第9話 天王院龍華3
木村先生からあの女の子――龍華ちゃんの話を聞き。
翌日。彼女と仲良くなる為、俺は再び彼女へと声を掛けた。
「やー、おはよう龍華ちゃん! 今日もいい天気だな!」
「……はぁ。こなたに話し掛けてくるな、凡俗」
「そんなこと言わないで色々話をしよう! 話題は一杯あるからさ!」
幾らでも話が出来るようにネタを沢山仕入れてきたんだ。
時間が無かったから少し話題が偏ってるけど、まあ何とかなるだろ!
……ところで彼女が俺を見て溜息を吐いたのは何故だろうか?
「話し、話しか。貴様にこなたの興味が向く話しが出来るとは思わぬが」
「ふふふ。そう言っていられるのも今のうちだ。なにせ俺が持ってきた話題は、子供であれば誰しもが興味を向けずにはいられないものだからな」
「……ほう? 断言するではないか。ならば暇潰しに聞いてやらんでもない」
よしよし! とりあえず彼女の興味を引く事が出来た!
あとは何とかして彼女を乗り気に出来れば、『龍華ちゃんと仲良くなろう大作戦』は成功したも同然だ!
まあ? 俺が集めた話題は彼女に言った通り、子供なら絶対興味の向くもの。
最早成功は絶対! この作戦、勝ったな! わはははははは!
「知ってるかな? 最近話題になってる四四堂っていう洋菓子店があるんだけど。そこが新しく、移動販売の店を出すみたいなんだ。しかもなんと、そのお店の移動ルートにはどうやらこの辺りも含まれているみたいで――」
ふっ。四四堂と言えば、新作クッキー、マドレーヌ、パイ、バームクーヘン、ケーキ等々。女性を惹き付けてやまない数々の人気商品を世に出してきた、話題沸騰中の超人気洋菓子店! 幾ら荒んだ雰囲気を醸し出しているとはいえ、彼女も女の子であるならばこの話題に喰い付かないはずはない――ッ!
さてさて。結果は分かり切っているけれど、成果の方を確認しておかないとな――わざとらしくそんな事を考えつつ、チラリと龍華ちゃんの方を覗き見る。
だが――彼女は、酷く冷めた目付きで俺を見ていた。
「――へぁっ!?」
驚きすぎて、喉から変な声が出てきてしまった。
――な、何故だ!? 何故喰い付いていない!? 美味しいお菓子、今話題、人気洋菓子店! 女子の興味を引く話題ベスト10には入っていそうなキーワードを三つも兼ね備えた最強のネタだったというのに!?
一体、一体どういうことなんだ……ッ、――ハッ!?
その時、俺は思い出してしまった。
四四堂には確か、親会社があったはずだ……と。
その親会社の名前は――天王院グループ。
つ、つまり。彼女はこのことをとっくに知っているッ!
その上で、今更その話題を口にする耳の遠い俺に呆れているんだッ!!
なんてことだッ!! 彼女が既に知っていたなんてッ!?
「どうした? 続きを口にしないのか?」
「い、いやーははは。どうも龍華ちゃんはこの話を知ってるみたいだから、話題を変えようと思ってね。知ってる事を話されても面白くないだろう?」
「そうか。それは有難い事だな。確かに退屈していたところだ」
くっ、試されている!? 俺は今試されているのか……!?
どうする? どうするのが正解なんだ!?
とりあえず、集めておいた他の話題で時間稼ぎを……!
「チョコ専門店のプスコが、チョコ菓子で外国の大きな賞を獲ったって話はもう耳にしたかな? 実はあのチョコ菓子はネットでレシピが公開されてるんだ。それが随分と美味しいらしい。俺も今度、母さんに頼んで作ってもらおうと思ってて――」
「…………」
「丁度一週間前、隣町にある老舗のヤマタイ和菓子店が急に閉店したんだって。残念だよな。母さんがよくあそこの和菓子を買ってきてくれたんだけど、どれも質が高くて美味しかったのに。もう一度あそこの和菓子を食べたかったな――」
「……………………」
「最近の事なんだけど、昔ながらの駄菓子が好きだって人達が、有志を集めて駄菓子専門店を作ったらしいんだ。しかも値段も昔に合わせてるんだって。買占め対策で買える数に限りはあるけど、子供にはそれで充分だよな。是非行ってみたいと――」
「………………………………」
ダメだすごく退屈そう! 一応話は聞いてくれているけど、全然興味を持っていないのが態度で丸分かりだ! どの話題も、彼女にとっては既知らしい!!
もう集めた話題が尽きた。何か別の話を考えなければ……ッ!
「う、うーん。どれもあまり龍華ちゃんの琴線には触れないみたいだ」
「そうだな。調べるのが難しい話題を集めた事は称賛に値するが、こなたにとってはどれも既知の事。こんなものかと、正直少し失望している」
「……は、ははは。それはごめんな? でも、次は流石に知らないはずだ」
もう俺の心はボロボロです。砕けてしまいそうです。
いやでも思わないだろ!? 集めた話題がどれもこれもとっくに知られている事だなんて! どの話題も最近の事ばっかりなんだぞ!?
大企業の情報収集能力舐めてた……。俺とは格がまるで違う。
なんかもう、ダメな気がしてきたな。
『龍華ちゃんと仲良くなろう大作戦』は失敗しました。
仕方ないよコレ。彼女の興味を引けそうにない。
最後に、一応調べはしたけどまず興味は引けないだろうな、って思って彼女に話す話題から外していた情報を出して、この会話を無理矢理終わらせてしまおう。
彼女からのイメージがマイナスになりそうだけど……仕方がない。
今回は準備の段階で負けてた。これも経験だと割り切って次に活かそう。
「近所のスーパーに、パムパムキャンディーっていう飴が売られてるんだ。その飴は子供……特に小学生や俺達くらいの子供に人気でね、よく売り切れてる。そのキャンディーに昨日、新しいフレーバーが出たんだ。子供達の間で早速話題になってて、昨日なんて売り出し直後なのに一時間もしないうちに売り切れて――」
「ほ、ほう? 売り出し直後に売り切れとは、中々凄いものだ。それで? そのぱむぱむきゃんでーとやらは、一体どこのスーパーに行けば買えるのだ?」
ほら、やっぱりこの話題には喰い付か――喰い付いた!?
嘘だろこんな話題で喰い付いてくるのかッ!?
人気洋菓子店の話題には全然喰い付いてこなかったのに!?
いやでも、そうか。雰囲気がやたら女王感満載だったから吞まれてたけど、彼女も年はまだ5歳。丁度パムパムキャンディーを好みそうな年齢だ。
大人の女性より、子供が好むものを好きでもおかしくはないのか。
「あ、あーそうだな。名前は『わんころ』。場所は――」
「そうかあそこか。あそこはローカルスーパーだからな。オリジナルの商品が生まれる事もあるか。よく買うのが子供では、話題も広がりづらい」
すまんが、ちょっとウチの者に連絡させてくれ。
そう言うと彼女はスマホを出し、どこかへ連絡を入れた。
「こなただ。スーパー『わんころ』に行ってぱむぱむきゃんでーを買ってくれ。……なに? 買占め? 馬鹿を言え。そんな事をすれば他の子達がきゃんでーを買えんではないか。一個、いや二個でいい。欲しければその時に買えば十分だ」
ではな。用があればまた連絡する。
通話を切ると、再び俺を見た。
明らかに先程よりも友好的な視線を向けて。
「ありがとう、よい情報を知れた。貴様は物知りだな」
「お、おう。お褒めに預かり光栄、だ?」
あらとても素敵な笑顔。惚れてしまいそう。
……正直この話題で興味を引けるとは思ってなかったんだが。
まさか、戦力外だと思ってたパムパムキャンディーがヒットするとは。
世の中なにがあるか分からないとは言うが……想定外すぎる。
ま、まあ。結果的に彼女の興味も引けたみたいだし。
終わりよければすべてよし。結果オーライだな!
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