第1014話 ソルエンジン、起動。


 どう考えても、現状では、ハルスの方が、ゼンよりも強い。

 だが、今、目の前に立ちふさがる『この謎少年』は、そんなハルスを一撃で飛ばしている。

 ゼンに勝ち目は万に一つもなかった。


(……くそ、くそ、くそ……なんだよ、このワケわかんねぇ状況……なんで、こんな……)


 ゼンからすれば、この現状は、わずかも理解できない、唐突すぎる超展開。

 あまりにも絶望的すぎる状況に、

 魂魄が混乱している。


 そんなゼンに、

 P型センエース2号が、ニタニタと、気味の悪い笑みを浮かべて、


「心配するな、ゼン。お前には、同期用のアンテナ基地になってもらうだけだ。本来なら、その役目はピーツが担う予定だったのだが……まあ、色々あってね」


(……やべぇな……びっくりするくらい、何言っているかわからねぇから、心配せずにはいられねぇ……つぅか、なんで、俺の名前……こいつは……ゼノリカの刺客なのか? いや、でも、なんかそれっぽくないような……ただ、これほどのケタが違う強さを持ったヤツって、ゼノリカにしかいない気が……)



 ――と、そこで、ゼンの深部にいるフッキが、


 『違う、こいつはゼノリカではない』と応えた。


 現状、表に出すことはできないが、内部で通信するくらいは可能。


 『こんなガキの事は一切知らない』

 ――との証言を受けて、


(じゃあ、マジで、こいつは、いったい……)


 より混乱の底へと沈んでいくゼン。

 そんなゼンに、


「というわけで、これから、お前には――」


 と、P型センエース2号が追加で状況の説明をはじめようとした、

 ――が、



「……ん?!」



 その途中で、

 P型センエース2号は、キっと、虚空をにらみつけ、



「ちっ……はやいな……っ」



 ボソっとそうつぶやく。

 キュっと目を細くして、

 わずかに唇をなめた。


「ソンキーに敗北した傷が癒えるまで、最低でも数時間はかかると思ったが……もう、こっちに戻ってきたか……」


 苦々しい顔つきで、親指の爪をかみながら、


「アダムの前だから、無理してカッコつけているのか……それとも、シューリに喝をいれられたか……あるいは、その両方……ちっ……理由が何であれ、まずいな……まだ、P型センエース1号の戦闘力データインストールは終わっていない……今のままでは、意味なく瞬殺される……」


 さらに数秒、ブツブツつぶやいてから、



「ちっ……仕方ない……『認知の領域外』で時間を稼ぐか……MDワールドの『領域外』で同機するとなると、ゼンが解放されてしまうが……うーむ……まあ、いくら、現状のコアインターフェイスが、最弱体の『ソル・ボーレ』とはいえ……流石に、現状のゼンごときには負けんし、構わないか」



 そこで、

 P型センエース2号は、

 パチンッと、軽やかに、指を鳴らした。


 すると、

 ゼンの視界が、グルンっと回った。

 三半規管でキャッチボールでもされたみたいに、


「うえぇっ!」


 極度のめまいにおそわれる。

 しばらく、グルグルと回っていたが、

 ある瞬間に、

 ピタっと、視界が正常に戻った。


「っ……なんなんだよ、ちくしょう……いろいろ、いい加減にしろ」


 じゃっかん残っている頭の痛みにたえながら、

 ゼンは、視線をあげた。


 すると、

 そこでは、




「――ソルエンジン、起動。モード『フィクシード・エンプティ』――」




 コアオーラをフル回転させているP型センエース2号がいた。



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