第25話 ユウvsザッハーク
それを感じ取ったのは、レッサードラゴンを二十体、ワイバーンを五体ほど始末した時だった。
ワイバーン相手に十分立ち回れることを実感して思い上がっていた僕が、一瞬で猛省するほどの莫大で凶悪な魔力。
そんなものが孤児院の方から放たれていることに気付いて、僕は一目散に駆け出した。
「『
そこに、今にも死にそうな重傷を負ったアルスくんと地面に倒れたマリィちゃん。
そして、凶悪な魔力の主である竜人の魔物がいた。
「ッ、堅……っ!?」
「グ、ゥゥゥウウ……!?」
しっかり首を狙ったはずなのに爪で防がれた。
しかも切断力を100%強化したというのに、爪を半ばから切断して首に浅い数をつけるだけに留まってしまった。
だがそれなりに応えたようで、竜人は大袈裟に後退していった。
「テメェ、なんで……」
「あっくん大丈夫!?加勢にきた……よ……」
アルスくんは、酷い怪我だった。
胴体を深く切り裂かれ、右腕に至ってはほとんど千切れかかっていた。
しかも、それだけではない。
「今の奴、外見からして
このままでは毒で死にかねない。
本人に解毒してもらうしかないが、怪我の影響でうまく魔法が発動できないようだった。
仕方ない。僕は覚悟を決めると、
「なにをっ」
「死んじゃったらごめん!!」
アルスくんを持ち上げると、地下室があった方へ思い切りぶん投げた。
あそこにはセレナさんがいる。彼女の腕次第だが、少なくとも解毒と止血はしてもらえるはずだ。
本当ならもっと穏便に運んでいきたかったが、アレがまだ健在の今、悠長なことはしてられない。
「今の威力。お前、何者だァ……?」
「……当代『聖剣の勇者』ユウだ」
きっとこいつが賢者の言っていた魔王だ。
逃げなければいけないと理解していながら、斜め前方にいるマリィちゃんを見やり、奴の視線を釘付けにするために正体を明かした。
「そうかお前が──!運が良いのか悪いのか分からんが、まァいい!よく聞け聖剣の勇者!」
竜人は禍々しく口元を歪めると、
「俺様は『暴食の魔王』ザッハーク!貪り喰らう悪食の
「勝手に飢えてろ!!」
『
奴の武器は鋭い爪、長い尻尾、強靭な手足、そして恐らく持っているだろう毒。
加えて、
「っし!」
「なんだ、お前も目眩しかァ?」
土煙を巻き上げて相手の視界を潰す。
そして『
「馬鹿がッ、丸見えだァ!!」
だがザッハークには丸見えだったのか、狙い澄ましたかのように高熱の剣があった場所を尻尾が薙ぎ払う。しかし、
「いないィ!?」
「こっちだ間抜け!」
蛇に近い竜が持っている特性の一つ、それが『熱源感知』だ。
ピット器官によるものか、はたまた魔法的な力によるものか。
彼らは光だけでなく熱でも外界を把握できる。
故に強い光が視界を阻害するように、高熱によって感知を誤魔化すことができるのだ。
「鱗が硬いなら、硬さの関係ない攻撃で──」
浅くとも傷がついた首元に手を当てる。
「『
「ガァァァァァアアアアアアアア!!??!?」
体表の静電気を強化して生み出した高圧電流を、首元の傷を通じて体内に流す。
竜は熱に対して高い耐性を持つが、電撃による内側への直接攻撃は有効だ。
血肉を神経ごと焼き切る、生物には耐え難い極上の苦痛を与える。
ワイバーンのようなBランクの魔物でも絶命を免れない一撃。
しかし、この魔物は別格だった。
「ど、けェ!!」
「くっ!」
爪の一撃を避け、鋼の剣を回収して距離を取る。
やはりこれだけでは倒せなかった。
多少ダメージは入ったようだが、きっと体力の一割も削れていないだろう。
「あ゛ァ゛〜、痺れたぜェ……ったくよォ、味覚が狂っちまったらどうしてくれんだァ?」
僕の高火力打点である『
となれば、残る手段は一つだけ。
全力の『
「お返しだァ!!」
ザッハークの口が大きく開かれる。
次の瞬間放たれたのは灼熱の奔流だった。
『
「あ、っぶなぁ!?」
慌てて回避するが、靴先が掠めて炭化する。
掠っただけでこれだ。当たれば即死は免れない。
「流石は聖剣の勇者ァ、さっきの雑魚とは大違いみたいだなァ!?」
違う、僕と彼に大した実力差なんてない。
こうして食らいついていけるのは単に魔物としての生態を知っているからだ。
このまま戦闘が続けばこちらが負ける。
だからこそ、次の一撃で勝負を決める。
「『
ドラゴンは基本、ブレスを放った直後は動きが鈍くなる。体力や魔力を大きく消耗するためだ。
だから隙も生まれる。
鋼の剣が極光を放ち、莫大な魔力を発し始めた。
「んだァその光は!?」
「『
聖剣に全ての力を集約する直前に踏み込んで得た慣性のまま、爆発的な速度でザッハークの懐に飛び込む。
予想外の速さに奴も対応しきれていない。
完全にガラ空きの胴体を捕らえた。
「──お前を討ち取る一撃だ!!」
構えた剣を下から上へと切り上げる。
鮮烈な光の斬撃は、夜空に向かって登る一筋の光条となってザッハークを飲み込んだ。
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