第1460話 『存在値10000』VS『存在値170』


「はい、これで11発。残り999999989発。はっ、ヌルいな。課せられたノルマが、その100倍でも、まったく足りないレベルだ」


 ハッタリではなく、

 心の底から本気でそう思っていそうな顔で、

 そう言い切った。


 本当に、

 いっさい、

 淀みのない顔だった。


 『存在値10000という暴風のような死』を前にした『極限状態』で、

 『10億回拳をふるう』程度は『楽勝だ』と、

 ――間違いなく、勘違いじゃなく、

 『本気で思っている』としか思えない、徹底的にイカれた狂気の顔。


 その狂った相貌を受けて、

 バンスールは、


「……きょ……狂人……」


 薄く震えながら、そうつぶやいた。

 気づけば魂魄が引いていた。


 ダメージどうこうではなく、

 カドヒトの思考形態にドン引きしてしまう。


 鬼引きしているバンスールに、

 カドヒトは、ニっと微笑んで、


「軽い一端を見ただけで評価を下すなよ。俺の狂気は、そんな一言で終わるほどヌルくねぇ。『頭おかしい選手権の殿堂入り』にして、『変態ランキング、200億1万年連続ブッチギリ一位』のキ〇ガイファンタジスタ……このカドヒト・イッツガイのイカれっぷりを……さあ、とくと味わってもらおうか」


 狂気の笑顔で、

 艶やかに、

 舞うように、


 カドヒトは、バンスールを制圧していく。


 存在値170と10000の闘い。

 圧倒的に、カドヒトの方が不利で、

 普通に考えたら、勝てるわけがない闘い。


 しかし、終始、

 カドヒトが、バンスールを押し込んでいた。

 というより、バンスールの方に『勝ちの目』は1ミリもなかった。


 ボッコボコにされて、

 しかし、まだまだHP的には余裕があって、

 なのに、まったく勝てる気がしないという奇妙な絶望の底で、

 バンスールは、


「なんだ……これは……どうして、こんなことになる……なぜ、圧倒的に格上であるオレが、赤子のようにあしらわれている……こ、こんなの……絶対に、おかしいだろ……」


 憤りの底にいるバンスールに対し、

 カドヒトは、

 冷めた声で、


「お前の存在値……確かに『10000』になっているようだが、しかし、どうやら、基礎存在値が10000になっているというわけではないようだな」


 闘いの中で、カドヒトは気づいてしまった。

 しょせん、ハリボテでしかないということに。


「……『特殊な覚醒技』から算出される『俺の知らない計算式』で『存在値を引き上げている』というだけ」


 だから、パっと見は輝いて見えた。

 なんだって、知らないモノは大きく見える。

 ――が、よく見てみると、

 ガワだけの虚栄でしかなかった。


 世界のリミットは、

 何一つ揺らいでいなかった。


「俺やバーチャ以外にも『現世で神代(かみよ)の力を使える者がいた』という点は驚愕ものだが、しかし、それ以上の『異質』じゃない。というか、お前の力は、なんだか、バーチャの異質をコピーしている感じに思えてならねぇ。実際のところどうかは知らないが……まあ、多分、俺の勘は当たっているだろう」


 異質の本質はつかめないが、

 しかし、そんなもの、カドヒトにとってはどうでもいいこと。


「しょせんは、二番煎じ、三番煎じ。飽き飽きしているとまでは言わないが……まあ、でも、やっぱり、普通に、ガッカリだな」


 その軽い言葉とは裏腹に、

 心底からの落胆を感じさせる『深いタメ息』をつきながら、


「そろそろ五分が経過するな……さあ、カオスバンプティルーレットをまわせよ。今のお前じゃ、このまま殴られ続けるだけだぞ。こんなところで止まるんじゃねぇ、もっと先へいけ」


「………………な、ナメやがって……」


「この状況で、どうすれば、俺がお前をナメずにいられるんだよ。その道理があるってんなら、マジでわかんねぇから、教えてくれや」


「ば、バカにするのも、いい加減にしろぉおお!!」


 そう叫んでから、


「まわれぇえええ! カオスバンプティルーレットォオオオ!!」


 グルグルグルッと、いつもより高速で回転するルーレット。

 それを横目に、バンスールは、



「絶望を教えてやる! カオスバンプティルーレットには、追い込まれた時にしか出ない目がある!!」



(だろうな、その感じだと、そうじゃないかなぁ、と思っていたよ。テンプレとまでは言わないでおくが……まあ、でも、お約束感は否めねぇ)


「オレの混沌を、ナメるなよ、クソガキっっ!」


 叫んでから、


「とまれぇええええええ!!」


 命じると、

 ビタァァっと、回転が停止した。


 その項目が示したものは、




「はっはぁああああ!! 超々々々々大当たりだぁああああああ!」



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