第8話 勇者の力
「三分だ。長々とやっても飽きてしまうだけだ。三分以内に攻撃を当てよ」
どうも刺激に飢えているようにしか見えない。真面目に政治をやれているのだろうか。
「ひとつだけ確認させていただきたいのですがよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「もし時間内に攻撃を当てることができなかった場合、私はどうなるのでしょうか」
「はっはっは。別に負けたからといって命を取ることもあるまい。力もないのに魔王を倒すなど認められんというだけのことだ」
つまり国王にとっては魔王を倒すことよりも、政治的な不安要素を消すことの方が重要らしい。魔王を倒せる見込みがないならそれも仕方ないとも思えるが、ヴァルムロディには頽廃的な考え方に映った。
「だが、わざわざワシらを呼び出しておいて失うものもないというのは、これもつまらん。だからこうしよう。そなたが負ければ後ろにおる侍女をワシがもらおう」
「なんですと?」
「国王の貴重な時間を奪うということにどれほどの代償が必要なのかしかと考えよ。もちろん、すでに戦わぬという選択肢はなくなっておるがな。ぐははははは!」
レットヴィーサを失えば勇者としての力が発揮できなくなるだろう。
だが、やるしかない。
「ヴァルムロディ、あなたの天恵を教えてください」
「≪合体勇者ロボ≫」
「なんですかそれは。聞いたこともない」
マクシミリアンは余裕の笑みを浮かべた。≪完全防御≫という能力は本当に無敵の防御力を誇るのだろう。かといって、こちらも際限なく攻撃力を高めればここにいる人が無事だったとしても城や街を壊してしまうかもしれない。
どうやって勝ちにつなげればよいのだろうか。
「むふふふふ。もらった侍女は好きにさせてもらうぞ」
国王の下卑た笑い声が響く。
謁見の間の中央に移り、王子と対峙する。
「私の天恵を発動させていただいてもよろしいでしょうか」
「なるほど、戦う前に準備しておくタイプの能力なのですね。あなたの天恵を見ることが目的なのだ。是非そうしていただきたい」
「うしししし。かまわんぞ、かまわんぞ」
「では失礼。『合体』!」
レットヴィーサはジャキン、ジャキンと変形し、ヴァルムロディを包み込んだ。
「合体勇者ヴァルムヴィーサ!」
箱が一個だけなのでただの鎧を身にまとったようにしか見えない。ただし、そのデザインは鮮烈かつ勇壮で美しかった。
「なんと……これは驚きだ」
マクシミリアンは目を見開いた。
彼だけではなかった。
国王は気に入った美少女メイドが音を立てて別の形に変わっていくのを見て、口をあんぐりとさせたまま固まってしまった。大臣の一部は泡を吹いて卒倒してしまった。
無機質なものが美少女に変化したなら心躍るものがあるが、その逆、美少女が無機質なものに変化するその破壊的衝撃は無防備な精神を粉微塵にしてしまっただろう。
「ま……まあいいでしょう。早速始めましょう。審判は軍務大臣にお願いします」
頭の禿げた軍務大臣が進み出る。
「では、始められよ!」
マクシミリアンは絶対的な防御力を誇る。が故に、ヴァルムロディの攻撃を見極めようとした。
「なに!?」
気づいたときにはヴァルムロディの手刀が肩を軽く叩いていた。
「攻撃を当てました」
ヴァルムロディは勝利した。
「申し訳ありません。王子の天恵を披露される前に勝負を決めてしまいまして」
「いや、私の認識をはるかに上回る速さで近づいたということだ。それにあの短い時間で勝手なルールから勝利を見いだしたのだ。君は勇者としての機知に富んでいる」
「ありがとうございます」
マクシミリアンは素直に負けを認めた。
「しかし、あの身のこなし。とても人間業とは思えないがどういうことなのだ?」
「私はこのレットヴィーサと合体することで常人を越えた能力を発揮することができるのです。そしてレットヴィーサは古代技術のロボと呼ばれるものなのです」
「なるほど。それで≪合体勇者ロボ≫というのか。古代技術と合体とは、希少な天恵だ」
王子が納得したところで鎧を解体して美少女の姿に戻る。
固まり続けていた国王も元に戻る。
「ふ、ふん! まあ勝負はお前の勝ちだ。だが、そんな鎧ぽっちで魔王など倒せるものか」
負け惜しみともとれる言葉を吐いた。
それが気に入らなかったのか、レットヴィーサは再び変形して箱と剣になった。
国王はとても悲しそうな顔になった。
「これだけではありません。もっと多くのこの箱と合体をすればより巨大なロボになることができます。そして、この世界にはまだたくさんの箱があると聞きました。それらを集めればより強大になり、魔王を倒すことも叶いましょう」
国王は眉間にしわを寄せた。
それは当然だろう。より強大であるほど自分の地位を脅かしかねない。
「父上、ご心配召されますな。このヴァルムロディは地上の平和を希求する勇者です。権力を求めて不穏な行いをするような愚か者ではありません。そして、彼に魔王を倒してもらわねばいずれこの王国も滅ぼされるとも限りません。父上の賢明な判断を期待いたします」
「ぬう……」
国王はしばらく考え込んだが、最終的には王子の意見を承認した。
「ありがとうございます、マクシミリアン王子」
「ふ、そういう遠慮した態度はやめてくれ。今から君は私の友人だ。王子なんていらない、マクシミリアンと……いや、マックスと呼んでくれ」
ヴァルムロディは驚いて言葉が出なかった。
「それから敬語もなしだ。いいな、ロディ。これは命令だ!」
「あ……ああ! よろしく頼むぜ、マックス!」
二人は固い握手をした。
(ああ、お兄様があんなに心を開いたお方なんて初めて見たわ!)
これまでの経緯を玉座奥のカーテンに隠れて見る人影があった。
くるくる縦ロールのこの少女はイェシカ王女、マクシミリアンの妹であった。
兄と同じくとても美しく育ったのに、人前に出ることを嫌う引きこもりコミュ障で、愛してやまない兄をいつもこそこそと観察し続けるストーカー気質の持ち主だ。
しかもかなりの腐女子で、自室はボーイズラブの同人誌で埋め尽くされている。そして美しきマクシミリアンがイケメンの男に辱められる妄想を小説にして書きためている。
(ああ、あのお方こそ、お兄様を辱めてくれる理想の男性だわ!)
端整な顔立ちの中に野性味を含み、目的意識の高い精悍な眼差しと張りのある声。
(男性を見てこんなにときめいたのは初めてですわ!)
カーテンの裏で「ぐひひひ、ぐひひひ」と気持ち悪い声を漏らしながら、よだれを垂らしてもんどり打った。
その夜。
イェシカはいつものように隠し通路から兄の部屋を覗いたところ、どうやら来客がいるようだった。
(……あのお方は!)
キュンと胸が締め付けられ、耳たぶが真っ赤になっていくのが自分でもわかる。
ヴァルムロディだった。
そして彼は兄に対してとんでもない、だけど素敵すぎる衝撃の言葉を放った。
「俺と合体してくれ!」
イェシカは鼻血を噴き出した。
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