第1026話 なるほど、これがセンエースか。


「……『センエース』をナメんじゃねぇ」


 最後にそう言って、

 ゼッキは、異次元砲を放った。


 迸(ほとばし)るエネルギーの乱舞。

 この一撃は強大。


 P型センエース2号は理解した。

 耐えられない。

 絶対に無理。


 ――時間が圧縮された。

 いわゆる走馬灯。


 死を前にして、全てがスローになる。


 そんな中で、


 P型センエース2号は、


(……?)


 『自分』に対して違和感を覚えていた。


(……なんだ……)


 圧縮された時間の中で、

 グツグツと、湧き上がる情動を感じる。


 その熱は、まるで、宇宙の開闢(かいびゃく)みたいに、

 『コンマの下に、数え切れないほどの0が並ぶ一瞬』を経て、

 一気に、震えるほど、爆発的に、膨れ上がった。


「……俺はヒーローじゃない……」


 さらに時間が圧縮されている。

 『一瞬』という概念そのものをコンパクト化させたような、

 そんな、理屈や原理といったシステムそのものを冒涜する虚空の中で、


「それでも……叫び続ける勇気を……」


 P型センエース2号は、

 叫ぶ!






「ヒーロー見参!!!」






 叫びに呼応して、

 P型センエース2号の『深部』から、

 滾(たぎ)る『何か』が溢れて弾け……


 ダムが決壊したように噴出した『想いの結晶』は、

 P型センエース2号の右手に宿り、

 世界を包み込むような閃光を放つ。


 ――P型センエース2号は、


「ぁあああああああっっ!!」


 ゼッキの異次元砲が、P型センエース2号をさらう直前、

 特異な輝きを放っている右手で、

 ゼッキの異次元砲をぶんなぐった。


 『いったい、どうやったのか』と後で聞かれても答えられないが、

 とにかく、この時のP型センエース2号は、

 死滅不可避な異次元砲を、

 その拳一つで黙らせた。


 異次元砲が、どの属性にも絶対に無効化されないきわめて万能な『無属性』かつ貫通タイプの照射であるコトなど『知ったこっちゃない』と言わんばかりのワガママな一撃。

 P型センエース2号の右腕に殴られた異次元砲は、


 パァァァァァァアアンッッ!


 と、膨らませすぎた風船のように弾けて消えた。

 『その瞬間における世界』を支配したのは、無粋な異次元砲の破裂音だけで……



「……はぁ……はぁ……」



 自分が何をしたのか、さっぱり分からないと言いたげな表情、

 ゼッキよりも明らかに驚いている顔で、

 P型センエース2号は、

 『既に耀きを失っている自分の右手』を見つめながら、


「……なるほど……これがセンエースか……ムチャクチャだな……」


 呆れ切った顔で、ボソっとそうつぶやいた。


 そんなP型センエース2号に、

 ゼッキが、


「いま……何をしたんだ?」


「……」


 問われるが、

 もちろん、一つも理解できていないP型センエース2号は、沈黙をはさんでから、


「知るか……俺に分かるはずがない。……逆に聞きたくて仕方がない。俺はいったい、何をしたんだ? 俺には絶対に分からないが、お前なら分かる可能性があるから、少し考えてみてくれ」


「……すげぇメチャクチャ言ってんな……お前、今、自分が言った事を、一度、文章にしてみろよ。そうすれば、自分の発言がいかにバグっているか理解できるはずだから」



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