『イル=ミドースの原罪』
神喰とアルカナムは閑静な住宅街の道を歩いている。
それは、少し長い話になると予期した神喰が、自身の家にアルカナムを連れて行こうと歩いているからである。
「しかし……ここら辺は全く人の気配がしないな」
アルカナムが周囲の一軒家を見渡して、そう呟く。
それもその筈である。
先程から歩いている住宅街はその殆どが空き家であり、街灯以外には灯りが殆ど灯っていないだから。
「やっぱり分かるもんか。俺の住んでるここら辺、何か良く分からないんだけど、入居者が一ヶ月と持たずに出て行っちゃうんだよ。だからゴーストタウンみたいな感じになってるんだよ」
「……あぁ……道理で……」
「――?」
アルカナムの遠い目をした謎の納得に対して、神喰は何事かと疑問に思っているのだが、それを問う前に目的地に到着する。
そこは閑静な住宅街の中にポツンと存在する、かなり広く見える一軒家である。
外装は特別に豪奢と言う訳では無いが、明らかに裕福さを感じる一軒家が目の前に存在していた。
「……神喰、この家には一人で暮らしている訳ではないんだろう?」
アルカナムから訝しげに至極当然の質問が飛んで来る。
その質問に神喰は少し悲しげに、それでいて難しそうな顔をして、
「えっと、今はこの家に一人暮らしなんだ」
「なら、両親や親族は?」
またも飛んで来る当然の心配に、神喰は少し目を伏せて、
「……両親はもう既に他界してて、唯一の親族の爺ちゃんは埼玉の実家に居るんだ」
「……悪い事を聞いたな」
「いやいや! 心配してくれて嬉しいよ! さぁ! 上がって!」
重苦しくなった空気を裂く様に声を上げて、神喰は玄関扉の鍵穴に鍵を差し込んで開錠するが、扉が開かない。
「……またか……」
神喰が鍵をガチャガチャと回しながら、辟易と言わんばかりに溜息を吐く。
「『またか』、とは?」
「いやぁ、鍵が掛かってない筈なのに扉が開かない事があって……あ、開いた」
まるで、扉の先で何者かがドアノブを引っ張って、物理的に開かせないようにしている様な不可思議な感覚を感じながら、神喰は玄関扉を開け放つ。
「ちょっと手間取っちゃったけど、上がってくれ!」
「お邪魔します」
自分を怪物と自称するアルカナムが礼儀正しくお邪魔しますと言う状況に、何だか吹き出しそうになる神喰だが、それを必死に抑えて、家に入って行く。
内装は本当に特筆する事も無い普遍的な日本家屋の内装であり、面白味は全く無い。
神喰とアルカナムは玄関を抜けて、一階の居間まで歩んで行く。
そこは厨房と居間が同時に存在する、リビングダイニングと呼ばれる部屋の形だ。
テーブルやソファ、テレビなどが併設される普遍的な居間の様相である。
そんな居間の椅子に腰掛けた神喰とアルカナムの両者は、食事などで使われるテーブル越しに向かい合って、早速アルカナムが切り出す。
「そうだな。まず、オマエの相談内容はこの家で起きる“霊障”による物か?」
アルカナムの冷然とした目線から繰り出される質問に、神喰は首を横に振りながら、
「……確かにこの家ではラップ音とか、さっきみたいに扉が開かないとか、逆に扉が勝手に開くとか、そう言う類の事は事実として起きる。滅茶苦茶な頻度で起きる。俺も少しビビってる」
(実際は滅茶苦茶怖いけどな!)
「そうか。だが、その件についてはもう安心して欲しい」
「何で?」
神喰自身はこの家で起きる霊障にはかなり悩まされていて、正直に言って睡眠不足に陥る程だ。
何故に安心して欲しいなどと言うのか、その真意を問うと、
「――オレがこの家に入った瞬間、ここに棲み着いていた霊が全て逃げてしまったからだ。もう少しオレが来るのが遅ければ、取り殺されていたかもな」
二つの意味でかなり恐ろしい事実をサラッと伝えて来るアルカナムの話に戦慄しつつ、神喰は話を仕切り直そうと、
「それはホントにありがとう! ……だけど、俺の根本的な悩みはそれじゃないんだ」
神喰はアルカナムに対して、真剣さを帯びた声色でそう告げる。
その神喰の人生においての根幹であろう話の切り出しに、アルカナムも真剣さが伝わったのか、
「分かった。初めから最後まで、一旦話してみてくれ」
神喰はそのアルカナムの柔らかく告げた言葉に頷いて、木造の椅子にしっかりと座り直して話し始める。
「俺はこの中野区で生まれたんだけど、母さんが居なくて、俺を出産する時に死んでしまったらしい。それから父さんが一人で俺を育ててくれた。そっから割と普通に生きてたんだけど、小四くらいの時に、父さんが交通事故で他界して、父方の祖父……つまりは爺ちゃんに引き取られて、埼玉の実家で暮らす事になったんだ」
(ここまでならば、数は少ないだろうが不幸な人生を歩んだ少年の話だ……これがどう呪いに繋がる?)
アルカナムは神喰の身の上話に対して訝しげに頷きながら、注意深く観察する。
「それで、爺ちゃんの家に引き取られた次の日だったか……爺ちゃんの飼ってた猫が死んだ。しかも“怪死”。頭が何だか良く分からない動物に噛み砕かれて死んだみたいだった。まぁ、これに関しては粛々と猫を弔って、不思議に思いながら転校先の小学校で学校生活をする訳だ。その当時から俺は内向的な性格になって来てて、まぁ友人は出来なかった。でも、転校先の小学校の奴らは本当に良い奴らだった。面白くない俺を遊びに誘ってくれて、中々楽しかった思い出があるんだ。だけど、俺と遊んでくれたクラスメイトが行方不明になったんだよ。埼玉の鳩山町って場所だったから、言っちゃ悪いけど山とか自然が沢山ある訳で、俺達が遊んだのもそんな場所だった。でも、最後に遊んでいたクラスメイトを見たのは山中でもないし、俺も不思議に思ってたんだよ。まぁ、結果的に行方不明になったクラスメイトは見つからなかった訳だけど。それで、この頃から俺の周りで言われるようになったんだ――」
そこで言葉を区切って、妙に勿体ぶる様にして、
「――『神喰朔人は死神に取り憑かれてる』って」
ただならぬ鬼気の様な物を発する神喰の言葉を耳にして、アルカナムは次の言葉を急かす様に手振りする。
「そんで、俺もこれは合ってるんじゃないかって思い始めて、遂に人付き合いを完全に断った。まぁ、当然だけど人は他人と関わらないと生きていけない訳で、最低限の会話はするけど友人には絶対にならない、なれない。そんな事をしたら、また人を殺してしまうって思って小学校生活、中学校生活をして来て、友人は一人も出来なかった。それで、転機が来たのは中学三年生になったくらいの時。県内の高校に進学しようかなとか思ってたんだけど、遂に婆ちゃんが死んだ。これに関してはいつ死んでもおかしくない様な老体だったからだって自分で言い訳したんだけど、その死因が全く判明しなくて、唯一分かる事は内側から体内を食われる様にして死んでしまったらしい。数々の臓器を破壊された事による多臓器不全か失血死……詳しくは覚えてないけど、とにかく婆ちゃんが怪死した」
久しぶりに会話をした為か、神喰は喉を案じる様に右手で抑えて、少し呼吸を整えて話を続ける。
「それで、爺ちゃんがブチ切れた。お前は疫病神だ、お前の所為で
かなり長々とした話を一旦終えて、神喰は少し疲労の色を見せながら、改めてまとめに入る。
「それで! 頼む、アルカナム! この俺の呪いについて何か知ってたり、解除出来たりしないか?」
必死な様子でアルカナムに懇願する神喰の話を徹頭徹尾、顎に手を当てながら聞いていたアルカナムはその長身が故に窮屈そうに足を組み直して、
「……最後まで話は聞かせて貰った。結論から話すとすれば、その“呪い”に心当たりがある。しかも、かなり深い心当たりだ」
アルカナムはその人相の悪く見える三白眼を鋭くして、神喰に心当たりがあると表明する。
「本当か!? なら教えてくれないか!?」
テーブルから身を乗り出す程にアルカナムに近付いて、期待と不安が入り混じった様な瞳でアルカナムを見る。
(ここで手の打ちようが無いとか言われたら……)
そんな一抹の不安を心に抱きながら、神喰はアルカナムに近付くのを手で制されて、興奮冷めやらぬままに椅子に座る。
アルカナムは両の手をテーブルに置いて組み、超然とした様子で話し出す。
「かなり荒唐無稽で、ぶっ飛んだ話になるが、信じてくれるか?」
「当然だ! 俺の人生自体がぶっ飛んでるんだから! これから何を信じないってんだよ!」
その肯定を受け取ったアルカナムは、少し深呼吸をして話し出す。
「――オマエに掛けられている呪い……それは『イル=ミドースの原罪』と呼ばれる最高位の呪詛である確率が高い」
(……『イル=ミドースの原罪』? 何言ってんだこいつ?)
信じると言った手前で申し訳ないのだが、唐突に繰り出される専門用語に神喰は困惑を通り越して、無になってしまうので、それではいけないと質問を投げ掛ける。
「えっとぉ、一から説明してくれ。そのイルミネーションの現在って何?」
「『イル=ミドースの原罪』な。これを掛けられた人物の周囲に存在する生物は、例外なく因果律を操作されて、死に至る。まぁ、この殺害も気まぐれによる所が大きい。この不幸を予期するのはかなり難しいだろう」
この説明の上では、神喰に降り掛かる不幸と全く以て一致しているが、まだまだ疑問は尽きない。
「信じるって言った手前でごめんなんだけど、『イル=ミドースの原罪』とやらが俺に掛けられている……その根拠は?」
その根拠を求める神喰の質問に寸分の間も与えずにアルカナムは答える。
「単純にオマエの体験談が『イル=ミドースの原罪』の効果と一致している事と、オマエから発せられる雰囲気……オーラが『イル=ミドースの原罪』を掛けられた者に酷似している。抽象的な事しか言えなくて、申し訳ないがな」
アルカナムの回答を得た後に、神喰は矢継ぎ早に、
「この『イル=ミドースの原罪』とか言うのが呪いに近い物なら、それを掛けて奴がいる筈だよな? 俺的には呪いを掛けた奴に心当たりなんか無いけど、アルカナムは呪いを掛けた奴を知ってるか? ……知ってる訳ないか……」
アルカナムはその疑問に対して、少々顔を曇らせながらも、それと同時に強い怒りを持った口調で、
「――『イル=ミドース』……宇宙の深奥に座して混沌を
またも良く分からない単語が出て来るので、解説を待っていると、
「そうだな。“邪神”……詰まり『神格』と呼ばれる存在は、圧倒的な力を持ったクリーチャーと思って差し支えない。ソイツらもオレやグールと同様に『怪物』だ」
(持ち前のオタク脳で何とか理解したけど、最終的に一番知りたい事は……)
神喰は少々の無理解はあるが、やはり一番に聞きたい事は――、
「この“呪い”……解けるのか?」
アルカナムの話が全て正しい事が前提とはなるが、やはり当人にとってはこの不幸の原因を取り除きたいと思うのは自然な帰結である。
「俺はこの“呪い”を取っ払って、世話になった爺ちゃんにもう一度会いたいし、友達も欲しい。この“呪い”の所為で俺は何もかもを失った……何とかならないか?」
神喰は自身の欲望を赤裸々に語る。
神喰からの問いにアルカナムは申し訳なさそうに目を伏せて、暫しの沈黙が訪れる。
神喰は永遠にも感じられる静謐さに緊張と焦燥が高鳴っていくのを感じる。
その身を切る様な切望にアルカナムは
「――今すぐに『イル=ミドースの原罪』を解除する方法は無い」
そのアルカナムのバツが悪そうな顔から放たれる残酷とも言える一言に、神喰は奈落に突き落とされる様な絶望が胸中を支配するが、それと同時に気付く事がある。
(『今すぐに』? その言い方だと、解除する方法自体はあるって事だよな)
その細い糸の様な一縷の希望に縋って、気付きのままにアルカナムへ、
「アルカナム、その言い方だと解除する方法自体はあるって事だよな? もしも、解除する方法が存在するなら、何でもいいから言ってくれ!」
まるで、人生の岐路であるかの様に振る舞い、必死にアルカナムに縋る神喰の覚悟と懇願に突き動かされたのか、アルカナムは暗い顔をしたまま口を開く。
「……『イル=ミドースの原罪』を解除する方法はただ一つ。呪いを掛けた張本人を直接殺害する事だけだ」
アルカナムの暗影を込めた声音から放たれるその言葉の意味する事は、
「……詰まり、最高位の邪神を殺すしかないって事か……?」
再び、神喰の心に暗雲が立ち込める。
普通に考えて人間では“神”に打ち勝つ事など不可能であり、それは地面に落ちている石を宙に浮かばせようとする様に滑稽な努力である。
そんなどうしようもない状況に訪れた停滞を先に裂いたのは、他でもない神喰の向かいに座る人物。
「――神喰、少し質問をしていいか?」
「え? いいけど……」
唐突にアルカナムが真剣な様子で質問を投げ掛ける意思を示す。
そんな彼の突然の発言を不思議に思いながら、神喰は来る筈の質問に備える。
「グール……詰まりはオマエを襲っていた化け物の事だが、オレが最後に殺した個体は顔に傷を負っていた。あれは何だ?」
一見、全く関係の無さそうな質問ではあるが、ここで質問に答えなければ唯一の手掛かりを失う事になりかねないだろう。
「あれは何だって……ただ殴っただけだけど? 苦し紛れにさ。まぁ、全く意味無かったけど」
「そうか……次だ」
アルカナムより、神喰に対しての質問の嵐が吹き荒ぶ。
「神喰、オマエは『魔術』や『呪術』の類を扱う事が出来るか?」
その質問に神喰は驚愕した様にギョッとして、
「いやいや! そんなのが使えたら、グールとか言う化け物を俺がこの手で殺せばいいじゃん! 当然、使えない!」
「そうだよな……最後だ」
神喰にしてみれば意味不明で良く分からない質問が飛んで来る。
最後の質問が飛んで来ると予想した神喰はどのような質問が飛んで来るかと思案を巡らせるが、アルカナムは椅子からガタリと立ち上がって、
「神喰、オレを殴ってみてくれ」
まるで当然かの様な声音で意味の分からない願いを放つアルカナムに顔を引きつらせながら、
「ホントに何言ってんの?」
「いいから。ほら、ここに頼むぞ」
まさかのマゾヒズムかと神喰は錯覚するのだが、前に出した右の掌を左手の人差し指で示したアルカナムの堂々たる姿勢に根負けして、居間の開けた場所に移動して、
「――どうなっても知らねぇぞ!」
アルカナムの右の掌に神喰の左の拳撃が大気を裂いて迫って行く。
不格好な構えと不安定な軌跡を描いて迫る神喰の拳は、パァンと乾いた衝撃音を家中に響かせて、アルカナムの右の掌にガッシリと受け止められる。
全く以てアルカナムには響かなかったであろう。
――何故なら、グールを殴った時とは比べ物にすらならない鋼の如き堅牢さが、拳を伝って神喰の体に響いたのだから。
「……もういいぞ。ありがとう」
「どう言う事なんだ? これ?」
勝手に意味の分からない状況の終了を宣言されて、椅子に座り直した神喰はアルカナムに訝しげな質問を投げ掛ける。
「すまない、意味が分からないだろう。だが、これでハッキリした」
謎の納得を見せるアルカナムがテーブルに組んだ手を置いて、鋼の様な冷たさを持つ真剣さを放つ。
「――結論を言おう。神喰、オレと協力してイル=ミドースを殺さないか?」
またも放たれる意外な一言に神喰は目を白黒させる。
「それって……俺の呪いを解く為に必要な神殺し、その手伝いをしてくれるって事か? その結論に至った理由はあるのか?」
その当然とも言える疑問に対して、アルカナムは淀みなく答えて行く。
「まず一つ、オレがイル=ミドースに対して、個人的な恨みを持っているからだ。オレは『怪物』だが、同族の『怪物』を恨みを持って殺し続けている。その理由である傲慢な神モドキを殺したくて仕方が無いんだよ。この時点で目的は一致している」
「でも、アルカナム側のメリットが無いだろ? 俺みたいな一般人がいくら戦ったって置物同然だ――」
神喰の指摘に対して、半ば中断させる形でアルカナムは二つ目と言わんばかりに指を二本立てて、
「二つ目、神喰の持つ力がオレにとって有用であると考えられるからだ」
(俺の持つ力? そんなのある訳ないけど……)
「……その心は?」
神喰の持つ力などと言う完全に思考の外側の発言をした理由を問う神喰に対して、アルカナムはその三白眼を鋭くして、
「――通常、『魔力』を持たない一般人がグールなどの『怪物』を攻撃したとしても、大した傷を負わせる事は出来ず、速攻で再生されてしまう。そして、神喰はこのオレに対して、拳を“当てる”事が出来た」
「……? それって凄い事か?」
「あぁ。何故なら、魔力を持たない一般人がオレに攻撃をしようとしても、命中しないんだ。その事から、神喰には特別な力を持っていると考えられる」
アルカナムは冷然と、淡々と事実のみを述べて行く。
そこには冗談の類を一切感じない。
「……じゃあ、俺にはどんな力があるってんだよ……?」
神喰は自身に秘めているかもしれない力に期待するのと同時に、不安にも思っていた。
これを聞いてしまえば、自分は普通の日常戻れないのではないか。
自分は人とは決定的に違う存在になってしまうのではないか。
そんな不安を他所に、アルカナムは自身の見解を述べる。
「――憶測にはなるが、オマエに宿る力。それは『怪物』に対して、通常よりも有効的なダメージを与えられると言う効果と、特定の手段を用いないとダメージを与えられない『怪物』に等しくダメージを与えられると言う物だろう」
「……それって、どう言う事?」
パッと見ただけでは分からない、トレーディングカードゲームのテキストを見た様な気持ちに包まれる神喰に、アルカナムは少し思案して、
「例えば、幽霊は普通には干渉出来ない感じがあるだろ? そんな奴にも普通に殴れるのがオマエの力だ。そして、『怪物』に対する特効があると考えられる。オレに食らわせた拳も筋力に比べて余りにも威力がある様に感じた。流石に人と喧嘩くらいは幼少期にしているだろうから、その時にこの力に気付いていないのなら、効果が適用されるのは『怪物』に限定される」
長々と説明されたが、詰まる所は、
「俺は生きる化け物キラーって事か」
「そう、その確率が高い。そして、イル=ミドースは銀の武器で心臓を貫かないと死なない。オレはアンデッドだから銀みたいな聖なる物には触れられない。もう分かったんじゃないか?」
「そう言う事か!」
神喰は合点が行った様に声を上げて、
「アルカナムはイル=ミドースを殺したいけど体質的に殺せない。だけど、俺が居れば殺せる可能性がある!」
「そして、オレ達の目的は一致している」
漸く神喰自身も完全に合点が行った。
詳しい部分は未だに理解出来ないが、状況は完全に理解出来た。
「さて、神喰朔人。オマエはオレと手を組んで『異能』の世界に足を踏み入れ、自身の命を脅かすだろう『怪物狩り』の世界に身を置くか否か。それを決めてくれ」
(多分、時間は掛けてくれない。今決めるんだ。“変わるのか”“変わらないのか”)
神喰は自身の過去や掴み取りたい未来を思い描く。
どうしようもなく理不尽で、どうしようもなく虚しい過去を未来に繋ぐのか。
自身の希望と切望した願望を達成する為に、過去を置き去りにするのか。
――答えは決まっていた。
「アルカナム、俺は“何か”を変えたい。どんなに小さい希望でもそれに縋りたい。俺は『怪物狩り』になる」
揺らぐ事すらない凄絶な決意の灯った瞳でアルカナムを射抜いて、神喰は肯定の意を表明した。
その決意の肯定を受けて、アルカナムは少し申し訳なさそうにしながらも、少年の決意を受け取ったと言わんばかりに頷く。
「そうか。ならば、オレも迷いを捨てよう。これからオレ達は“仲間”だ」
「……! あぁ!」
アルカナムの歓迎の言葉を受けて、神喰の心からの喜びが轟いた。
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