第6話 転生6

「なるほど。確かに素晴らしい能力ですね。これで決まりでいいですか?」

「ああ。俺はこの能力を来世へ持っていきたい」

「分かりました。では早速、能力を犬童さんに与えましょう」


 言うや否や、ミオネさんは掌の上に炎のような光を生み出した。

 ゆらゆらと揺らめき、淡い火の粉を散らしている。


 ……というかメチャクチャ怖いんだが!?

 なんだそれ!? なんだそれッ!?

 やたらオーラというかパワーみたいなのを感じるし!

 しかもそれを俺の方に向けてくるし!


 神様だからってなんでもありが許されると思うなよ!?


「ちょっ、それをどうするつもりなんだ!?」

「これはですね……こうするんです、よっ」


 そう言ってミオネさんは、光を俺に投げた。

 いきなりの事で驚いた俺は、それを避けられなかった。


「うぐぉ……お? ――ッ!? うぐぉおおおおおおおおッ!?!?」


 直後に襲い来る、地獄のような腹痛。


 こ、これは!? 一週間便秘を耐えた後の腹痛の痛み!?

 ななななんでこんな腹の痛みがァアアアアアアアッ!?!?

 ぐぉおおお……! し、死ぬ……ッ!?


「なんで俺はこんな地獄のような苦痛を受けさせられてるんだ……ッ!?」

「それは特別な能力を宿す代償なんですよ」

「代償!? こんなッ、こんな痛みがか……ッ!? ぐ、ぐぉ……ッ!?」

「今犬童さんに授けた力は本来、人が持つものではありません。しかもこれほど強力な能力ですから、相応に反動が出てしまうんです」


 それにしたってこの痛みはないだろうッ!!

 ぐぐぐ……ッ! 本当にキツイッ!?


「か、神様の力でなんとかできたりはしないのか……ッ?」

「できますが……オススメはしませんよ? その力は、魂しかない今だからこそ馴染ませる事が出来るんです。もし力が馴染まないまま生まれ変わったりすれば、現世での肉体が邪魔になって一生その痛みと付き合い続ける事になりますよ?」

「くそ……ッ! そう美味い話はないって事か!?」


 確かにここでだけ耐える方が遥かにマシだがッ!!

 一生この痛みと付き合うくらいならなッ!?

 だからといって、この痛みが軽減されるわけじゃないんだ……ッ!!!


「あ。それと犬童さんの転生先は現代の日本になります」

「今更!? 今更か!? いやそれ以前に――それって現代以外に生まれ変わる可能性もあったって事か!? マジで!?」


 マジで!? ――いやマジで!?

 その可能性は考えてなかったんだが!!


「そうですよ? 現代だけでなく、未来や近代、中世や古代等々。異世界、という選択肢も用意しています。……まあ、異世界は本当にあらゆる意味で犬童さんの知る常識とは異なった世界ですから、正直あまりオススメはしませんけどね」

「現代と未来はともかく、他の時代はなぁ。……異世界ってどんな所だ?」

「異世界は本当に様々です。地球のように猿から進化した人種が繁栄している世界もあれば、鳥類や魚類や爬虫類。又は鉱石や機械から進化した人種が繁栄している世界もあります。中には、複数の人種が種の生存を競って絶滅戦争を繰り広げる世界も」


 絶滅戦争って。そういう世界には生まれたくないな。

 というか日本以外の国に生まれたくない。日本ほど平和な世界観を維持している国は早々ないみたいだし。ビバ日本。万歳日本。日本大好き。


「転生先を変更しますか? 今ならまだ融通が利きますが」

「いやいい。遠慮する。日本に生まれ変われるなら日本で生まれたい」

「……そうですか、残念です。どこの世界も楽しいのに」

「いやいやいやいや。それを楽しめるかどうかは価値観によると思うぞ」


 少なくとも俺は、まったく価値観の違う世界を楽しめるとは思えない。

 ……いや。いずれは慣れると思うが、多分それまでが地獄だ。


 そんな話をしていると、ミオネさんがポツリと呟いた。


「そろそろ、能力が犬童さんの魂に馴染んできましたね」

「え? ……そういえば、いつの間にか痛みがなくなってる」


 あんなにも地獄のような苦痛だったっていうのに。

 いつの間にかピタリと消えて無くなっている。

 まるであの痛みが嘘だったかのようだ。そんなわけはないのに。


「能力が馴染んだのであれば、あとは転生するだけですね」


 彼女の言葉にハッとした。

 いつの間にか俺自体がこの場所に馴染んでいた。


「……そうか。いつまでもここにいるわけにもいかないもんな」

「はい。ここはあくまで魂が束の間の安息を得る場所。休憩を終えた魂には、再び現世へと生まれ直していただかなくてはいけません」

「なんだか随分長い間いた気がする。すっかり居心地がよくなってた」

「そう思って頂けたのであれば、魂を司る神としてはとても嬉しいです」


 そしてミオネさんは――いや。


 魂を司る神アウレリケは雰囲気を変えた。

 和やかなものから、厳かなものへと。


「では犬童アシキさん。これからあなたを現世――現代の日本へと転生させます。恐らくあなたのままここへ戻る事は二度とないでしょう。覚悟はいいですか?」

「もちろんだ。覚悟はできてる。やってくれ」


 俺の言葉に一つ。女神アウレリケは頷いた。

 そして懐から――うぇえっ!?


「ちょちょちょちょっ!? なんだそれ!?」

「これは“高度一万メートルの上空から叩き落されたような衝撃と引き換えに魂を現世へと送る事ができるハンマー”――すなわち、“転生ハンマー”です!」

「待ってくれ!? そんなので転生させられるとか聞いてない!?」


 しかもメチャクチャ大きくないか!? 何メートルあるんだ!?

 どうやって持って――いや神だから持てるのか!? あの細腕であんなデカブツを軽々と持ち上げるとか、神ってのはデタラメだな!?


「それじゃあ行きますよー!」

「ちょっ、本当にま――」

「えーいっ! 現代日本へと飛んでいけー!」


 その瞬間。身体を潰されてしまいそうな衝撃と共に。

 俺は、スッポーン、と。魂の間から飛び出していた。


 周りに広がるのは真っ黒な宇宙。

 己を主張するように、無数の星々がキラキラと輝いている。

 そんな神秘的な景色を視界に収めながら、俺は思った。


 ――転生が物理とか、マジ聞いてない。


 次の瞬間。俺は意識を失った。





 次に目覚めた時、俺は赤ん坊になっていた。


「ほら、元気な男の子ですよー」

「あぁ。私の赤ちゃん……」


 助産師さん? から俺を受け取る綺麗な女の人。

 女の人は俺を見て瞳をうるわせている。


「決めた。あなたの名前はアシキよ。犬童アシキ」

「これからよろしくね、アシキ」


 そう言って、女の人はにっこり笑った。


 ――赤ん坊からスタートとか、マジか……。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

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