第4話 転生4

「改めて謝罪させてください。二柱の神による喧嘩の余波を受けたとはいえ、私が管理を誤り、結果として犬童さんの命が失われてしまった。この罪はとても重い。責任は如何様にでも取らせていただきます。本当に申し訳ありませんでした」

「重い重い重い! ミオネさんは悪くないと分かってるのにそこまでされると、なんだか罪悪感が湧いてくるわ! 程々でいいんだよ、程々で!」


 ミオネさんが責任感強いタイプのマジ女神なのは分かったけれども!

 俺には美人な女性に何度も頭を下げさせるドSな趣味はないんだよッ!?


「しかしそれでは私の気が済みませんので……」

「とは言ってもだ。俺だってあんたに頭を下げ続けられても困るんだ。あんた自身が死の原因じゃない以上、尚更な。それは分かるだろう?」

「……それもそうですね。ですが、ではどうすれば謝意を伝えられるでしょうか」


 なんだかこれじゃあさっきと立場が逆だな。

 さっきは俺が頭を下げる側だったが、今は頭を下げられる側だ。

 相手が悪くないと、頭を下げられても困るだけなんだな。

 勉強になった。……今後役に立つかどうかは別として。


 けどこれからどうしたものか。

 強引に話を進めてもいいが、それだとしこりが残りそうだ。

 とはいえ彼女の気を晴らす良い方法があるわけでもない。


 ふむ。……ここは一旦、話を進めてみるか。


「なあ、ミオネさん。次ってどうなるんだろうか」

「次、ですか? それはどういう……」

「ほら、俺は死んでしまっているわけだろう?」

「……はい。本当に申し訳なく思っています」

「いやいや。責めるつもりはないんだ。今更の話だしな」


 やり残した事は無数にあるが……。

 それはもう、言っても仕方のない事だ。


「俺が聞きたいのは、俺も他の人達みたいに輪廻の輪に入るのか? って事だ。どうも俺は普通じゃない形で死んだみたいだし、念の為に知っておきたいな」

「それは、はい。犬童さんももちろん輪廻の輪に入る事になります」

「何か異常は出たりしないのか? 来世はとんでもない化け物になったりとか」

「問題ありません。確かに犬童さんは本来の運命通りではない死を迎えましたが、死因自体は天寿によるものです。これで異常など出るはずありません。仮に異常が出たとしても、すぐに私の方で対処しますから」

「そりゃ心強いな。あんたが請け負ってくれるなら、何があっても安心だ」


 光栄です、とミオネさんが笑みを浮かべる。


「ですが、来世……ですか」

「どうした? 何か気になる事でもあったか?」


 意味深に呟くミオネさんに尋ねる。

 彼女は苦笑いを浮かべた。


「いえ、これはちょっとした疑問なのですが。犬童さんは記憶を持ったまま生まれ変わりたいと思いますか? それとも記憶は持たずに生まれ変わりたいですか?」

「俺は記憶を持って生まれ変わりたいな。その方がやれる事が多い」

「……そうですか。犬童さんは大丈夫な方なんですね。ならお詫びには――」


 どうかしたんだろうか。小さな声で独り言なんて呟いて。

 少しの間ミオネさんの事を眺めていると、彼女の中で何かしら納得のいく答えでも出てきたのか、うんっ、と一際大きく頷くと、こちらを向いた。

 どうしてだろう、先程よりも彼女の目の光が強い気がする。


「犬童さん! ちょっといいでしょうか!?」

「お、おう? どうしたんだ?」

「あなたへと渡すお詫びの品が決まりました!」

「ほう。そりゃいいな」


 分かりやすいくらい興奮してるのはそれが原因か。

 悩みが解消されてついつい浮かれる気持ちは分からないでもない。

 解放感があるもんな。そういうのって。

 それに俺からすれば興奮した美人さんに迫られるっていう美味しいシチュエーションだ。めちゃくちゃ可愛いし、邪険にする理由もない。

 もしこれが男だったらぶん殴ってでも遠ざけたが。


「それで? 具体的にどんなものをくれるんだ?」

「それはですね……特別な力を持って生まれ変わる権利です!」

「特別な力を持って生まれ変わる権利? なんだそれ」


 生まれ変わりでさえ眉唾物だってのに。

 特別な力って……どんな力だ。


「難しく考える必要はありません。犬童さんが想像した通りの力を、来世へ持っていく事ができる権利ですから。当然記憶は保持して、です。あなたさえ望めば、神様になる事だって不可能じゃないんですよ? もちろん、簡単ではありませんけどね」

「それは……いいのか? 場合によっては世界がメチャクチャになるだろ、それ」


 自分事だが、危険な力を望む可能性もある。

 想像した通りの力なんて厄介ごとしか生まないと思うが。


「構いません。……いえ。正確に言えば問題ではあるのですが、取り立てて問題視するような事ではないのです。流石に世界を滅ぼされると困りますが、そうでないのであれば、例えどれだけ世界が掻き回されようと人の営みの範疇ですから」

「一々気にする程の事でもない、って訳か。……そう聞くと、やっぱりあんたは――ミオネさんは神なんだな。なんだか根本から価値観が違う感じがする」


 一見優しげで、実際に優しい彼女から“世界がメチャクチャになっても構わない”なんて発言が出てきたと思うとギャップが酷い。違和感さえある。

 けどそれでミオネさんが酷い人だとは思わない。

 あくまで彼女は優しい女性だ。ただ視点が神の基準なだけで。


「それでは。――犬童さんはどのような力を望みますか? 欲する力を、欲するままに与えましょう。この権利は今回限りのものです。やり直しはナシですよ?」

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