這い寄る災禍

「兄さん! 今日、凄い事が起きたんですよ!」


 そこは窓ガラスや家具が滅茶苦茶に破壊された、未だに苛烈な戦闘の痕跡が残る八坂宅であった。


 明朗快活と言った朗らかな調子で通話をしている八坂の声が、通話先の人物に響いたと思えば、即座に返事が帰って来る。


【そうなんですか。して、その凄い事とは?】


 その通話先の声は若く感じる凛然とした男の物であった。


「それがですね、前に話した『不壊の棺』、あれから呻き声がし始めて、ヤバいなぁって思って『ホコタテ団』って言う所に相談したんですよ!」


【へぇ、なんの団体何ですかね? その『ホコタテ団』とか言うふざけた名前の奴】


 八坂が心底楽しげに話をしているのを、通話先の人物は静かに聞き入っている。


「あー、どうやら怪物狩りって言う職業? まぁ、何だか良く分かりませんけど。そんな感じの人が相談に乗ってくれて、無事に問題が解決したんですよ! 始めてオカルトっぽい事に遭遇しましたよ! まぁ、直接見ては無いんですけど……」


 そう捲し立てる八坂の言葉を聞いた通話先の男性は、唖然した様に黙りこくってしまう。


「――? 兄さん?」


 訝しげに尋ねる八坂に、通話先の人物は少しの好奇の色を見せて声を紡ぐ。


【……その『ホコタテ団』の人員は分かりますか?】


 その声には確かな興味と舞い上がる様な興奮が込められている。


「いや、詳しくは知りませんけど。だけど、マーリンって言う変な格好の人とフランって言うメイドさんが居ましたよ」


 八坂は急に食い付いて来た八坂兄を不思議に思いつつも、自身が知り得る情報を開示する。


【そうですか。『ホコタテ団』はどこで会えますかね?】


「何か相談事ですか? それなら、私の近所の至る所に看板があるので、それを辿ればすぐだと思いますよ」


 八坂の訝しげな様子の案内に、八坂兄は喜びを隠し切れないと言った様子で話し掛ける。


【……ありがたい事を聞きました。僕も『ホコタテ団』に”お伺い”しましょうかね……その前に裏取りか】


「何か言いました?」


【いいえ、何も。僕は急用が出来たので、また今度】


「はい! また今度!」


 矢継ぎ早に会話を終了させた八坂兄は八坂に構う事も無く通話を切ってしまった。


 またも静謐さに満ちる室内で八坂は何の気なしに天井を仰いで、


「……どうやって家を修理しようかなぁ……」


 そんな一切の切迫を感じさせない泰然とした声音の声で呟いたのだった。

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