第1020話 俺は、幽玄なる冥府の蜃気楼……


 魂魄が急速に高まっていく。

 異常な速度の上昇。

 その勢いは、留まる事を知らず、

 ゼンという個を、高く、高く、押し上げていく。


 ゼンが、下腹部に力を込めて、

 喉をからす勢いで、

 叫ぶ!!




「閃(せん)・聖(せい)・融(ゆう)・儀(ぎ)!!」




 宣誓の直後、

 ゼンの背中に、陰陽をゆがませたジオメトリが浮かぶ巨大な龍翼が顕現!!



 超魔王軍ゼノリカの決戦兵器ハイドラ・セイバーフッキ・ミラージュ!!


 その強大なるサブシステムとドッキングしたと同時、

 グニャリと、両者の互いの魂魄が歪みをみせた。


 


 一度、世界が静かになって、



 蒼よりも碧くまたたいて、


 そして、その歪みは、



 次第に整地されていき、



 いつしか、一柱の、輝く『殺神』となる。


 アスラシリーズの特徴である、ギラギラした凶悪なフォルムと、

 ハイドラシリーズの特徴である、奇形の禍々しさが見事に調和していた。



 聖なる輝きは、陽を裂き、陰を飲み込んで、まがまがしく濁り、



 気づけば、穢れた翡翠のオーラに変貌していた。

 嵐を想起させる凄艶(せいえん)な龍蛇と、残虐さを具現化した煉獄の烈鬼。


 弧を描きながら垂れた龍翼。

 ギラついた武道袴。

 周囲に展開させているのは、ミラージュシリーズの追加装備。

 ※ ミラージュルーク(耐性値と防御力を底上げしてくれる浮遊盾)

   ミラージュクイーン(たまに追撃してくれる気まぐれな浮遊銃)

   ミラージュポーン(攻撃力が高く従順な浮遊左手)

   ミラージュナイト(剣翼の手数を増やしてくれるオプション)

   ミラージュビショップ(常に回復魔法をかけ続けてくれる浮遊右手)


 背中から生えている八本の剣は、

 『絶死の翼』であり『蒼銀の後光』。


 その輪郭に、整った歪みを与える碧の波紋。


 脈動している蒼黒の肉と、それを部分的に覆っている洗練された装甲。

 そんな、禍々しい『脅威そのもの』を纏う、ゼン。


 装甲の接続部は絶えず発光していて、たまにブシュゥゥっと黒煙を吐いている。

 胸部で眩しく輝く、六角形で翡翠を含んだコアが、

 無尽蔵のエネルギーを生成し、

 ドクドクと駆動ラインに流し込んでいく。

 肉体にフィットした『邪悪なギュラリティフレーム』を荒々しく包み込む、

 細やかな碧を散りばめた金紫のフォトン。


 声も出ないほど神々しいのに、

 とても、美しいとは言えなかった。


 極悪極まりない、幻想的な死華が舞う。




 その美しき威容を前にしたP型センエース2号は、

 ほんのわずかな時間、心を奪われたが、


(おっと……あまりの出来の良さに、つい見とれてしまった……いかん、いかん)


 すぐに、我に返って、

 丹田に力をこめ、気合をいれて、


「……いい色だ。非常に、神々しい……その域に達したのであれば、尋ねざるをえないな……教えてみろよ、お前は誰だ?」






「俺は、幽玄なる冥府の蜃気楼。聖なる殺神アスドラ・ゼッキ・ミラージュ」






「薄味だな……お前の名乗りには、まだまだコクとホップが足りない」


「……そうか。なら、次までに、もっとノド越し良好な名乗りを考えておくよ」


「内容はどうでもいい。お前には、まだ殺戮の神を語るに足る深みを有していないというだけの事」


「……この歳で、すでに殺戮神の深みが出ていたら、それはそれでヤバいと思うんだが……」


 ポツリとそう言ってから、

 聖なる殺神アスドラ・ゼッキ・ミラージュは、その場から姿を消した。


 艶(あで)やかに時空を駆けて、

 P型センエース2号の背後をとると、

 『ゼッキに付き従う八本の神々しい剣』を、

 P型センエース2号の背中めがけて突きつける。


 直撃の寸前、

 P型センエース2号は、ゼッキの殺気に反応し、

 瞬間移動で回避した――が、

 そのムーブは完璧に読まれていた。


 ――ガシッッ!!

 と、ゼッキは、時空に逃げ込んだP型センエース2号を、

 ミラージュポーンで華麗に捕まえると、

 グルンッっと、力強く腰を回転させて、

 その勢いのまま、地面に向けて豪快に叩きつけた!


「ぐはぁっ!!」


 P型センエース2号の全身に走る衝撃。

 ブフっと、吐血が宙を舞う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る