第2749話 理解しているから、なんだというのか。


 ――まあ、なにはともあれ、

 どうにか、彼女たちのことも救出し、

 彼女たちの怒りと悲しみを受け止めたセンは、

 軽く、その場で、今後の方針的なものをヌルっと話し合ってから、

 裏ダンジョン・ゼノリカに戻った。


 すると、そこでは、

 センの系譜に連なった者たちが、

 完全平伏状態で、センを待っていた。

 完全平伏&全力お祈りモードの彼・彼女らを見て、

 センは、普通に絶句した。


(うわぁ……しんどぉ……いや、もう、こうなることは分かっていたけど……しんどい、しんどい……)


 眉間にシワをよせることしかできないセンに対し、

 最初に口を開いたのは平熱マンだった。



「師よ……あなた様の尊さだけが、ボクたちの生きる道標」


「……ちょっと、何言っているかわかんないな」




 もともとセンに対しての忠誠心が天元突破していた彼だが、

 『この上なく尊き魂の系譜』に連なったことで、

 『彼の中』にある『センに対する想い』は、

 さらに、濃度のエグい異次元の領域に到達した。


 平熱マンの目は、完全にガンギマっていた。

 常軌を逸した愛がにじみ出ている。


 平熱マンのソレが、一段階深いのは事実だが、

 ほかのメンツも、なかなか負けていなかった。


 彼らのセンを見る目は、

 愛情と言っていいのかすら、もはや分からないレベルで狂っていた。


 そんな彼らに、

 センは、



「えっと……まあ、あれだ。アルテマウムル・シャドーとの闘い、本当に見事だったよ。お前たちは俺の誇りだ。愛してるぜ」



 親としての役目を果たす。

 親の役目は、死ぬ気で子を愛すること。

 『母からもらった愛の意味』を知るセンは、

 当然のように、自分の子にも、愛をそそぐ。


 センからの言葉を賜(たまわ)ったゼノリカの面々は、

 失神寸前の顔でセンを見つめていた。


 本当なら、『アイドルのコンサート会場でウェーブする熱狂ファン』ばりに、歓喜の声をあげたいところなのだが、彼・彼女らは、必死になって、グっと抑えた。

 必死に心を整えて、神の軍勢としての威厳を保つ。


 ただ、涙を流すことだけは止められなかった。

 命の雫。

 自制したのも事実だが、言葉にならなかった、というのも、また事実。

 気づけば、止められない涙があふれていたんだ。


 ――『センの想い』は理解しているつもりだった。

 『センの献身』は『命を注いでもらった時』に、

 『すべて理解できた』と思った。

 それは事実で、

 彼らは、センを誤解なく理解できている。


 センエースという神が、

 間違いなく、『この上なく尊い命の王である』

 と、この場にいる誰もが正しく理解している。


 しかし、



 ――理解しているから、なんだというのか。



 センから言葉をもらった時、

 魂の奥が震えた。

 脳の中が甘さで満たされた。

 ドーパミンや、セロトニンや、オキシトシンが、

 許容量をシカトして、ドバドバと頭の芯を満たしていく。

 全身が燃えるように熱くなり、

 命の全てが、センを求めだす。


 『この御方にもっと尽くしたい』という、

 震えるような欲求だけがゼノリカの全てを包み込む。


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