想い

「あと10分くらいだぞー頑張って解けー」

 数学の授業。今日は章末問題を解いている。数学だけは得意だからかなり早く終わってしまって暇だ。

 黒板を眺めていると、なにやら左側から視線が…

「…なに」

 小声で言う。僕に気づいて貰えたのに安心したのかにこにこしていてちょっと可愛い

「ここの問題教えてよ。どうせ早く解き終わってるんでしょ?」

「ここ…この単元の基礎中の基礎だけど」

 信じられない。基礎が分からないなんて今までどうやって授業を受けてきたのか。

「正直なーんもわかってない!」

 彼女なりに声の大きさは抑えてるらしいが、普通に喋るくらいの声にしか収まってない。

「さすがに今1から教える時間ない。」

「えーけちー」

 いやいや、ちゃんと授業理解して学校来いよ。思った通りだったがこんなにも勉強ができないなんてと呆れた。

 授業の終わりのチャイム

「じゃあ次回までにやってくるように」

 先生はそういい足早に職員室に帰って行った。


「頼む!七瀬!まじで教えて!!!」

「なんでお前基礎の基礎から分かってないんだよ…」

「しょうがないじゃん!中学範囲からわかんないし!」

 おいおいまじか、どれだけサボってきたんだ。そしたらこの高校にどうやって入学してきたのかも謎だ。


「はぁ…放課後空いてるの?」

「あいてる!」

「じゃあ放課後教える」

「さっすが七瀬くん!頼りになるなぁ〜」

「お世辞言うなら勉強しろ」

「あれ」

 そんな話をしながら次の授業の支度をする。海琴が僕に話しかけに来る前と比べて毎日が輝いているように感じる。人と話すことがこんなにも人生を明るくするなんて初めて気づいた。


「あ、そういえば」

 彼女が口を開く

「もうすぐ席替えだね」


 その言葉を聞いた瞬間僕は頭も体もフリーズした。

 席替え。海琴と離れる。


「え」

 気づいた時には声が出ていた。人を絶つことすらまともに出来なくなるとは。

 ただの知り合い、のはずなのに。離れたくないという気持ちが強くなる。

 あぁ…僕、


 海琴のこと、意識してるのかな。

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信頼。 奏風 @kanata1003

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