第15話 天王院龍華9

「うぉおおおおおおおおッ!!!」

「ウッハハハハハハハハッ!!!」


 俺とオーランドは激突した。交わるは拳と大槌。

 武器の差はある。身体の差も。

 だが。戦闘は限りなく互角に推移していた。


「坊主、テメエ本当につええなッ!」

「お前はこんなに強い癖になんでギャングなんてやってるんだッ!?」

「そりゃあアレよ、楽しめると思ったからよ」

「お前の国の人達が可哀そうで仕方ないよッ」


 一進一退。ギリギリの戦いが続いている。

 俺が攻撃すればハンマーで防がれ。

 奴が攻撃すれば俺は拳で逸らす。

 どちらが有利とも言えない拮抗した戦闘。


 くそっ。押し切れない!

 パワーはこっちが勝ってるのに……!?


 どんなに攻めても当たり前のように防がれる。

 奴にはまだ一発も入れられていないのに。

 最初に殴り飛ばせたのは不意を打ったからなのか!?


「ウハハハッ! 坊主、テメエ力は強いのに技術がまるでなっちゃないな! そんなへっぽこじゃあ、どれだけ攻めてこようが喰らってやる事は出来ねえぞォ!?」


 そんなの当然だろうが。俺は戦闘はまったくの素人なんだから!

 だが……それをどうにかしなきゃ俺に勝ち目はないッ。


「しっかし、どうなってんだこりゃ。オレ様も攻め切れねえ。……いや待てよ? なんだかテメエの動き……段々オレ様に似てきてねえか? 気のせいか?」


 ……気付かれたか。想定以上に早かったな。流石は戦闘のプロ。


 俺の動きが奴に似てくるなんてのは当たり前だ。

 俺は戦闘の最中ずっとオーランドの動きを観察。動作の一つ一つを俺に合うように最適化し、自分の動きに取り入れて自身をアップデートし続けてるんだから。

 途中からは自分と戦っている錯覚さえ覚えたはずだ。


 すぐに気付く辺り、奴は中々化け物染みている。


 まあ。その辺りの事を律儀に教えてやるつもりはない。

 そもそもが敵なんだ。知られる情報は少ないほうがいい。


 だが。それはそれとして――。


「……ははは。俺にも戦いの楽しさってのが分かってきたよ」


 一秒毎に自分が更新され、高められていく感覚。

 加速度的に己が成長していく感覚に俺は病み付きになっていた。


 これが感じられるなら、そりゃ戦闘狂になる奴もでるわ。

 己が強くなるのが如実に感じられるからな。

 今までの俺はこれを知らなかったのかと後悔しているくらいだ。


「本当か!? いいねえ、いいねえ! 坊主もノッてきたって訳か!! なら、どんどんギアを上げていくぞォ! 遅れず付いて来いよォ、坊主!!」

「馬鹿を言うな。付いて来るのはそっちの方だ、悪党!!」


 戦闘が加速する。通常戦闘から高速戦闘へ。

 最早周囲への被害を気にしている余裕すらない速さだ。

 先生たちへの被害は死んでも出さないが。

 幼稚園の運動場はどんどんとボロボロになっていった。


 そして当然――その他にも代償があった。


「ぐぅ……ッ!!」

「ウハハッ。どうした!? もうバテたか!?」

「そんな訳ないだろ!? まだまだやれる!!」


 そう強がってはみたものの、状況は厳しい。

 戦闘が速くなり過ぎた事でオーランドの攻撃を躱し切れなくなっている。逸らすのにも限界があり、掠る程度の被弾が着実に増えていた。

 もし攻撃をまともに喰らえば……致命的だ。


 子供の身体はそこまで頑丈に出来ていない。

 一撃でも喰らえば、そこから一気に形勢は傾く。


 状況を打開する方法は、あるにはある。

 魔法だ。魔法を使えばいい。


 ただし、魔法だって無制限に使える訳じゃない。

 使えば使うほどに体力を消耗する。

 今は二つ、魔法を重ねて使っている。残りの体力を鑑みれば、使えるのはあと一つだけ。子供の体力ではそれが限界。それ以上使おうとすれば意識を失う。

 三つ目の魔法を使うのだって決して簡単というわけじゃないが。


「けど贅沢は言ってられない、か。……仕方ない」


 魔法の心内詠唱を開始する。

 心内詠唱――開始。


“我が身に盾を。防壁を。何人たりとて触れること叶わず”。


 詠唱――完了。魔法発動。


我が身に盾を。無敵の防壁をシールド・オブ・インヴィンシブル!”。


「隙だらけだぜッ、坊主!」


 動きが止まった隙に、オーランドが攻撃を仕掛けてきた。

 だが俺はそれに対して――片腕だけを掲げた。


 ドゴォオオオオッ!!! 鈍い音が鳴る。

 しかし、ハンマーは完全に腕で防がれていた。


「……なんだと?」


 オーランドが怪訝な声を出す。


「オレ様は今、全力でハンマーを振ったぞ? 手加減なんざ欠片もしてなかった。これっぽっちもだ。だってのに……坊主、テメエ。どうして何のダメージも受けてないんだッ!? 確かにハンマーは当たったはずだろうがッ!!!」


 覚えて当然の疑問だ。反論の余地もない。

 けど……俺はもうそれどころじゃなかった。


 魔法の三重発動で体力は枯渇寸前。

 今にも倒れそうなくらいに疲弊している。

 呑気に質問に答える暇なんてない。


「はぁ、はぁ。……悪いな、こっちもそう余裕があるわけじゃないんだ。お前の疑問に答えている時間はない。さっさとこの戦いを終わらせよう」

「答える気はないってか。……まあいい。なら次で決めようや、坊主」


 オーランドからの提案。

 あぁ、と頷く。


 どのみち俺にはそれ以外の選択肢はない。

 向こうから提案してきた助かった。

 持久戦に持ち込まれたら負ける公算は高かった。


「坊主。テメエとの戦い、楽しかったぜ」

「……こっちはいい迷惑だ。経験になったのは否定しないが」

「ウハハッ! 可愛げのない奴だぜ、まったく」


 オーランドが豪快に笑う。


 そして――ハンマーを構えた。

 俺も対抗するべく、拳を握る。


 緊張。緊迫。時間が流れる。


 そして――次の瞬間。

 俺とオーランドは同時に動き出した。


「これで終いだ――くたばれや坊主!」

「即興必殺――旋風無尽撃エアリアル・ストライク!!」


 すべて出し切るつもりで放った全力の一撃。

 それが奴の放った攻撃とぶつかり――爆発した。


 轟音。衝撃。砂煙が舞い上がる。


 そして時間が経ち。風によって砂煙が流されていくと。

 立っていたのは――俺一人だった。


「――俺の勝ちだ」


 俺は、オーランドとの戦いを制したのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る