第1459話 ヌルすぎる作業ゲー。


「……めちゃくちゃな皮算用だな」


「正確性皆無の皮算用に頼らざるを得ないほど、俺は次のステージに飢えている。それだけの話だよ」


 そう言うと、カドヒトは、全身のオーラを充満させる。

 グっと、深みが出る。

 陰影が濃くなる。


 カドヒトは、穏やかな笑顔を浮かべ、

 まっすぐに、バンスールの目を見つめながら、


「それでは、はじめようか。『存在値10000』VS『存在値170』という、50倍以上の差がある『とんでもないハンディキャップ戦』を」


「闘いになどならない。いくら、貴様の戦闘力が高かろうが、これだけの差をひっくり返すことは流石に不可能」


「そうだな。普通なら絶対に不可能だ。50倍どころか、5倍だって厳しい。けど、俺は普通じゃないんでね」


 そう言ってから、

 カドヒトは、

 空間を跳躍した。


 テクニカルな瞬歩。

 颯(はやて)のごとく、軽やかに舞う。


 ――けれど、バンスールからすれば、遅すぎるムーブ。

 その目は、容易にカドヒトの動きをとらえる。


「見えているぞ。当たり前だがな」


 そう言いながら、

 バンスールは、

 豪速の瞬間移動で、

 問答無用に、カドヒトの背後をとって、


「異次元砲!!」


 凶悪な魔法を放った。

 タメ時間最短の、回避を許容しない暴力、


 ゆえに『確実に当てた』――

 と思った、

 が、




「背後は死角じゃないんだぞ、っと」




 カドヒトは、異次元砲が後頭部に直撃するスレスレのところ、

 軽やかな下降型の緊急回避で、亜空間へのダイブを決め込むと、

 そのまま、うたうように、無数の次元を跳躍し、

 山ほどの絶技と奇策を組み合わせながら、

 鬼速の寄せを見せると、



「――閃拳――」



 バンスールの正面から、

 絢爛(けんらん)かつ超俗的な閃拳を叩き込んだ。

 すべての常軌を逸していく飛湍(ひたん)。

 まるで流星をテーマにした吟詠(ぎんえい)。


「ぐっ」


 激流ではない。

 暴風たりえない。

 ゆえに、たいしてダメージは通っていない。

 重量を感じる程度の小唄。



 しかしゼロではない。



「信じられん動きをするな……しかし、意味がないぞ。存在値170の攻撃など、たかが知れている。何百発ぶちこまれようと――」


「何百発?」


 カドヒトは、バンスールの言葉を途中で遮って、


「バカか、お前。存在値の差をちゃんと計算しろ。何百発程度でどうこうできる差じゃないだろ。現状における俺の拳で、お前を削り切ろうと思ったら、最低でも、『10億』発は必要だ」


「……その事実を理解していながら、なぜ、抗う?」


「イカれてんのか、お前。理解しているから、抗っているんだろうが。『無限を必要とする』と言われれば、さすがの俺でも『軽く引く』が『雑魚に10億を打ち込む程度の作業』は、俺にとって『昼バラの罰ゲームレベル』でしかない」


「先ほどの一発だけでも、狂気の集中力を必要とする一手! それを、数億の単位で行うなど――」


「できるわけがないって? アホぬかせ」


 カドヒトは鼻で笑って、


「ヌルすぎて、逆にしんどいレベルだよ、この程度の作業ゲーなんざ」


 そう言いながら、

 カドヒトは、

 丁寧にオーラを練り上げて、


「――『十閃楽団』――」


 華麗なる10連コンボを叩き込む。

 億を超えて繰り返してきた、流れるような豪速の連撃。

 狂気のコンボ型グリムアーツ。


「ぐっ、ぶぐ、ぐひっ、がは――」


 その一発一発は、バンスールからすれば、

 さほど大きなダメージにはなっていない。

 HPゲージは、ちょっとずつしか減っていない。


 しかし、減ってはいる。

 確実に。


 十連コンボが終わったところで、

 カドヒトは、


「はい、これで11発。残り999999989発。はっ、ヌルいな。課せられたノルマが、その100倍でも、まったく足りないレベルだ」


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