第2章 合体勇者ロボを探す旅へ

第6話 魔王討伐の旅へ

 敵の大群を殲滅した狂喜乱舞がようやく収まったころ、ひとりの女性が駆けつけた。


「まさか、ヴァルム君。この鉄の人型を動かしたのはあなただったの?」


「ブレンダ先生」


 彼女は二十九歳になる古代研究が専門の魔法学校の教師で、いつもは生活指導に口うるさい先生として学生に恐れられている。だが、成績トップかつ品行方正であるヴァルムロディには一目置いていて、その彼がヴァルムヴィーサから降りてくるのを見て目を輝かせていた。


「二千年前の魔王を倒したのは五人の勇者ですが、鉄の人型を駆っていたという伝承が一部あります。もしかするとこれが……」


「あの先生。失礼ですが、スカートが後ろ前になってはいませんか?」


「え? あら、いやだ。さっきの混乱で慌てていたのかしら」


 なぜか微妙に服装が乱れていた。


「この人型はいったいどうやって現れたのかしら」


「教会の地下に遺跡のようなものがありまして」


「こんな大きなものが地下にあったのかしら?」


「いいえ、合体してできました」


「合体……」


「先生は合体について詳しくご存じでしょうか?」


「く、詳しく?」


 なぜか急に顔を赤らめたのが気になったが、これまでの経緯を説明した。


「そ……そそそ、そういうことね。では地下の遺跡や合体パーツが出てきた場所なんか調査してみたいわね。でもということは、この人型をまたパーツに戻すこともできるのかしら?」


「できると思います。『解体』!」


 指示により人型ロボは分解してたくさんの一メートルほどの箱になってゆっくりと地面に落ちた。そして地下で抜いた剣・レットヴィーサが手元に戻ってくる。


「それは剣の形をしているけど、むしろ鍵のような役割のように見えるわ」


「なるほど。この剣は全く斬れませんでした」


 そんな話をしていると、駆けつけてきたのはヴァルムロディの学友たちだった。


「びっくりした。人型が急にバラバラになって」


「これってロディがやったのか?」


 ロディとはヴァルムロディの友人間での愛称だ。彼は貴族でも身分の高い方だが、魔法学校ではいかなる身分でも等しく扱うという厳格な方針がある。そのため学友はかしこまることなく接する傾向にある。


 ちなみに、親や教員は若者に対する敬意を込めてヴァルムと呼ぶことが多い。


「へー、これがさっきまで合体してたのか」


「さ……さっきまで合体……」


「ん? ブレンダ先生、赤くなってどうしたんですか?」


「な、なんでもないわ!」


 なぜか無理にでも威厳を見せようとしていた。


「だけどさ、さっきの人型はもっとなめらかな曲線だったじゃん。こんな箱が合体してあんな風になるのか?」


「ああ、この箱ひとつひとつが変形できるんだ。『それぞれロボになって踊れ』」


 すると、すべての箱から顔と手足が生えてきてかわいいダンスを始めた。


「うお、すげえ」


「変形して合体するわけか」


「とても興味深いわね……」


 ブレンダは古代の遺跡から現れた謎の物体に興味津々のようだ。


「先生も合体してみたいですか?」


「はあ? な、ななな……なんて破廉恥な! あなたには指導が必要なようですね!」


「え? 俺、何か変なこといいましたか!?」


 どうやら謎の地雷を踏んでしまったらしい。女性の扱いは難しいものだ。


「こら、お前たち。ここで何をしている!」


 そこへやってきたのは四十歳ほどの身なりの整った男性だった。


「エドガー先生」


 エドガーは学生たちとブレンダの間に入るような立ち、威嚇するような態度をとった。どうやら遠目には学生が教師をからかっているように映ったらしい。事情を説明する必要があった。


「ええ? ヴァルム君が鉄の人型に乗って魔物を倒しただって!?」


 話を聞いてエドガーは驚いたが、どうもわざとらしい。


「ずいぶん派手にドンパチやってたのに気づかなかったんですか?」


「私はずっと遠くにいたからな。今ここにいるのは偶然通りがかっただけだ。そう、偶然」


「そういえばさっき奥さんに会って、先生のこと探してましたよ」


「なんだと。どんな感じだったかな?」


「なんかその、機嫌悪そうでした」


「魔物が現れたのにそばにいなかったから不安だったのかもしれないな」


「不安というよりはむしろ怒ってというか……」


「ああ、もういい、もういい」


 強引に報告を打ち切り、エドガーは真剣な顔で言った。


「ヴァルム君の天恵は≪合体勇者ロボ≫。ついに真の天恵に巡り会えたということだな。ロボとは遺跡に隠された古代文明のことなのかもしれんな」


「古代文献によれば、ロボはもっと大きかったような表現がされているわ。つまり各地にロボを構成する箱があると考えられるわ。魔王を倒すにはそれらを見つけないといけないんじゃないかしら」


「わかりました。俺は世界を旅してこのロボをさらに巨大化させ、魔王を倒して見せます!」


「ああ、君ならきっとなしえるだろう!」


 エドガーはヴァルムロディの肩に力強く手を置いた。だが、なぜかブレンダの香水と同じ匂いがした。


「いいか、魔王を倒す旅に出る前に国王陛下には必ず挨拶をしておくのだぞ」


「わかりました。ですがどうして?」


「魔物が現れるようになってから社会が混乱したのは言うまでもないが、政情もかなり荒れ始めているようでな。もし君が無断で旅に出たと知れれば、父上は侯爵という有力貴族だ。謀反を図っていると捉えられるとも限らん」


「なんと。父の陛下への忠誠心はダイヤモンドより硬いというのに」


「それが事実であっても、何か口実をつくって貶めようとする者はいる。政治の世界は権謀術数だからな。この辺りは慎重に事を運ぶのだ」


「ご助言、ありがとうございます」


「では、我々は魔法学校へ戻る」


 そう言ってブレンダとエドガーは一緒に去って行った。学生たちは二人をこっそりと後をつけた。



 国王へ挨拶に行くためにヴァルムロディは領地を出立した。


 以前サイクロプスたちの大群を倒したとはいえ、魔物がいなくなったわけではない。今後も襲撃はありうる。そのため合体ロボ・ヴァルムヴィーサを構成する箱を、街を囲う壁の上にビーム砲として設置した。この効果はてきめんであり、近づいた魔物はことごとく焼き尽くされた。


『汝が我を身近に置いておる間は、自動防衛装置としてはたらくであろう』


「だけど、俺たちがまた巨大な敵と戦わなければならなくなった場合はどうすればいいんだ?」


『いざとなれば呼び寄せればよい。ただし、箱が到着するまでの時間はどのようにかしてやり過ごさねばならぬ。領地と我々が同時に戦わねばならなくなった時が最大の問題となるが、それまでに新たな箱を探すことができれば領地の箱は置いたままでよい』


「そうだな。できるだけ早く新しい箱を見つけ出したいものだ」


 ヴァルムロディは王城へ向けてバイクを走らせる。


 ヴァルムヴィーサは解体すると七十八個の箱になるが、そのうち七十七個はビーム砲台として残し、一つだけを移動用にバイクに変形させた。レットヴィーサを背中に背負って草原の道を進む。


 徒歩であれば二日かかる行程だが、バイクのおかげで二時間弱で王城が見えてきた。

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