「どうしよう、どうしよう」


『呪文が違います』


 見当違いの返答が壁から返ってくる。


 だけど、今の心のよりどころは同じ言葉しか返さないこの壁だった。


「ねえ、どうしたらいいの!?」


『呪文が違います』


 兄が負けたら……兄が負けたらどうすればいいかわからない。


「お願い、お兄様を助けて!」

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