第1002話 ありがとうございます、聖主様。


「おい、トウシ……ぼくの『権限』、かえせや」

「残念ながら、自由に移し替える事は出来んみたいやで……お前は、既に、ウルティマ・ギアスの管轄下にある」


 簡単に言えば、

 ウラスケは、ソンキーの装備品の一つになったという事。

 そして、それは、どうあがいても逃げられない運命になったということ。


「うっとうしいのう……まあ、でも、ええか。……『完全なるぼくら』が必要になる事なんて、そうそうないやろうし」


「やとええけどなぁ」


「もう、バグはおらんのやから、あんたすら必要ないやろ」


「いや、どうやら、全てのバグが『呼びかけ』に呼応した訳やないっぽい。まだ、厄介事の火種は、そこら中に転がっとる」


「……マジか……だる……」


「狩り尽くすまで、ワシらの闘いは終わらん……というか、バグを狩り尽くしたとしても、ワシらの闘いが終わることはない。今後、バグ以外の脅威が出現せんとは限らんからのう。ワシらは、この脆弱な世界を守る最後の砦。立ち止まるわけにはいかんのや」


「なんや、なんや……しばらく会わん間に、ずいぶんとまあ、めんどうくさい正義の味方さんになったようやな」


「正義の味方? アホらしい。その戯言は、ワシという個から最も遠い概念や」


 そう前を置いてから、


「世界という受け皿がなくなったら、当然、ワシにとって大事なモノまで失ってしまうから、仕方なく守るだけ。世界そのものに興味はない」


「……あ、そ」


 同じ意見だったので、

 特に切り返す言葉は思い浮かばなかった。


 同じ資質を持つ者同士だけが共有できる『わずかに弛緩した時間』が流れて、


「さて、ウラスケ……今後について、一つ相談があるんやけど」


「あんたを聖主と慕っとる『昨日の輩』みたいに、あんたの命令下で、バグの残党を狩れって?」


「ワシの言いたい事が、よぉわかったな、えらいえらい」


「……そのガキ扱いやめぇや。対等に扱えとは言わんけど、見下すんだけは、マジでやめてくれ。こんな最低限の頼みすら聞いてくれんのやったら、さすがに、あんたの下では働けん」


「ガキ扱いさえしなければ、まともに働く気があるんか。ずいぶんと素直やな」


「あんたの部下とかマジでイヤやけど……権限を奪われとるから、逃げられへん。ぼくは、無駄なことに労力を費やすほどアホやない。それに、一応は、大事な女二人を助けてもらった恩もある……仇で返すつもりはない」


「ええこころがけや。その真摯さを評価して、ワシの直轄ではなく、遊撃部隊のトップという扱いにしたる。最低限のノルマは課すけど、それを果たしたら、あとは好きにしてええ」


「……ありがとうございます、聖主様。このご恩は忘れません」


「……」


「なんやねん。普通に感謝してんねやろがい。文句でもあるんか」


「ノルマ、めっちゃ厳しぃしたろか」


「そんなにイヤやったら、訳の分からん呼ばれ方を許すなや」


「あいつら、ワシの言う事とか聞かへんねん」


「トップがイジられてる組織とか、大丈夫か。不安なってきたわ。まさか、あんたの親戚ってことで、ぼくまでイジられ倒されるんとちゃうやろな」


「イジられとるワケやない! ウチの組織にはイタいヤツが多いだけや!」


「どっちにしろ、ヤバい組織やないかい!」


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