第5話 転生5
「それでは。――犬童さんはどのような力を望みますか? 欲する力を、欲するままに与えましょう。この権利は今回限りのものです。やり直しはナシですよ?」
迫力すら感じる存在感。超越者そのものの発言。
俺は改めて、ミオネさんが神である事を実感した。
それでミオネさんへの態度を変えるつもりはないはないものの。
彼女の後ろに後光が見えるのは気のせいだろうか?
それに心なしか、さっきよりも美人に見えるような?
まあ、きっと錯覚だとは思うが。それにしても彼女は可愛い。
……ところで。好きな力を与えると言われ、迷うのは人情だろう。
俺は今の時点でもわくわくしている。どんな力を貰おうか、どれだけの事ができるのだろうか、と。いっそ全力で趣味に走るのも面白いかもしれない。
とはいえ。とはいえ、だ。俺は決して自分を中二病だとは思わない。だって健全な青少年なら、人生で一回くらいは特別な力で悪者相手に無双したり、カッコいい異性や可愛い異性相手に、モテモテになる妄想をした事があるはずだからな!
俺はその時の純粋な心を、今も維持し続けているだけなんだ!
「欲しい力ってのは、本当にどんなものでも構わないのか?」
「はい、もちろんです。……ですが、場合によってはそのままの形――つまり犬童さんが望んだ形ですが――で使えるとは限らないかもしれません」
「ん、んん? それは話が違わないか?」
俺が欲しい力を与えてくれるって話だっただろう?
そのままの形では使えないって。それ、欲しい力じゃなくないか。
「申し訳ありません。これは私側ではなく犬童さん側の問題です。あまりにも強力に過ぎる力を望まれた場合、人間の身体では受け止めきれない可能性があるのです」
「あー、なるほど? 大きな力に対して、人間の身体じゃ規格が合わないのか」
「その通りです。最悪、力を受け取った瞬間に犬童さんが破裂するかもしれません」
……破裂、破裂か。破裂するのは嫌だなあ。
え。というか神様が与える力にもそういうのあるんだな。
思いのほか融通が利かないというかなんというか。
「どうにか望む力を得る方法はないのか? こう、裏技的な」
「もちろんありますよ。手間を増やせばいいのです」
「手間を増やす?」
「はい。わざと能力に縛りを入れる事で、容量は増やせるんです」
「縛りって。例えばどういうものを入れるんだ?」
聞くと、ミオネさんは口元に手を当てた。
「例えば、ですか。……そうですね。能力発動時に必ず特定のポーズをとるだとか、事前に設定した呪文を詠唱する、とかでしょうか。それ以外は思い付きません」
「いやいや、結構参考になった。謙遜する必要はないと思う」
「そうですか? 参考になったなら嬉しいです」
彼女はにっこりと笑った。
「それでは、早速能力を作ってみてください。ここは時間から切り離された場所。どれだけ掛かっても構いませんから、納得のいく能力に仕上げてくださいね」
「あぁ。そうさせてもらおう。また聞きたい事があったら聞くからな」
頷く彼女から視線を離し、長考に入る。
早速能力を作ろうとして……俺は固まってしまった。
「あぁ……困ったな。どんな能力を作ればいいのか分からない」
作ってみたい能力なら幾らでもある。瞬間移動――所謂ワープの能力だったり、時間を操ったり、分身を出したり、魔法を使ってみたり。
やってみたい事、試してみたい事がそれこそ山のようにある。
だが、どうしてか。それらの能力を振るう自分を想像できない。
どうして? どうしてなんだ。
どうして俺は能力を使う自分を想像できない?
少しばかり考えて……答えを得た。
「……なるほど。目的がないのが悪いのか」
能力を手に入れて何がしたいのか。
俺にはそれが足りていなかった。
例えば翼を生やす能力を手に入れて空を飛んでみるとか、時間を操る能力を手に入れて時間旅行がしたいだとか、ワープ能力を手に入れて世界を旅行したいだとか。
俺にはそんな欲や目的がない。だからどんな能力を作ればいいのか分からない。
――なんて馬鹿らしい。
我が事ながら呆れて物も言えない。
「目的、目的な。何がいいかな。どうせなら面白いものがいいが」
せっかく凄い力が手に入るんだから、ド派手に生きたい。
前の人生も決して悪いものではなかったけれど。自由にやりたい事すべてをやれたかと言われると、否と言わざるを得ない人生だったから。
次の人生は、全力で生き抜いてから派手に死にたい。
だから――
「――世界征服、なんてどうだろうか」
これなら派手も派手。ド派手な人生になる。
例えどんな道筋を辿ったとしてもだ。
それに……はははっ!
世界征服を成した日には、間違いなく歴史に残る。
俺が過去の偉人達を超えられるんだ。
二度目の人生だ。それくらいのバカを目指した方が絶対に楽しい!
「やってやろうじゃないか、世界征服!」
となれば、能力もそれに合わせたものを作らなければ。
必要なのは瞬間移動だの飛行能力だの、そんなチャチなものじゃない。
もっと包括的に影響を及ぼせる能力こそが必要だ。
縛りは重くなって構わない。やり方次第でどうにでもする。
能力を使わずに世界征服するのは現実的ではない。俺自身は他人と比べて能力が突出しているわけじゃない。生涯を掛けて地方議員になれればいい方か? それだって決して簡単ではないだろうが、少なくとも総理大臣よりは可能性がある程度。
だが能力さえあれば、総理大臣にさえも手が届くだろう。
……いや、総理大臣になるつもりはないけどな?
今ある国のトップじゃ世界に挑むには障害が多すぎるからな。
だから――新しい国を創れるような能力が欲しい。
「出来た! これが俺の欲しい能力だ!」
能力を作り始めてからどれほど経ったか。
遂に俺の望む能力が完成した。
「私にも教えていただけますか?」
「あぁ、もちろんだ。俺が欲しい能力は――」
ミオネさんにも詳しく話すと、彼女は頷いた。
その表情には感心の色が浮かんでいる。
「なるほど。確かに素晴らしい能力ですね。これで決まりでいいですか?」
「ああ。俺はこの能力を来世へ持っていきたい」
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