第1086話 絶望的だな、同情するぜ。
「全戦闘データ更新完了」
――さらに、
「P型ルナ・センエースっっ!! 生成完了っっ!!」
強大な力を持つ携帯ドラゴンの召喚。
サクっと『完成してしまったP型センキー・ゼロオーダー』を前にして、
「……ぅ」
ゴートは、小さなうめき声をあげる事しかできなかった。
ハッキリと分かった。
理解してしまった。
携帯ドラゴンという聞き覚えのある概念に対して困惑するよりも先に、
膨れ上がったP型センキー・ゼロオーダーという驚異におののく。
肌でわかる。
デジタルな理解は不要。
――完全に超えられた。
ゴートの理解は正解。
もはや『ゴートの数値』は『P型センキー・セロオーダー』には通じない。
(こ、ここまでの強さに……こ、こんな速度で……ふ、ふざけるなよ、畜生……)
奥歯をかみしめて脂汗を流しているゴート。
――そんなゴートを横目に、
P型センキー・ゼロオーダーは、天を仰ぎ、
数度、深呼吸をしてから、
「くく……少しだけ落ち着いてきた。『整ってきた』と言った方がいいかな。人格と記憶がなくとも、『闘いの記録』さえあれば、『生命の象(かたち)』を『魅せる』ことはできる」
P型センエース3号だった時とはまったく違う、
超越者然とした、落ち着きのある態度。
『自分とは何であるか』の理解に届くと、
『哲学的思想形式』の『歪み』が解けていった。
『成すべきことがある』――ゆえに、他事(たじ)は全て些末(さまつ)。
「あらためて自己紹介しようか。俺はP型センキー・ゼロオーダー。ありとあらゆる『最強要素』を煮詰めた存在。いわゆる、『ぼくのかんがえたさいきょうの闘神』ってところかな」
「……」
「戦わなくても、雰囲気だけでわかるだろ? 流石に今のデータ量では『ルナ・センエースの複製』を『完全に行うこと』は出来なかったから、存在値だけなら、まだ、お前と同等か、少し上といった程度だが……戦闘力は、くらべものにならない。お前が俺に勝つ手段は皆無……ぁ、いや、まあ、現状だと、皆無ではないか。『極積みしたロマン砲』なんかをぶちこまれれば、あるいは削り切られる可能性もなくはない――が、しかし、そんなものに当たるほど、俺は弱くない。つまり、前提で詰んでいる。どうあがいても、お前じゃ俺には勝てねぇ。ご理解OK?」
ここまでとは違い、ペラペラとよくしゃべる口。
そんな彼に対し、ギリっと奥歯をかみしめて『強めの睨み』を送ることしかできないゴート。
「その顔、いいねぇ。状況を正しく飲み込んだ男の目。自分じゃ俺には勝てない。ハッキリと認識した表情。しかし、お前は逃げられない。どうしても俺と戦わざるをえない。なぜなら、リーンを開放するためには、俺に敗北を認めさせるしかないから……くく……絶望的だな。同情するぜ」
言いながら、
P型センキー・ゼロオーダーは、ゆっくりと、ゴートの目の前まで歩いてきて、
「さあ、戦おう。それともシッポをまいて逃げるか? 『どうしても戦わなければいけない』というお前の状況的前提は、『お前の想い』を下地にした覚悟量の話でしかない。だから、お前は、逃げようと思えば逃げられる。もし、逃げるなら追わないでいてやるけど、どうする?」
「……ふざけんじゃねぇ」
ゴートは、そうつぶやくと、
無数のジオメトリを出現させて、
『己がステータス』の『後押し』を強制させると、
そのままの勢いで、
『P型センキー・ゼロオーダーを殺そう』と、全力の拳をふるった。
結果は想像するまでもなかった。
『P型センエース1号』→
『P型センエース2号』→
『P型センエース2号|(ソル・ボーレ)』→
『P型センキー』→
『P型センキー・ゼロオーダー』
――と引き継がれてきた『戦闘力』は、かなりの練度で熟成されていた。
圧倒的な数値を誇る稀代のラスボス『ゴート・ラムド・セノワール』だが、
戦闘力に関しては、ハッキリ言って、今もカス以下のまま。
もちろん、サイコゾーン・サンクチュアリで訓練はしたので、
『戦闘力ゼロ』のザコではないが、
まだまだ、まだまだ、まだまだ、全然訓練が足りないので、
当然、P型センキー・ゼロオーダーの前に立てるほどの戦闘力ではない。
「……ぐぁあ!」
豪快に入った右ストレート。
「……ぶほぉ!」
流れの中で、ひざをぶち込まれ、
「……ごへぇええっ!」
左のアッパーでアゴをとらえられ、
ついには、
「……ぅ……」
なすすべもなくボコボコにされ、あっさりと膝から崩れ落ちるゴート。
ボロボロの姿で、片膝をつき、呼吸は肩でゼイゼイ。
相手になっていなかった。
こんなもの戦闘ではない。
――P型センキー・ゼロオーダーは強すぎる。
「まあ、当然の結果だな」
そう言いながら、P型センキー・ゼロオーダーは、あくびをかみ殺す。
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