第19話 勇者ギルド
職業:ゆうしゃがこなす主な職務は魔物の討伐だ。
各国が連携して職業:ゆうしゃを管理する、国際的な統括組織である勇者ギルドを通じて仕事を得る。
都市部から離れた小さな町村に拠点を置く場合はまた違ってくるのだが、ほとんどの場合はギルド経由での依頼がほとんどだった。
「ようこそ、勇者ギルドへ。どんな御用でいらっしゃいましたか?」
「い、依頼の受注をお願いしにきました」
その職業:ゆうしゃギルドに、アルスくんと二人でやってきた。
魔物の討伐はこれまでもやってきたが、賢者抜きで、自分から依頼を受けるのは初めてだった。
緊張するのも仕方ないだろう。うん。
見慣れない新参だからか、ギルドにいた他の勇者からの視線が突き刺さる。
中には値踏みしてくるような嫌な視線もあった。
居心地が悪い……。
まずは手堅くDランクの依頼から。
そうしたかったが、賢者から今受けられる中で一番高難度の依頼を受けろとのお達しがある。
仕方がないのでBランク向けのレッサードラゴンの群れの討伐依頼を提出することにした。
「……失礼ですが、依頼を受けるのは初めてですよね?Bランク、それも重要性が高いこの依頼は少々荷が重いと思われますが……」
「大丈夫です。僕たちBランクなので──」
「おいおい、お前らがBランクだって?」
大柄な体格をした男たちが突然会話に割り込んできた。
「笑っちまうぜ、お前らみたいなガキがBランクだぁ?嘘も大概にしときな!」
「しかもレッサードラゴンなんてCランク上位の魔物じゃねぇか。倒せるわけがねぇ!」
「あなたたちは?」
「オレらはCランクのパーティよ。自称Bランクのオマエラの先輩ってこった」
「大人の言うことは聞くもんだぜガキぃ?」
Cランク。高くはないが低いとも言い切れない。
Bランク以上に上がれるのは全勇者の中の三割ほどといわれている。
つまり一般的な勇者の上限がCランクなのだ。
下手に事を荒立てるのもまずいし、ここは大人しく引き下がっておこう。
「俺らより下じゃねぇか。Cランクが上から目線で物言える立場かよ」
「ちょ」
「なんだとテメェ!?」
「ガキィ、舐めてると容赦しねぇぞ……!?」
「喧嘩売ってンなら買ってやんよ」
僕をおいて勝手に話進めるのやめてほしい。
「調子に乗りやがって……ッ!いいぜ、痛い目見せてやるよ!」
「俺ら『拳の勇者』と『闘士の勇者』を敵に回したことを後悔させてやるぜ!」
筋骨隆々な肉体を存分に活かした打撃が放たれる。まともに受ければ怪我は免れない。
なら受けなければいい。
僕は見え見えの拳を避けると、聖剣を起動し、『
「すみま、せんッ!」
「ぐほぉ!?」
まだ聖剣による強化率を100%から引き下げる操作は難しい。
手加減するために軽いデコピンを直撃させず、空気を弾いて攻撃する。
だがそれでも高威力すぎたのか、男は大袈裟なまでに吹っ飛んでいった。
「ハッ、雑魚が!」
見ればアルスくんの方も秒殺していた。
圧倒的な瞬殺劇に、周囲で様子を見守っていた勇者たちが一斉に沸き立った。
とても恥ずかしかったが、やるなぁと褒めてもらえたのは嫌ではなかった。
その後、受付の女性から少しばかりのお説教を受けた僕たちは無事依頼を受注することに成功。
ベノムリザードを倒した森に程近い小さな山の付近に赴いた。
「……いた」
『ドラゴン』として認められる魔物はどれもBランク以上の力を有しているが、唯一の例外が下位種であるレッサードラゴンだった。
自由な飛行能力もなく、高所からの滑空が精々。
代名詞でもある
それでも強力な魔物であることに変わりはないが、一度ワイバーンを間近で体験している身としては威圧感が足りないと言わざるを得なかった。
「あっくん、僕が先行するから援護をよろしく。レッサーは変温動物だから、氷結系が有効だよ」
「あっくんやめろや……!」
横目でアルスくんの方を見る。
少し震えている気がするが、彼に限って怯えているというのはあり得ない。
きっと今のやり取りで怒り心頭なのだろう。
それでパフォーマンスが落ちることはないと判断して僕は合図ののち、草陰から飛び出した。
ベノムリザードの時と同じで最近になって繁殖を始めた群れらしく、討伐目標は十五体。
一体一体がCランクでも手こずる相手だ。
舐めてかからず、全身強化の勢いで剣を振り抜く。が、
「ッ、浅い!」
堅牢な鱗に阻まれて致命傷を与えるには至らなかった。逆に爪の一撃を貰いそうになる。
慌てて回避すると、直後に嫌な予感を覚えて頭を下げた。
予感は正しく、魔法の詠唱と同時にすぐ頭上を氷結魔法が飛んだ。
凍てつく冷気は急激に身体機能を低下させる。
その隙にレッサーの中でも特に鱗の薄い首元を狙って剣を振り、頭部を切断。
無事討伐に成功した、のはいいとして。
「あっくん、何度も言ってるけどもう少し間を置いてほしい。味方に背中から撃たれるのはゴメンだ」
「大袈裟なくらい魔力の波長強めた上、詠唱まで声張り上げてやってんだ。これ以上は魔物に察知されんだろうが」
「……魔力の波長?」
聞き慣れない単語に少し首を傾げる。
だが未知のワードではない。習ったが、僕の肌に馴染んでいない概念だ。
「もしかして、テメェ今まで気づいてなかったのか?」
「……そうみたいだ。一から説明してもらっていいかな?」
魔物は人間よりも遥かに魔力に対して敏感だ。
一部の高い知能を持つ魔物は魔力の波長を通じてコミュニケーションを取るくらいだった。
だからいかに魔物に気取られず魔法を発動できるかに術者の腕が求められる。ここまでは知っていた。
だが人間だって魔力を感じ取れない訳じゃない。
一般人であっても強い魔力に当てられて気分が悪くなることはある。
特に勇者は魔力を用いて戦うが故に、味方の魔法発動を魔力の感知によって事前に察することができるのだ。
「そっか、だけど僕は魔力を感じ取るのが下手だから」
「魔法の予兆を感じ取れずタイミングが合わなかったってことかよ。ケッ、そういうとこは無能のままじゃねぇか」
「……その僕に負けたくせに」
「んぐ」
ちょっとムッときたので言い返しておいた。
だがこれに関しては僕の落ち度だ。魔力感知が下手だから、他の人達が当たり前にできる連携に支障が生じている。
全身強化で感知能力は軒並み強化されているはず。ならば足りていないのは意識だ。
意識がなければ、仮に感じ取れていたとしてもそれが魔力の波長であると気付けない。
さきほど感じた嫌な予感とやらが、今まで意識の外に追いやっていた魔力の予兆なのだろう。
「ごめん。これからは意識してやってみるよ」
「……そうかよ」
実力は足りていても、有効に活用できなければ宝の持ち腐れになる。
自分の不足を知るには他者との比較は必須だ。
賢者がどうして僕とアルスくんを組ませたのか、その理由が少し分かった気がした。
その後、僕たちは拙いながらも連携してレッサードラゴンを倒していった。
魔力の感知。これは今後僕が伸ばしていかなければならない技能だろう。
依頼を終えた僕たちはギルドの受付に討伐報告をしにいった。
「レッサードラゴンの群れの討伐、完了しました。これは証拠の素材です」
「──か、確認します!」
レッサードラゴンから剥ぎ取った角を提出する。
受付の人は信じられないといった様子で確認し終えると、感嘆の息を吐いた。
「まさかたった一日でこの依頼を達成なされるなんて……とても新人とは思えません!」
「そ、そうですか?」
「はい!次に来る勇者ランキングで上位を狙えそうですよ!」
そんなランキングあるんだ……知らなかった。
奇妙な褒め言葉を頂戴して、僕らはギルドを後にするのだった。
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