第3話 転生3

「は、はははっ。そうか……やりたい事はまだまだあったんだけどな」

「犬童さん……。私がミスをしてしまったばかりに」

「ミス? ミス、ミス……。――そうだミスだッ!!!」

「きゃっ。ど、どうしたんですか。犬童さん……?」


 大声を出した事でミオネ=アウレリケさんを驚かせてしまったが、今はそんな事を気にしている場合じゃない! それよりも重大な事がある!


 彼女は最初こう言った! “本来死ぬべきではないあなたを死なせた”と!

 それはつまり、俺が死んだ原因はハッキリしているという事だ!

 俺にはその原因に対して怒りをぶつける権利はあるはずだ!


 ……いや、今更彼女を責めるつもりはないんだ。このほんのちょっとの交流によって、彼女が悪意ある存在でない事は十二分に理解している。仮に本当に彼女自身のミスによって死んだのであれば、仕方ないと割り切る準備は出来ている。


 けど何故だろうか。なんとなくこれは純粋な彼女のミスではない気がする。

 勘だ。勘でしかないおぼろげな直感だ。だが不思議と外れていない確信がある。


「ミオネ=アウレリケさん! 教えて欲しい事があるんだけど!」

「は、はい! 神々の秘密に関わるような事じゃなければ、幾らでも教えます! けど……あの。私の事はミオネでいいですよ? アウレリケは役職名なので」

「そうか、じゃあミオネさん! あんたがしたミスについて教えて欲しい!」

「ひょえっ!? 私がしたミスについて話すんですか!?」

「ああ! できれば細部まで漏らさずしっかりと最後まで詳しく!」

「細部まで漏らさずしっかりと最後まで詳しく!? ひょえ~!?」


 顔を真っ赤にしてぴょこぴょこ慌てる姿がとってもCute!

 けど今は話が聞きたい! どうにか宥めなければ。

 “落ち着いてくれミオネさん!” “落ち着いて!”

 根気強く声を掛けると、なんとか彼女は落ち着いてくれた。


「そ、そうですよね。私のミスによって犬童さんの命を奪ってしまった以上、私には犬童さんに対する説明責任がありますよね」

「あぁ。やっぱり自分がどういう理由で死んだのかは知っておきたい」

「当然ですよね。私だってもし同じ目に遭えば、同じ事を考えると思いますし」


 自分を奮い立たせているのだろうか?

 言い訳するように言葉を並べている。


 いや、でも、そうか。自分のミスについて話せ、だもんな。

 どうしたって恥ずかしいという感情とは無縁でいられないか。


「ミオネさん。どうしても無理そうなら止めても構わないが……」

「いえっ! 大丈夫ですので、どうか話させてください!」

「そうか? ならもう止めたりはしないが、無理はしないようにな?」

「はい! 心配してくれてありがとうございます、アシキさん!」


 見るからにいっぱいいっぱいといった様子だが。

 本人にやる気がある以上、ここで止めるのは無粋か。

 なら、精一杯心の中で応援していよう。


 ミオネさん! 頑張れー!


「それでは、話しますね」

「あぁ。よろしく頼む」


 確認を取るミオネさんに頷く。

 するとミオネさんは話し始めた。


「私は魂を司る神アウレリケとして、魂を管理する役目を担っています。


 魂を司る神としての仕事というのは多種多様。


 寿命の尽きた者の魂を輪廻の輪に戻す事。

 輪廻の輪にいる魂から現世の汚れを浄化する事。

 浄化の済んだ魂を再び現世へと送り込む事。


 その他にも細々とした作業が幾つもあります。


 さて。それら様々な仕事をこなしつつ日々を送っていた私がある時、いつものように寿命の尽きそうな老いた魂、まだまだ生きられる元気な魂とを選り分けていると、運悪く、とある神々の喧嘩に巻き込まれてしまいました」

「とある神々? 一体どんな神がいたんだ?」

「戦争の神カリアンガルルグと、殺戮の神ディルディオラです」

「うわ」


 いかにも戦争と殺戮が好きそうな神の名前が出た。

 そりゃそんなものを司る神なら喧嘩くらいするだろうな。

 いやむしろ喧嘩で収まっているのが奇跡じゃないか?


「二柱の神による喧嘩は全宇宙を転々とする形で行われました。もちろんアシキさんの住んでいた地球の近くも通っています。身に覚えがありませんか?」

「もしかしてアレか!? 地球全体で同時に謎の振動を確認したっていう……」

「はい、ソレです。アレはこの二柱の喧嘩によって引き起こされたものなのです」

「……はー、まさかまさかだな。まさかアレが神に原因で起きたものだなんて」


 有史以来最大の謎に包まれた地震って話題になってたアレの真相を、まさか死んでから知る事になるとは。人生は何があるか分からないな。もう死んでるけども。

 ……いや。でも待てよ? このタイミングで神の話題が出るって事は。


「既にお気付きだと思いますが、ミスの原因は二柱の喧嘩です」


 やっぱりかー! そうだと思ったよ!

 話の流れ的にそれ以外ありえないもんな!


「二柱の喧嘩の余波がこの魂の間にまで及び、私はそれによって管理を誤り、魂の幾らかに本来の寿命とはズレたタイミングで生死を入力してしまったのです。大部分はすぐに正しい生死を入力し直す事で事なきを得ましたが、一部は既に手遅れ。間違った天寿を迎え、若い年齢で老衰しました。犬童さん、あなたはその一人です」


 なるほど。つまり俺は老衰によってバッタリ死んだんだな。

 だから死んだ時の記憶が残っていないのか。

 そりゃ本来ありえない老衰なんだから残るわけないわな。


 俺の死因を調べた人、絶対困惑するわ。なんで老衰してるんだって。


 それもこれも、喧嘩してた二柱の神が原因、と。

 ……うん。会えたら絶対にぶん殴ってやろう。俺の仇だ。


 ところで、これはちょっとした疑問なんだが。


「ミオネさんは全然悪くなくね? なんで謝ったんだ」

「例え原因があの二柱にあったとしても、実際に魂を管理していたのは私です。ならばケジメをつけるのは当然。逃げるわけにはいかなかったのです」


 なんて男前な発言なんだ……!

 好き勝手に喧嘩する神とは格が違うな!!

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