第13話 天王院龍華7

「坊主……ッ。お前は一体、なんだ……ッ!?」


 ギャングリーダーが腹部を庇いつつ尋ねてきた。


 すぐ起き上がったところを見るに根性はありそうだ。

 あの様子じゃ、痛みは全然引いてはいないんだろうが。

 ……素直に大人しくしておけばいいのに。


 さて、起き上がったギャングリーダーからの疑問だが。いや疑問というよりは詰問といった感じだが、それはさておき。

 俺が一体なにかなんて、おかしなことを聞くもんだ。


「なんだって聞かれてもね。普通の子供?」

「テメエみたいなのが普通の子供であってたまるかッ!!」


 何故かギャングリーダーが怒鳴ってきた。

 カルシウムが足りてないんじゃないか?


 ただ他のチンピラ達はともかく。

 先生たちまで頷いてたのは何故だ?

 いつの間に仲良くなったんだ。


「ひっどいなぁ。そんなに言う事ないだろ?」

「で、どうするの? 来るの? 来ないの?」


 来なくても構わないが、できれば来て欲しいところだ。

 魔法を実戦で使える状況ってのはそう多くない。

 今のうちにある程度使って感覚を試しておきたい。……まあ人目があるから目立つのは使えないし、誤魔化しつつ使わなきゃいけないって面倒な制約はあるが。

 それを置いても、より洗練された魔法を作る為には対象がいなきゃな。


 有難い事に、ギャングリーダーは戦うことを選んだ。


「子供に舐められたまま終われる訳ねえだろうがッ! おいテメエら! あのガキをやれ。多少ならやり過ぎても構わねえッ!」

「うっす!」

「了解です兄貴!」


 リーダーの号令。9人のチンピラが俺を囲む。


「数で来るのか。まあそれもアリだよな」


 一人の強者を複数の弱者が屠った例は古来より数多くある。

 一人で勝てないなら二人で。二人で勝てないなら三人で。三人で勝てないなら更に多くの仲間を集め……と。至極当然の論理だ。

 絵面は酷いけどな。大人が子供を囲んでる訳だし。


 けど――その程度で勝てると思われるのは癪だな。


 魔法があるからと驕るつもりはない。

 ないが……それはそれとして舐められるのはムカつく。

 舐められても仕方がない年齢だと分かっているが。

 自分の感情に嘘は付けないだろう?


 だから――舐められないようにこいつらを蹂躙してやろう。


「行くぞお前ら!」

「ガキだろうが容赦するな!」

「兄貴の仇だァッ!」


 ギャング9人が一斉に飛び上がる。

 それぞれの手には凶器が。

 まともに受ければ一溜まりもないだろう。


「キャーッ!? アシキ君ッ!?」

「逃げるんだ、そこのキミッ!!」


 先生たちの悲鳴が耳をつんざく。

 それを受けて俺は――口角を釣り上げた。


「我が身に翼を。追い風を。大雲揺らす怒涛風。追い縋る者なし」


 詠唱開始――完了。


「“我が身に追い風の加護をブレッシング・オブ・ザ・ウィンド!”」


 魔法発動。“追い風の加護”――付与。


 追い風を得た俺は――加速する!


「――なんだ、何が起きたッ!?」

「急に姿が見えなくなった!?」

「あのガキどこに行きやがった!?」


 ギャング達が姿を消した俺を探している。

 どうやら俺が見えていないらしい。


 まあ――それも当然だがな。


 なにせ今の俺は風を纏って移動しているんだ。

 当然、速度も風に準じたものになる。

 それが至近距離を高速移動しているんだ。

 人の目で捉えられるもんじゃない。

 風を纏った俺を捉える事は――誰にも出来ない!


「テメエら! 見えなくなった子供に囚われてるんじゃねえ! 見えないなら見えるものを狙えばいい――今すぐ園舎に入って天王院の嬢ちゃんを攫ってこいッ!!」

「う、うっす!」

「了解です兄貴!」


 リーダーの一括でギャング達は落ち着きを取り戻した。

 龍華ちゃんを攫おうと園舎へと近付いていく。


 なるほど? 俺を無視して龍華ちゃんを狙うつもりか。

 確かに有効な手だ。有効な手ではある。

 見えない相手に怯え、時間を浪費する事ほど無駄な事はない。

 俺を無視して本命を狙う。一つの選択肢としてはアリだ。


 だが――それを俺が許すとでも?


「――させるわけないだろ?」


 すれ違いざまに3人のギャングを殴る。

 完全に俺から注意を逸らしていた。

 おかげでメチャクチャ隙だらけだったわ。


「まずは3人」


 3人のギャングがまずは地に伏した。

 残るは雑兵が6。リーダーが1。


「な、なん――ぐえっ!?」

「どこから――ごはっ!?」

「お前ら大丈――ぐらっはっ!?」


 仲間が倒れて混乱するギャングを更に3人。

 今度は蹴りを叩き込んで昏倒させる。

 難しい仕事じゃない。あっさりと片付いた。


「6人」


「クソッ! どこだ、どこにいやがるッ!?」

「落ち着け! ここは背中を合わせぐべぁ!?」

「!? ――そこかァッ!!!「ごひゅっ!?」――なっ!?」

「残念。そこじゃないんだな」

「このガキ――ぐわべらっはァッ!?!?!?」


 冷静に仲間に声を掛けるギャングを先に仕留め。

 臆病なギャングを誘導して仲間を襲わせる。

 そして生まれた意識の間隙を突き、殴って気絶させる。


 そうして――最後の一人だけが場に残った。


「9人――あと一人」


 最後の一人――ギャングリーダーに俺は顔を向けた。

 ギャングリーダーは顔を強張らせていた。

 仲間が一瞬で全滅させられたんだ。当然だとは思うが。


 リーダーは震え声で俺を問い詰めた。


「お前はッ、本当になんなんだ……ッ!?」

「ただの子供だって言ったろ? それ以上でもそれ以下でもないよ」


 魔法が使えるだけのただの子供。

 今はそれが俺のステータスだ。


「さあ――覚悟はいいか悪党。次はお前の番だぞ」

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