第1109話 あっぱれ、褒めてつかわす。
「ちょっと小突いただけ。褒められるようなことじゃ……ってか、お前、何、上から言ってんだ。お前に褒められたって、ちっともうれしくねぇよ」
「そうか。なら、これではどうだ?」
そう言って、
少しだけ、
――ほんの少しだけ、
――シーバンにだけ届くよう、ほんのわずかに、
いと高き神気を開放した。
その瞬間、
「っっ??!! ――がぁ……っ……!!」
シーバンの脳髄に、ズガンと衝撃が走った。
目の前で膨れ上がった『何か』に対し、
魂が震えあがり、
心が『いつもの居場所』を見失った。
「ぁ、ぁ……」
光だった。
とても、とても、大きな光。
まるで、すべてを包み込むような、
そんな、とてつもなく尊き輝き。
――光の主は、穏やかな口調で、
「お前の想い、お前の覚悟……そして、お前が積み重ねてきた強さ……しかと、この目で見届けたぞ。あっぱれ。褒めてつかわす」
ただの言葉のはずなのに、
一語一句が、脳の深い部分に触れてくる。
「ぁ……ぅ……ぅうう……」
言葉をつむげない。
ただ、圧倒される。
その大きさに、
その尊さに、
「センBの調整に付き合ってくれた褒美に、冒険の書はくれてやる。『アレ』は俺がつくったパチモンだが『あのふざけた扉』以外に見抜けるやつはいない。売れば相応の金になるだろう」
渡す前にすり替えておいた。
扉のカギとしてはまったく機能しないゴミ。
しかし、その冒険の書は、センエースの手によってつくられた、この世にただ一つだけの究極超神器。
付加価値を考えれば、
『本物の冒険の書』なんかよりも、はるかに価値の高い至宝。
『その事』が、シーバンには理解できた。
シーバンほどの知性がなくとも、この光に触れた者であれば、誰だって理解できる。
だから、シーバンは、
慌てて、アイテムボックスに手をつっこみ、
センから与えられた『冒険の書』を取り出して、
すがりつくように、しっかりと、強く、強く、胸に抱いた。
かき抱かずにはいられなかった。
無機質な素材のはずなのに、
神々しい暖かさを感じた。
そしてシーバンは、反射的に、子を守るトラよりも獰猛な目で、周囲をにらみつける。
今のシーバンにとって、
これを奪われることは、心臓を奪われることと同義。
そんなシーバンに、
この上なく尊き神の王は、
「じゃあな、シーバン」
そう言って踵を返そうとする神に、
シーバンは、
「ぁ、ぁの……名っ……」
声がうまく出てこないのか、
ハッキリと発音できなかったが、
「名ま……名まっ――」
何を聞かれているのか理解できたセンは、
「書いてあるだろ」
そう言って、その場から姿を消した。
褒美はくれてやった。
それ以上のサービスは過剰。
神は自分を安売りしないのだ。
「ぁ……ぁ……っ」
シーバンは、あわてて、冒険の書に書かれている名前に目を向ける。
そこには確かに記されていた。
尊き神の名――
「セン……エース……」
その日、シーバンは神を知った。
この上なく尊き神の王に触れた。
その事実により、彼の人生は大きく変わる。
が、それはまた別の話。
ちなみに、シーバンと戦った『極限まで弱体化されたセンB』が、
メービーのもとへと向かうことになるのだが、
それもまた、別の話である。
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