第5話 合体勇者ロボ ヴァルムヴィーサ
『我が名はレットヴィーサ。汝の名は?』
「俺の名はヴァルムロディだ!」
『なるほど、汝の勇者としての素養を認めよう』
その声は剣からのものだった。
『勇者よ、我と合体し敵を殲滅するのだ!』
「俺と……合体してくれ!」
そう叫ぶと剣はさらに光を放ち、街はその光に包まれた。
『そうだ、勇者の魂とはそうでなくてはならん』
光に導かれるように街のあちこちで隆起が始まる。
そこから何か箱のような物体が飛び出し、ヴァルムロディの元へ集まってゆく。
『合体!』
謎の物体が次々と押し潰さんばかりの勢いで迫ってくるのに、不思議と恐怖はなかった。それらに覆われて視界が真っ暗になったが、少しすれば明かりが灯った。
見れば、自分は椅子に座っているではないか。
狭さを覚える室内に閉じ込められてしまっていたが、手足を動かすくらいの空間はある。
目の前には二本のレバーと、足下には三つのペダルがある。
そしてぱっと目の前がさらに明るくなると、外の状態が映し出された。
仲間たちが戦いながらも、不思議そうにこっちを見ている。
内部にいるヴァルムロディにはわからないが、彼らにはサイクロプスと同程度の大きさの人型の鉄塊が空に浮いているのが見えている。
『我は、合体勇者ロボ・ヴァルムヴィーサ!』
ヴァルムロディとレットヴィーサでヴァルムヴィーサ。名前も安直に合体した。
叫ぶとともに威嚇すると、魔物たちは一瞬たじろいだ。
「ヴァルムロディ様が飲み込まれたが、あの中で無事なのか!?」
「いや、きっとヴァルムロディ様が動かしてるんだ!」
「あんなでっかいのをか!?」
「すげー!」
仲間たちはその姿に希望を見いだしていた。
「レットヴィーサ。俺はここでどうすればいいんだ!?」
ヴァルムロディ自身、このようなもの見たこともない。
『汝が真の勇者であれば、すべてがわかるであろう!』
「ぬううううう!」
するとどういうことだろう、頭の中に情報が流れ込んでくる。
「このレバーを引いて、ペダルを踏めば!」
すると、人型の鉄塊はさらに高く飛んだ。ここからなら戦場が一望できる。
「わかる、わかるぞ! 俺はすべてを理解した!」
目下では敵と味方が入り乱れて戦っている。これを敵だけを選んで攻撃するのは難しい。
「いや、このヴァルムヴィーサなら不可能はない! 『ベクヴァム・ビーム』!!」
人型の全身から強烈なビームが放たれ、戦場すべてを焼き尽くす。
「え!?」
「ヴァルムロディ様!?」
戦場の誰もが死んだと思った。
だが、焼かれていくのは魔物たちだけだった。
「味方は焼かないとは、なんて都合のいいビームなんだ!」
これによってほぼすべての魔物は塵となって消え、残りも仲間たちで対応できるほどしかいない。だが、唯一サイクロプスにはほとんどダメージがないようだった。
「やはりあいつはひと味違うようだ」
『汝ならどう戦うか』
「まずは、街から出て行ってもらうさ!」
ヴァルムロディはレバーとペダルを操作して、人型をサイクロプスに体当たりさせた。ほぼ同じ大きさの超重量級同士がぶつかり合い空気が震える。敵の方が勢いで街の壁の外に押し出された。
「がおおおおおおお!」
サイクロプスは棍棒で殴ってくる。人型はなんとそれを受け止めた。
「がお!?」
「『ブリスタ・パンチ』!!」
人型が殴ると同時に拳が一瞬爆発的に飛び出してとてつもない破壊力を生み出し、サイクロプスを吹き飛ばした。
「うおおおおおおお!」
間髪入れず敵との距離を詰める。
「解体!」
なんとサイクロプスに攻撃を仕掛けると思いきや、人型は一部解体して細身になってしまった。
「合体、『ミョルニル』!」
いや、本体から離れた鉄塊は再び合体し、大槌の形をなした。
「街を襲う魔物は俺がすべて倒す! ≪ライジング・雷神≫!!」
大槌を手にして振り下ろすと同時に強烈な雷が落ちて、サイクロプスは爆発した。
魔物の群れは全滅した。
「やったああああ!」
街の人々は大歓声で人型のもとに集まってきた。
ヴァルムロディが降りてくると、人々にもみくちゃにされた。
「ヴァルムロディ様! ヴァルムロディ様! ヴァルムロディ様!」
誰もが彼の名を叫んだ。
英雄の誕生だ。
それを遠くから見ていたルンドストロム侯は涙を流していた。
「よくやった、ヴァルムロディ。そしてあれが真の勇者としての姿だったのだな……」
本当の意味で天恵を理解したのだった。
「合体、勇者、ロボ……ロボとはすなわち、あの鉄の人型のことだったのだな」
「しかし、ルンドストロム様……」
後ろから声をかけたのは執事だった。
「お坊ちゃまが勇者であることが証明されてしまいました。これからは魔王との戦いが待っているということになります。そして、人々を救うための旅に出られてしまうことになりましょう」
「うむ、それもやむを得まい。貴族の使命とは人の命を守ることなのだからな」
「寂しくなります」
「ふ、むしろそれは誇るべきことであろう?」
「ほほほほ、そうでございますな……」
執事は目元をハンカチで拭った。
ヴァルムロディはさっきまで自分が乗っていた人型を見た。
「これがロボか……」
それはまるで誰もが崇拝する神が鎧をまとったような美しくも力強さのある姿だった。
――これが俺の天命なんだ。魔王は俺が必ず倒す!
ヴァルムロディは決意を新たにするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます