第10話 天王院龍華4
「改めて自己紹介をしておこう。こなたは天王院龍華だ」
「俺は犬童アシキ。よろしくな、龍華ちゃん」
「うむ。よろしくしてやろう。精々こなたに尽くせ、犬童」
「……あははははは。まぁ、頑張るよ」
う、うーむ。中々我が強い性格なようで……。
木村先生が気難しいと言うわけだ。
厄介そうな性格をしていらっしゃる。
彼女と付き合っていくのは苦労させられそうだ。
しかし、だ。ひとまず会話は出来そうだ。
さっきよりは友好的でもある。
幸先がいいんじゃないかな、これは。
「それで? 貴様はどういう目的でこなたに接触してきたのだ?」
「ん、んん? それはどういう意味だ?」
目的? 接触? いや確かに目的があって彼女と関わりはしたが。
……もしかして、利用しようとしてる事に気付かれてるのか?
「だから目的だ。貴様も身内の者から、こなたを通して父上に接触しろ、とでも命令を受けているのだろう? 貴様はそれなりに使えるようだしな、多少なら便宜を図ってやっても構うまい。故に、貴様の目的を話せと言っているのだ」
……えーっと、これは。なにか勘違いされてる?
俺の目的。世界征服は、あくまで俺自身がやりたい事だ。
誰かから命令されてやっている事じゃない。
世界征服を命じるなんて、どこの悪の組織だって話でもあるしな。
それに、俺の両親はごく普通の一般人だ。
ちょっと親バカのキライがあるって程度で、怪しい事をしてるとかそんなの一切ないと思う。仕事も珍しくはあっても、特別なものに就いてるわけじゃない。
わざわざ大企業の人に自分から関わろうとはしないだろうな。
じゃあ親戚はどうなのかって? ……さあ、分かんないな。
今のところ会った事も聞いた事もないからな。いるのかもしれないし、いないのかもしれない。いるならそのうち両親が教えてくれると思うけど。
個人的には、少しくらいならいてくれてもいいけど。
愛する家族がいると嬉しい。俺はその事を今世で学んだからな。
あぁ、だから。俺が誰かから命令を受けるなんて有り得ない。
まずそんな事をしてくる人がいない。いても受け入れない。
家族を人質にでも取られれば従うかもしれない、けど。その時は能力を使って人質にした奴を倒すだろうから、やっぱり従ったりはしないかな。
まあ、そもそもそんな状況には絶対にさせないけど。
「いや。俺は誰からも命令なんて受けていないよ?」
「ふむ。ならば自分自身の意思でこなたに近付いたとでも言うのか? そんな馬鹿、な? ――いいや、貴様なら有り得るのか。なるほどなるほど」
「――――ッッッッッ!?!?!?」
なんだ!? 今なにが起きた!? 背筋が異様にゾワッとしたぞ。
ヤバい生物に至近距離から睨まれたような感覚がした。
そんな感覚、俺は一度だって経験した事ないはずなんだけどな。
有り得ない事だとは分かっているんだが。
例えるならそれは……まるで、ドラゴンのような。
一瞬。本当に一瞬だけ。
彼女の瞳が黄金に見えた。
「貴様のような者も世にはいるのか。不思議なものだ」
「……な、何が分かったのかな? 龍華ちゃん」
「なに、貴様が知らなくとも問題ない話だ。犬童」
くっ、分からない……!
彼女は俺の何を知ったんだ!?
「さて。話を戻そうではないか」
「……あぁ、そうだな」
「くはは、そういじけるでない」
「そう言われてもな……」
こっちはキミが何を知ったか気が気じゃないんだぞ!?
……こんな事、面と向かって言えたりはしないが。
俺が隠しておきたい秘密なんて三つだけだ。
世界征服、転生、能力。この三つだけ。
世界征服の夢が知られるだけなら、まったく問題はない。
どれだけ状況が悪くなったとしても、精々周囲から笑われたり、馬鹿にされたりする程度だろうから。それだって、時間が経てば自然になくなっていくはず。
だって、結局は5歳児の持つ夢なんだから。
いつまでも馬鹿にし続ける奴がいるなら、そいつの人間性の方が問題だ。
でも、あとの二つは知られたらマズイ。
転生と能力を知られるのは。
一般人の一人や二人にバレる程度ならば何とかなった。
転生は普通に生きている限り早々思い至ったりはしないだろうから、この場合は能力か。能力を知られるだけなら、どうにでもなる。
それこそ能力で相手の記憶を消してしまってもいいし。
そんな事しなくとも、一切能力を使わずに相手の言葉を否定すればいい。現代社会では超常の力は無いとされているんだから、能力を使わなければ、俺は頭のおかしい人に絡まれた可哀想な人、という立場を得られる。
まあ面倒くさいから、記憶を消した方が早いとは思うけど。
しかし。権力を持った人間に知られると、途端に面倒になる。
権力者ってのは欲深いのが世の常だ。前世で権力の座から遠い場所にいた俺でさえこの事実を知っている。……もちろん、全員が全員そうではないんだろうが。
永遠の若さや不老不死ってのは、大勢が一度は欲しがるものだ。
それが転生という手段で間接的にでも叶うならば。いや、叶うかもしれないと思わされるだけでも、欲しいと手を伸ばす人間は沢山いるはず。もしそんな奴らに捕まれば、俺は八百比丘尼伝説の人魚みたいに食われてしまうかもしれない。
それに、能力も能力でバレたら面倒だ。
特別な力、ってのはそれだけで誰もが欲しがるものだ。
永遠の若さや不老不死と比べると倫理的にどう、ってこともないから、むしろこっちの方が遠慮なしに求められてしまうんじゃないだろうか。
俺達にも力をくれ、出来ないのなら習得方法を教えてくれ、と。
それすらも出来なければ……排除か、実験か。
どちらにしても碌な事にはならないだろうな。
俺の事を知った権力者の記憶を消そうと思っても……多分無理だ。
俺もまだ能力を使いこなせているとは言えない。ほぼ全能な代わりに、縛りが結構重いからだ。身体も子供のソレ。出来上がってはいない。
そんな状態じゃ、とても権力者が住むような豪邸の警備は突破できない。
なら今彼女の記憶を消せばいいって?
無茶言うな。縛りの所為で無理だ。
そんな事が出来たらとっくにやってる。
つまり。仮に俺の秘密が龍華ちゃんに知られていた場合。
――周囲にバレるかどうかは、彼女の匙加減一つだ。
「安心せよ、誰にも話したりはせぬ」
「……そう願いたいよ。ホントに」
そんな状況で何を安心しろって? 無理だろそんなの。
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