職業:ゆうしゃ編
第6話 聖剣のレッスン
賢者リオルカ。
先代『聖剣の勇者』パーティの一員にして歴史上唯一、勇者の枠を超えた称号を獲得した大魔導士。
『
そんな人が、最高の勇者だと言ってくれた。
それに勝る衝撃があるだろうか。
あるはずがない。
それだけで僕はもう、これまでの人生を生きてきた甲斐があったと思えて大満足──、
「つーわけでユウ、今日からオレはオマエの師匠だ!オレを超える最強の勇者になって、馬鹿にしてきた連中全員見返してやろうな!」
「ほえ?」
何を言ってるんだろうこの人は。
今し方聞こえてきた台詞を脳内で再生する。
よし、全く理解不能だった。
「なに間抜けなツラしてんだ。考えてもみろ、フォウリスワード家はその首飾りが聖剣の正体ってことも知らずにオマエごと放逐したんだぜ?これでオマエが『聖剣の勇者』として名を上げたらどうなるよ」
「……面子が丸潰れ?」
「イグザクトリィ!」
なるほど、一応理解はできた。
しかし納得はできなかったし、そんなことを言い出す意味も分からなかった。
「ど、どうしてそんなことをする必要が……大体賢者が僕の師匠ってことがまず意味不明というか僕みたいな無能のためにそんなことをしてくれる理由が分からないと言いますか第一そんなことをして何の意味が」
「ええい面倒くせぇ!選択肢はYESかはいかOKのみだ!」
せめてはい/いいえの二択にしてほしかった。
賢者は改めて僕と目を合わせると、真剣な様子で語った。
「言ったろ。オマエはオレにとって最高の勇者だ。そいつが周りに見下されてたらムカつくんだよ。オマエだって父親が馬鹿にされたら腹立つだろ?」
「それは、はい」
「だから鍛えて強くしたいんだ。……それに」
真剣な様子から一転、フッと笑みを浮かべると、
「オマエだって、これまで馬鹿にしてきたヤツラを見返してやりたいって思うだろ?」
図星だった。
僕だって周りに馬鹿にされて反発心がなかったわけじゃない。ただ長年をかけてゆっくりと自尊心を削られ、慣らされていっただけだ。
それでも心というものは厄介で死んでくれない。
奥底ではずっと、馬鹿にされたくないという気持ちが眠っていたのだ。
「……はい、強くなって見返したいです」
「なら決まりだな。今からオレのことは師匠と呼べ。分かったな?」
「はい!師匠!」
これまでは力も知恵も勇気もなかった。
けれど今は力と勇気を手に入れて、賢者という知恵ある人の助力まで得られるようになった。
これで強くなれないなんて嘘だ。
子供の頃から憧れていた『聖剣の勇者』になるために、特訓の日々が始まった。
☆
Lesson1.聖剣の機能を知ろう!
一晩寝て、翌日。
王都を囲う外壁から出たところにある広い草原。
僕たちはそこで聖剣のトレーニングを始めることにした。
因みに得物は購入してもらった銅の剣だ。今の僕は無一文なので、安物でも買えなかった。
「ユウ、オマエは聖剣の力についてどれくらい知ってるんだ?」
「えっと、様々な力を強化する剣ということは知っています」
「その通り。聖剣は所有者が触れている物の力を強化する装備だ」
把握するには実践で試してみるのが一番早いだろう、ということで早速聖剣の機能を使ってみることにした。
起動の手順はワイバーンの時と同じらしい。
特定の呪文を唱えると首飾りが反応して起動を果たし、続く詠唱で望む機能を発揮する。
とにもかくにも始動キーを発する必要があった。
「『
言葉を紡ぐと同時、首飾りが仄かに光る。
これで準備は整った。
次は力の強化を行うための手順だ。
「『
首飾りの光が紫電となって腕に纏わりつく。
どうやら強化が完了したようだ。
試しに思い切りシャドウボクシングしてみろと賢者に言われたので、その通りにやってみた。
直後のことだった。
──拳圧によって発生した荒れ狂う暴風が、数十メートル以上先までの草花を吹き飛ばした。
「……ま、マジですか」
「これが機能その1『
聖剣はあらゆる力を強化する。それは身体能力に限らず、真実あらゆる力に作用する。
例えばこうだ。
「『
力任せに剣を振りかぶる。
普通なら地面に突き刺さって抜けなくなるところ、刃先が大地に触れた瞬間、数十メートルに渡って綺麗な地割れが発生した。
「『
剣を振るう際に生じる空気との摩擦熱を強化することで、高熱の刃へと変化させる。
摂氏千度を超えるヒートブレードは、見事近くにあった木を焼き切り両断していた。
「『
横薙ぎに剣を振って発生した空気の流れを強化すると、遠距離にまで届くカマイタチと化した。
最大射程はおよそ10mといったところか。訓練次第でもっと伸ばせそうだった。
「さて、一通り試してみたがどうだ?聖剣の力は」
「すごく凄いです……!!」
「ボキャ貧」
ぐうの音も出なかった。
「だが実際聖剣はすげぇ。オマエみたいな半人前でも一端の勇者以上の実力を発揮できちまう」
賢者の言う通りだった。
勇者にとって身体強化は大前提で、その上に自分の得意を積み上げていく。
だが大前提といっても蔑ろにしていい部分じゃない。寧ろ基礎だからこそ極めるのが難しいのだ。
そこへいくと、聖剣による強化は基礎レベルを遥かに超えていた。
力だけならAランクの勇者にだって負けていないだろう。
加えて熱力や風力強化などによるサブウェポンも充実しているのだから、取れる手札の幅は想像以上に広かった。
「ワイバーンの時に使ったのは奥の手、切り札って奴だ。そうホイホイ使える代物じゃねぇ。だからまずは聖剣の基礎に慣れるところから始めろ」
「強化……単純ですけど選択肢が多すぎて、その場その場で適切な手札を選ぶのは難しそうです」
「だから『技』を作る。さっきのヒートブレードやカマイタチみたいな、な」
いってしまえば武道における『型』と一緒だ。
基本となる形を決めておけば、咄嗟の応用もしやすくなる。
初心者がまず行うべきは足元の土台作りだ。
いきなり視野や思考を広く持てといわれても、できるはずがないのだから。
「並行して体作りも始めていく。三か月なんてあっという間だからな、忙しくなるぜ」
「三か月、ってなんですか?」
「決まってんだろ。勇者学園卒業の季節であり、同時に新人勇者試験の時期だ」
賢者はニッと笑みを浮かべると、
「三か月後、オマエを正式な職業:ゆうしゃにする。修行はキツいが精々励めよ、ユウ?」
これまたとんでもない難題を課してきた。
だが勇者になるためには、決して避けては通れない道であるのも事実だった。
賢者が僕を最高の勇者だと信じてくれているのなら、その期待に応えないでどうする。
「了解、しました……っ」
時間は三か月もあるのだ。
ゆっくり、着実に頑張っていこう。
そう決意を固めるのだった。
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