冗長に鼎談
「それで、こんな展開がもう一回になってホントに申し訳ないんだけど、これからの俺らの方向性を決めて行かないと何も立ち行かないよな? と言う訳で、活動方針を決めたいと思う」
日付は変わらず、場所は神喰宅。
今度は二階にある神喰の私室兼寝室である。
まぁ、言ってしまえばオタクな部屋だなと思うだろう。
シングルベッドや学習机、並ぶ本棚には漫画や小説がビッシリと埋め尽くされている。
私室の中央には丈の低いテーブルが存在し、そこに座布団を二つ敷いてアルカナムとルヴニールは座っていた。
当の神喰本人は学習机に向かっており、その机上には数学のワークや教科書、ノートやペン、飲料水が置いてある。
アルカナムは両腕を影や闇と形容出来る物に変質させて、影の触腕を使って天井にぶら下がっている。
ルヴニールは最初しっかりと座っていたのだが、疲れたのか座布団を枕にして寝転がって、何故かとある漫画の六巻を熟読している。
まぁ、こんなのを言い出したら切りが無いので、神喰は黙っているのだ。
ルヴニールは面白いのか、そうじゃないのか、分かりにくい顔をして漫画に目を通しているが、そのままの姿勢で、
「マスター、何故に君はそっちの椅子に座っている? こっちに来てくれ。そして、この漫画の言っている事が良く分からないから教えてくれ」
「定期考査が来週の火曜日から始まるから仕方なくなの! 後、分からないのは一巻から読んでないからだろ!? 一巻から読みなさい! 面白いから!」
そう不思議な行動をするルヴニールをしっかりと断罪して、不服そうに漫画を本棚に戻しに行く彼女が戻って来るのを待たずにアルカナムが発言する。
「まぁ、活動方針として、これからオレ達は、特に神喰は強くなる必要がある。この地域で怪物狩り稼業を行っていき、戦闘能力を向上させて、万全と思った時が来たらイル=ミドースを地球に降臨させ、戦う。基本的にはそんな流れになるだろう」
簡潔にこれから方向性を示してくれるアルカナムなのだが、神喰はガチの素人である為、質問が尽きない。
「単純な疑問だけど、イル=ミドースってどこにいるの?」
そんな純粋な疑問を放つ神喰に、アルカナムは手をひらひらと振って、
「さぁ? それは分からない。宇宙のどこか、としか言えない。だからこそ、この地球にイル=ミドースを呼ぶ為の『イル=ミドースの招来』を得る必要があるとも言えるな……分かっている。説明するから」
意味が分からないと言った様子で神喰が見つめて来るので、アルカナムは丁寧な口調で一言一句、
「――『イル=ミドースの招来』、本当に簡単に言うとイル=ミドースを呼ぶ魔法だ。イル=ミドースがどこにいようが関係なく、使用者の元に呼び出す。と言うか、これが分からないんだったら、正直言ってセンスが……」
「分かったよ! 言い過ぎ! 詰まり、イル=ミドースを呼び出す為に、その魔法を得なきゃダメなんだな?」
アルカナムの引き気味の毒舌に心外だと吠えた神喰を置き去りにして、とある漫画の一巻に目を通すルヴニールは感情の分かりにくい声色で、
「そうか。詰まり、その魔法を得る為にイル=ミドース関連の組織を片っ端から潰していけば良いんだな?」
論理がとてつもない飛躍の仕方をしたルヴニールの恐ろしい言葉に、神喰はびっくりして訂正しようとする。
「いやいや、そう言う訳じゃ……」
「――いや、そう言う事だぞ?」
「そう言う事なの!?」
神喰の訂正の言葉を遮って、アルカナムはルヴニールの飛躍理論を肯定する。
「単純に、イル=ミドース関連の魔法を知っているのは、やはりイル=ミドース関連の組織である確率が高い。サブミッションとしてイル=ミドース関連の組織の殲滅、そこで『イル=ミドースの招来』を得るとしたらどうだろう? 後は、神喰の戦闘能力の向上の為に、オレ達が稽古を付ける」
(アルカナム……てっきりイル=ミドース絶対殺すマンだと思ってたけど、意外と忍耐力あるんだなぁ……)
そんな風に意外に思う神喰であったが、やはり疲労の色は拭えない。
そこで会話を終わらせるアルカナムの後に、神喰は少々疲弊した様子で、
「オッケー……まとめよう」
神喰は一日で処理出来る情報量を遥かに越えて詰め込んでいる為、流石に疲弊しているようだ。
そんな疲弊を吹き飛ばす様に神喰は声を張る。
「一つ! 怪物狩りとして活動して戦闘力の向上! 二つ! イル=ミドース関連の組織から『イル=ミドースの招来』の奪取! 三つ! 稽古! 話し合い終わり!」
そんな恐ろしい程に簡潔なまとめ方をした神喰は疲弊して溜息を吐いて、学習机に向かって数学の自習をし始める。
藍の空に満ちる暗夜の底で、部屋にはルヴニールが漫画のページをめくる音と神喰のペンが鳴らすカリカリと言う乾いた筆記の音が静かに響いている。
静謐とも言える部屋にて、アルカナムは何か思い付いた様に天井にぶら下がるのをやめて、神喰に声を掛ける。
「神喰、ノートのページを一枚くれないか? 後、何でもいいから書ける物を」
自分の世界に入り込み、極限の集中を見せていた神喰に霹靂の様に差し込んで来るアルカナムの言葉に訝しげに、
「――? はい」
神喰はノートの一ページを破り、ペンケースにあったボールペンと一緒にアルカナムに手渡す。
それを手渡されたアルカナムはテーブルに紙を置いて、集中して何かを書き始める。
(何してんだろ? まぁ、俺は自分の心配をした方が良いか。赤点を取らないようにしないと……)
神喰は別に頭が極端に悪いと言う訳では無いが、究極、かなりの心配性なのだ。
神喰の成績は最上位よりも少し下と言う立場であるが、当人にとっては心配して然るべきなのだ。
その最中、ルヴニールはとある漫画の二巻に目を通していたのだが、急に漫画をパタンと閉じて、神喰の方向に歩み寄って来る。
その事を集中している神喰は知る由も無いのだが、そのままルヴニールは神喰の背後を完全に取り、耳元で囁く。
「――ワァァアァァ……」
「フゥアァァァアァアァ!?」
完全に意識外から繰り出される謎の囁きに神喰は跳び上がって、背後に忽然と現れた吸血鬼に振り返る。
「ホントに何!? 心臓に悪い!」
「いや、負傷した状態で良く勉学に励めるなと……そうだ、我が満更でもなく教えてやっても良いぞ?」
(じゃあ、何で囁いて来るんだよ!?)
神喰は心の中でルヴニールの行動の真意を問うのだが、彼女はきっと、『やりたくなったからやった』とでも言うのだろう。
諦めた。
「じゃあ、お願いしようかな」
「……! ならば、教えよう……!」
愉快そうに顔を喜色で一杯にするルヴニールは神喰の隣に歩み寄って、教科書やノートにサッと目を通す。
それから寸分の時間も置かずに、
「……分からん。全然分からん。凄いなぁ、魔法みたいだなぁ」
「本物の魔法使う奴が何か言ってる! 魔法使いって頭良いんじゃないのか!?」
(こいつ……何しに来たんだ……)
ルヴニールは意気揚々としていた態度から一転して、神喰の教科書を奪い取って眉を
どこまでも“ルヴニール”と言った感じの彼女を置き去りにして、数学のワークを進めようとすると、
「神喰、ちょっと良いか」
アルカナムが神妙な面持ちで何かを記入した紙を神喰の学習机に置きながら、そう話し掛けて来る。
「何? 俺、テスト勉強で忙しんだけど……」
そうアルカナムに自身の置かれた状況の厳しさを伝える神喰であるが、その真剣さを崩さずにアルカナムは言葉を紡ぐ。
「良いから、その紙を見てくれ」
神喰は何だよ、と思いながらも、机に置かれた一枚の紙を視界に映してみる。
「……何だこれ……?」
神喰は有り得ない物を見てしまったかの様な声を喉から絞り出す。
それも当然。
――何故なら、その紙には地球上の言語のどれにも当て嵌まらない、理解不能な文字と記号が羅列された物だったからだ。
その言語を神喰が全く知らないと言う訳では無く、直感でこれは非現実的な言語であると認識出来る、そんな奇妙な感覚に神喰は戦慄する。
その紙に羅列された“ナニカ”に戦慄している神喰に、アルカナムは変わらず悠然と言葉を発する。
「――これは、肉体を強化する魔法、『
そう当然かの様に言い放つアルカナムに、神喰は目を白黒させながら行動の真意を問うてみる。
「……えっとぉ……何でそんな物をこの俺に……?」
その答えはもう分かり切っていると言う物なのに、一応の確認をする神喰の期待の眼差しをアルカナムは、
「――今からこれを習得して貰う。これは基礎中の基礎の魔法だ。習得して貰わなければ、こちらが困る」
残酷にも思える一言で一刀両断した。
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