第1110話 ついに、扉の向こうへ。
センエースが瞬間移動した先は、当然『禁域』。
ワクワクしながら、例の『でかい扉』の前に立つと、
「まあ……『飛び級は認めません』とか言われてガッカリするだけの可能性も大いにあるが……モノは試しだ。最悪、ダメなら、三次を受ければいいだけの話」
などとブツブツ言いながら、『冒険の書』を扉に入れようとしたところで、
「え、マジで、今から行くんでちゅか?」
シューリにそう言われ、
「さんざん待たされたんだから、そりゃ、すぐに行くだろ。もう、なんていうか、こちとら、体感的には、一年くらい待たされた気分なんだよ」
「……あいかわらず、我慢の利かない子でちゅねぇ。いつもいつも『気分と勢いだけ』で行動しようとして……悪いクセでちゅ。その扉を開けた瞬間に『ものすごい敵』が出てくる可能性もゼロではないんでちゅから、しっかりと準備をしてからにしなちゃい」
「うっせぇ、ババァ。俺は俺のやりたいようにやる! 誰の指図も受けない!」
「誰がババァでちゅか! 『世界一の女神様、お慕い申しております』と言い直しなちゃい! そして、ここにひざまずき、足をなめなちゃい!」
「調子にのんなぁ!」
いったん一喝してから、
スゥと息を吸って、
「準備っつったって、別にやることなんかねぇだろ。手持ちのアイテムは既に最強の布陣だし……今の俺ですらヤバくなりそうな相手だったら、俺以外、全員瞬殺だから、近衛を連れていくってわけにもいかんし。そもそも、ぞろぞろと護衛を引き連れて歩くとか、俺の性格的にムリ寄りのムリだし」
そこで、
ワガママな神に、
シューリが切り込む。
「お兄……まだ『P型センキー戦で得た力のコントロール』がうまくできていないでちゅよね」
「……ぅ」
「あの『蝉なんとか』っていうカスの前では『余裕の楽勝』みたいな顔してまちたけど、実際のところは、まだ地に足がついていちぇんよね」
「うぐぐ」
『いきなり手に入れた力』を完璧に扱えるほど、
センエースは天才ではない。
というより、センエースは凡才。
積み重ねることでしか力を得ることができない、
『天才の対義語』ともいうべきスーパー凡夫。
「せめて、それをマスターしてからにしなちゃい」
「……む~」
不満げな顔を隠しもしないセン。
センは、数秒悩んでから、
「じゃあ、チラっとだけ覗こう? 『何があるかなぁ』って見るだけ。それだけ。ちょっとだけ! ちょっとだけだから! これからはシューリの言う事聞くから! 勉強もするし、部屋も片付けるから!」
「……ぅ……しょうがないでちゅねぇ……ちょっとだけでちゅよ」
あっさりと折れたシューリの背中に、
アダムが、
「はやっ……おい、折れるのがはやすぎるぞ、シューリ。なんだかんだ、貴様は主上様に甘すぎだ」
「だって、なんでも言うことを聞くと言っているんでちゅよ! それは、つまり、これからは、お兄は、オイちゃん専用の肉バイブになったということ――」
「なわけねぇだろ!」
即座に文句をつけるセン。
それから、数分、
あーだこーだあってから、
「……ま、とりあえず、ヤバそうだったら退却して準備を整えるということで……」
結局のところ『いったん、扉の向こうを覗いてみよう』ということに落ち着いた。
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