第2973話 ヒーローというピエロ。


「正確に憶えていないが、俺の本当の存在値は、確か、5~60兆ぐらいはあったはずだ」


 などと、うそぶいているが、心中では、


(やべぇなぁ…………『相手がアダム』で『救わないといけない』という前提がある以上、『自爆の魔カード』は使えねぇ……最悪きわまる……さぁ、どうする、どうする、どうする……考えろ……考えろ……)


 極上に焦りまくっているが、アダムのために、それは表に出さないよう努めた。


 ヒーローを名乗ってしまった以上、

 『敗北をにおわせること』は絶対に許されない。

 どんな状況に置かれても、不敵に笑って『問題ない』と言い続けなければいけない。


(……しんどい仕事だな……このヒーローってブラック職業は……)


 心の中で、ファントムトークを展開していく。

 自分の言葉を、自分で笑う。

 そうやって、『自分の弱さ』に膝カックンを入れていく。


 ――己自身さえも、『ヒーロー』という『道化(ピエロ)のジョーク』で黙らせる。



(ヒーロー見参……ヒーロー見参……ヒーロー見参……ヒーロー見参……ヒーロー見参……)



 自分はヒーローじゃない。

 ヒーローなんていない。


 ――全部わかっている。

 誰よりも分かっている――だからこそ、



「ここには、俺(ヒーロー)がいる!! だから、何も終わらねぇ!」



 誰よりも高らかに、

 センは、その覚悟を謳(うた)うことができるのだ。


 ――アダムは、



「なにが、ヒーローだ、バカバカしい」



 そう言いながら、『右腕だけ』に魔力とオーラを集中させていく。


「貴様ていどのザコは右腕だけで十分だ。私という『絶対に超えられない壁』を前に、とことん絶望しつくして死ね」


 そう言いながら、右手をクイクイっとさせて、『先手はくれてやるから、かかって来いよ』のメッセージを伝えてくる。


「どちゃくそ丁寧にナメてくれるねぇ……」


 言いながら、心の中で、


(不快を通り越して、普通に、ありがてぇ……どの戦場においても、先手を取れるかどうかは、超大事だからなぁ……)


 そうつぶやきつつ、

 センは、100枚デッキになっている花札の束を召喚し、

 それを空に放り投げながら、


「――豪雨百光(ごううひゃっこう)・猪鹿蝶(いのしかちょう)――」


 そう叫ぶと、

 100枚の花札は、それぞれ、人型に変形していく。


 合計100体の神獣。

 カースソルジャー軍団。



「行くぞ、カースソルジャーどもぉ! 死ぬほど練習してきた奥義『カース・ストライクフリーダム』の恐ろしさを見せつけてやれぇ!!!」



 その号令を受けると、100体のカースソルジャーたちはいっせいに、

 アダムの周囲をウロチョロしだした。


 いっさい、攻撃などはしない。

 ただ、ひたすらに、ウロチョロ、ウロチョロと、走り回るだけ。


 その様子を、小バカにしたような顔で見ているアダムに、

 センは、喉を枯らす勢いで、


「カースソルジャーは戦闘力とステータスに関してはゴミだが、『自身に付与されている状態異常』を『範囲内にいる敵』へ『高確率でなすりつけられる』というすばらしいスキルを持つ! 『大量の状態異常系のデバフ』が積まれた状態で召喚されるようになっている大量のカースソルジャーをウロチョロさせることで、『状態異常に対する耐性が極悪に高い神』が相手でも、デバフをおしつけることが可能! ちなみに、今、カースソルジャーにかけている状態異常は『麻痺』! この暴露で、さらに、デバフをなすりつけられる可能性上昇!」


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