第3話

「聞いてもいいか?」


「何を」


「その怪我、そして何であんな所に居たのかを」


二人のいる部屋の空気が重くなった。

先程まで笑っていた彼女の表情は真剣なものになっていた。


「聞いたら後悔するぞ、なんとも言えないが・・・・この学生寮に戻って来ることはできないだろうな」


「聞かなくても聞いても、すでにベーセルを助けた時点でこの後ベーセルがここから出ていって俺と再び会うことがなくても俺になんらかの影響があるだろ。だから教えてくれないか?」


「・・・・面白いなお前、このまま何も聞かずに私のことを忘れれば少しは長く生きられたかもしれないのに。そこまで言うのなら教えようか、“最下位”」


何故かそう言った彼女は少し嬉しそうな笑みを浮かべていた。


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「私があそこで倒れてた理由は、言うまでもないが殺されたからだ。いや、まだ死んでいないから殺されかけたの方が正しいな」


彼女は一度天井を見上げてまた話し始めた。


「私は妹を探してたの、突然消えてしまったたった一人の家族をね」


「消えちまったのか?」


「そうよ、まるでそこに大きな穴が開いたみたいにね。探すために私が目をつけたのはあれよ」


テレビに映っているニュースの画面を指差した。最近の放送では見慣れた数十人の氏名と年齢、顔写真が並べられていた。


「神隠し事件か・・・・」


「そう、消えた時期も地区的にも同じ。これで神隠しの事件と関係なかったらもう他に手の打ちようがないな」


「それで?誰とやり合ったんだ?さっき手当てする時に見たがその怪我、能力によるもんだろ」


「・・・・これは」


彼女が言いかけた瞬間、突然室内の電気が消えて暗闇に包まれた。


「ブレーカーが落ちたのか?」


そう言って瀬上はブレーカーの設置されている玄関の方へと行こうとしたが背後からベーセルが彼の腕を掴んだ。


「行っちゃダメ、あいつが来る」


「あいつって、その怪我をさせた?」


彼女は瀬上の問いに黙ったまま頷いた。

額には冷や汗が見える。


二人のいる空間は静寂、夜の暗い外はたまに通る車の明かりや走行音が鳴っている。


二人の耳には部屋の向こうの外廊下を人が歩く音が入ってくる。

足音の数は一つ、二人に段々と近づいてくるその足音は二人のいる部屋の前で止まった。


ドアノブが一度回された。

当たり前のように鍵を閉められた扉が開くはずもなく突っかかった。


「瀬上はPFSPに連絡してくれ」


「ベーセルはどうするんだ?」


「私はもしもの時に備える」


彼女の手から展開された半透明なバリアが二人を正面から包み込む。


瀬上は手持ちのスマホからPFSPに緊急コールメールを送信した。


「真也伏せろ!」


「えっ」


彼女の大声に彼は思わず振り返った。


ベーセルは真也を押し倒す形で床に倒れた。


そして直ぐに崩壊の音が響いた。

壁が崩れる、物が焼ける、ガラスが割れる。


床に押し倒された真也が目を開くと室内は様々な物が散乱し、焦げ臭かった。


「ベーセル大丈夫か⁉︎」


「・・・・」


返事は帰ってこない。


自分を床に押さえつけるように倒れた彼女は気を失っている。

彼女を抱えようとベーセルの背中を触ったては血を触る時の感覚がした。

深夜が彼女の背中の上で手を動かすと痛みをこらえる時の声が漏れた。

だが彼女が起きる気配はない。


室内の所々にはまだ微かに炎が残っている。


立ち上がって玄関の方を見た彼が見たのは全身黒服で服から飛び出した手や首の肌を隠すように体には包帯が巻かれている。


ベーセルのバリアが崩れていることに気がつき

迫り来る危機感に真也は足が一歩後ろにさがってしまった。


男が一度指を鳴らした。


すると室内に残っていた弱い炎が再び激しく燃え始めた。

室内は赤く照らされ、あっという間に二人を囲むように周囲が火の海となった。


「誰だお前!」


「・・・・」


黙ったままの敵と向かい合わせ、黒包帯の男は攻撃のタイミングをうかがい真也は逃げるタイミングをうかがっていた。


だがその緊迫感を切るかのように外から緊急車両が走行時に鳴らすサイレンの音が聞こえた。


黒包帯は一瞬、真也たちに向けていた視線を音の方に向けた。


その本の僅かな隙をついてベーセルを抱えた真也は破られた窓ガラスの方へと走った。


だが黒包帯の反応も早く、再び指を鳴らす。

巨大な炎の手が窓から飛び降りる二人を掴もうと外へと伸びていく。


空中で彼女を抱き抱えた真也は二酸化炭素が多量になった空間で大きく息を吸って一息分の酸素を吸い込んだ。


深く、口から息を吐き出す音が聞こえる。

食いしばった歯の隙間から漏れた息が外気が冷たいわけでもないのに煙のように見えた。


太鼓が叩かれた時のような響く音が突然鳴り響き、空中にいる二人に触れる間際だった炎の手は爆発で吹き飛ばされるかのように消えていった。


真也は途中から空中で減速を始めて静かに地面へと着地した。


彼は振り返って窓の破壊された自室を下から確認した。

上を見上げた彼の顔に水滴が当たった。


「雨か・・・・」


「うっ・・・・」


痛みをこらえる声が聞こえた。


「そうだ怪我!」


真也は周囲の寮の部屋に目をやった。

室内の灯りがつき、先ほどの音や巨大な炎の手で起きた学生がいるのがわかる。


「今はベーセルの手当が先だな」


そう言い、彼の体のある空間が一瞬揺れて二人の姿は見えなくなった。



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