第7話 王都での試練

『ヴァルムロディよ。しばし待て』


 城下町を囲む壁が見えてきたころ、レットヴィーサはバイクを止めさせた。


『魔法学校の教員によれば国王は反逆者が現れることを恐れておるようだ。この乗り物にまたがった姿を衛兵に見られれば怪しまれるのではないか?』


「見たこともない乗り物は警戒心を高めるだろうな。よし、ここから先は歩いていこう」


 そう決めたのはよいが、バイクを置いていくわけにもいかないし、レットヴィーサの剣もおそらくは警備対象に当たるだろう。


『となると、我が人型に変形して汝の随伴者として振る舞うのが適当であろう』


「なるほど、ではうまい具合に人間に見えるように変形してくれ」


 レットヴィーサがバイクに突き刺さると、ジャキン、ジャキンと音を立てて変形し人の姿になった。


「なんと!」


 ヴァルムロディは感嘆の声を上げた。


 なんとレットヴィーサはフリフリの美少女に変身した。


「確かに見事な人間の姿だが……ピンクの髪の人間などいるのだろうか?」


『だが、かわいいであろう』


「それは……君の趣味だということでいいか?」


『…………』


 レットヴィーサは答えなかった。



 国王のいるこの街は首都であり、平穏時であれば多くの人の出入りがあり、壁の門の前には長い行列ができているはずだが、魔物に襲われないよう人が出かけなくなったため行列なんて短いものだった。


 今まで通り人を通していたらすぐに暇になってしまうのか、衛兵に止められるとかなり厳重に荷物検査をされた。いや、それだけ国王が反逆を恐れているということか。


「名を名乗れ」


「私はルンドストロム侯爵が子息、ヴァルムロディである」


 このような場では「俺」ではなく「私」を用いて威厳を示すべきことはわきまえている。


「なんと、ルンドストロム様の」


 衛兵の顔が穏やかになった。


「魔王討伐について国王陛下と話をさせていただきたい」


「わかりました。で、そのお連れの方は? 侍女でしょうか」


 レットヴィーサのことである。


「私と合体する者である!」


 衛兵たちは愕然とした。


 そのまま門を通してもらい、ヴァルムロディは街の奥に悠然と聳える王城へと向かった。


「侯爵の息子、嫁もらったのか?」


「だったら嫁っていうだろ」


「婚約者か?」


「それだと絶対警備役もついてくるだろ」


「ってことは、訳ありかよ?」


「いいなぁ。あんなかわいい子と合体しまくってるなんて」


 衛兵たちは二人をうらやましそうに見送った。



『やはり合体する者というのはいささか伝わりにくいのではないか?』


「正しくなければならないが、端的に伝えられる言葉がなかったんだ」


『事実と多少異なっても侍女ということにでもしておけばよいのではないか』


「そうかもしれないな」


 人気のないところで変形し、フリフリの服からメイド服に替えた。


 城門に着くと全く同じような検査を受け、今度はレットヴィーサは侍女であると告げたところすんなりと受け入れられた。


 城内の待合室に通され三時間ほど待たされたのちに国王との面会が許された。この三時間をどう見るべきか。単に忙しいからなのか、あるいは警戒されているからなのか。


 ただ、どちらにしても自分は魔王討伐の許可を取るだけだ。


 そして為政者である以上、国王はそれを無碍にすることはないはずだ。


 謁見の間に通されると、赤い絨毯の先の玉座に国王が座し、その後ろには中性的な美しい人が立っていた。服装と髪の長さで判断するならば男性だ。その手前両脇に五名ずつ大臣クラスと思われる立派な服を着た男女が並んでいる。


 ヴァルムロディは錚々たる顔ぶれに臆することなく、堂々とレットヴィーサを連れて王の前まで歩き、敬礼の後にひざまずいた。


「ルンドストロム侯嫡男、ヴァルムロディよ。魔王討伐についての伺いとのことだが、これはどういうことか」


 国王に最も近い位置の大臣が尋ねる。


「そのままでございます。私は魔王討伐の旅に出たいと考えております」


「なるほど、そなたの救国の士としての意志、まことに見事である。しかしながらこの乱世にあって、そなたが本当に魔王を倒せるのか信じてよいものか、我々は判断しかねる」


 やはりエドガー先生の言ったとおりだった。直接的に反逆を考えてはおるまいかとは言わなかったが、今の言い回しはそのように捉えたほうがいい。


 国王の表情も硬く、歓迎されているような雰囲気ではない。


「可能であれば魔王を倒せることをお示しさせていただきたいと思います」


 力を示すということは、魔法なり剣術なりを披露することになる。しかし国王の面前で行うのは、ともすればその流れで命を狙うことも可能だ。認められるはずもなかった。


「大臣方、そう訝しまれずともよかろう。彼が魔王を倒す力を見せてくれなければ我々は判断のしようもない。是非見せていただこうではないか」


 そう言ったのは玉座の後ろに立つ美しい男だった。


「私の天恵は≪完全防御≫。万一彼が謀反者であったとしても、いかなる攻撃も私や国王、大臣方にもかすり傷一つ負わせることはできないのだから」


「マクシミリアン王子……」


 なるほど彼は国王の息子、立太子されていれば王太子ということになる。しかしヒキガエルのような国王からよくもこれだけ美しい王子が生まれたものだ。


 その美しい口元を歪ませ、一歩前へ出る。


「ヴァルムロディ、是非私たちに君の天恵を見せていただきたい」


 その言葉を受けて国王は醜い笑顔を見せた。


「そうだな、ではヴァルムロディよ。これからマクシミリアンと模擬戦を行ってみせよ。我が息子にわずかでも攻撃を当てることができたなら、そなたを魔王を倒しうる勇者として認めよう」


 魔王を倒さねば平穏は訪れないというのに、おかしな方向へ話が転がってしまった。


 だが、断ることもできまい。


「わかりました」


 真の勇者ならきっとなんとかなるはずだ。


 己の天恵を信じるしかなかった。

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