第2704話 センエースを知らないという罪。


 ウムルの言葉を聞いて、カンツは、一人の青年を思い出す。

 かつて、一緒に仕事をした愚連のA級武士。

 ネス(NES)という名前の、目つきが悪いへちゃむくれ。

 存在値は大したことなかったが、根性の入り方が異常だったので、よく覚えている。


(まさか……)


 などと頭の中で思っていると、

 ウムルが続けて、


「命の壁を前にして、もがき、あがき、苦しみながらも、それでも、あいつは、世界のために奔走していた。だから、お前らは、のうのうと生きてられたんだ」


「……本当に? ……いや……だが……そんなこと……」


 『ウムルの言葉』を『飲み込む』のが難しい。


 『言葉の意味を理解するだけ』なら簡単なのだが、

 『相手の想い』を正しく理解するのは本当に難しい。


 カンツは、あらためて、『目の前にいる敵の大きさ』を理解しようと頭を動かした。

 『恐怖で体が動かない』ということはないが、

 実際問題、グチャグチャにされすぎていて体が、思うように動かない。


 ウムルという名のこの強敵は、あまりにも強大。

 折れるわけにはいかないから、必死になって立ち向かっているが、

 できる事なら尻尾をまいて逃げ出したいというのが本音。


 こんな地獄を処理することを『唯一の責務』と押し付けられた者の苦悩。

 その責務を果たすだけでも大変なのに、

 それ以外の面倒な仕事も、実は必死にこなしていた。


 それがセンエース。

 命の王。


 ――そんな話を聞かされても、

 飲み込むのが難しい。

 そんな、むちゃくちゃな存在が、本当にいるのかと、

 どうしても、常識に照らし合わせて懐疑的になってしまう。


 自分なら出来るだろうか、と、そういう視点で考える。


 カンツならば、やろうと思えばできるかもしれない。

 ただ、


(どれだけ……)


 それが、どれだけ大変な仕事なのか、想像するのは難しくない。


 カンツは、思わず、奥歯をかみしめてしまった。

 もし、ウムルの言葉が真実であったならば、

 そう考えると、そんな場合ではないのに、

 つい、今までの自分を恥じてしまう。

 センエースに対する敬意が足りなかったことを、

 心の底から後悔する。



 ――そんなカンツに、

 ウムルは言う。


「センエースの献身を理解しようとすらしなかったカスが、誰よりもセンエースを知っている私に勝てるわけがないのだよ」


 そう言いながら、

 ウムルは、カンツの腹部に手刀をぶち込んだ。


「ごふっ……」


 盛大に吐血するカンツ。

 ウムルは、そこで手を止めず、

 カンツの中身をぐちゃぐちゃにしていく。


「ぐぅうう、ぎぃいい!」


「貴様の根性だけは認めてやるよ、カンツ・ソーヨーシ。普通ならとっくの昔に気絶しているところ。貴様の根性と覚悟は紛れもなく本物。けど、やはり、大事なものが足りていない。貴様はセンエースを知らない。だから、ぬるい。結局」


 そう言いながら、ウムルは、カンツを投げ捨てる。


 そこで、ウムルは、全体を見渡して、


「あとは、ジャミを削り切れば終わりかな。『アンリミテッド・ヴェホマ・ワークス』は鬱陶しいが……ぶっちゃけ、『ギャグ漫画補正』の劣化版にすぎない。カンツが静かになれば、ゼノリカはもう終わ……ん?」


 そこで、ウムルは足元に目をやった。

 自分の足首を、カンツのボロボロの手が掴んでいた。

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