第991話 進化を止めるな。
「ソードスコール・ノヴァ」
そう詠唱すると、
ウラスケの周囲に、100本を超える『魔法の剣』が召喚された。
ソンキーが続けて、
「――呱々(ここ)の声、
心を寄せて、うたかたの、
干戈(かんか)に濡れた杯(さかずき)を干す――」
詩(うた)を並べると、
100本を超える魔法の剣は、
酔ったように、奇怪なダンスに興じつつ、
瀟洒な嵐のように、
リズムの乱れたステップを踏みつつ、
ウラスケへと襲いかかった。
ザクリ、なんて、無粋な音は聞こえない。
ただ、スルリ、スルリと、
軽妙洒脱に、ウラスケの全身を、薄く刻んで、かつらむき。
――薄っぺらな嘘となったウラスケの魂魄を、
ソンキーは、粗雑にすくいとって、
「無様だな……本当に、タナカトウシと同じ血が流れているのか、はなはだ疑問」
「……」
「言葉すら失ったか……ゴミが」
ソンキーは、感情のない声でそうつぶやくと、
ウラスケの魂魄をその辺に投げ捨てて、
「さて、それじゃあ、サクっと終わらせようか。もう少し楽しいゲームになるかと思っていたんだが……拍子抜けだ」
言ってから、
ソンキーは、右手を、バグに向けて、
「じゃあな」
核を破壊し、
アスカとナナノの魂魄も奪い取ろうとした、
――が、
しかし、そこで、
「――ナぜ、進化を止めタ――」
ウラスケを包んでいたバグが、ボソボソと、
「――マだまだ、いけただろウ――」
精気のない、
電子音のような声で、
「――スでに許容量の限界? 知ったことカ――」
禍々しい黒いオーラが、
ユラユラとうごめいて、
「――コの、胸の叫びを昇華させる。そのためなら、いくらでモ――」
もう止まらない。
バグは、リミッターを失った。
「――サあ、謳おう、謳おうじゃないカ――」
グンと、
膨らんで、
直後、
バチンと弾けた。
弾けて、砕けて、
また集まり直して、
そして、バグは、
最後の理性を失った。
「――ィギイイイ――」
そんな、異常な状態に陥っているバグを見て、
ソンキーは、ボソっと、
「壊れ堕ちたか……」
そう言ってから、
「……垂涎の展開だな。『ただの的』が『狩る価値のある獲物』になってくれた。くく……うれしいねぇ」
ニタニタと笑みを浮かべ、
「誇れ。お前は、俺を磨く砥石。俺のために肥大し、俺のために死ぬオモチャ。さあ、行くぞ……殺してやる」
一度、ギンと睨みをきかせてから、
ソンキーは、右足にグンと力を込めた。
ダンと、衝撃波が舞って、
異常な練度の瞬間移動で、ソンキーは、空間を駆け抜ける。
最速で最短距離を駆けたソンキーは、
そのままの勢いで、
右手に込めたオーラを、
バグへと叩き込もうとした、
――と、その時、
「キィイイアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」
バグが、天を仰ぎ、
奇声を発した。
その耳障りな音は、
歪に連鎖して、
けれど豊かに手を取り合って、
一つの『大きな塊』になると、
じゃれつくように、
ソンキーへと襲いかかった。
「うぐぅっ――」
あまりの圧力に、思わず声を漏らしてしまったソンキー。
明確なダメージ。
頬に刻まれた傷から高貴な血が流れる。
――『心底ナメ切った相手』から受けた『ちょいとシャレにならない一発』。
油断が招いた、狂おしいほどのダサさ。
そんな自分のみっともなさに怒り心頭。
「ゴミが……っ。見るも無残なカスの分際で、この俺に、恥をかかせやがって……っ」
静謐(せいひつ)なブチ切れに身を任せ、
豪速にブーストをかける。
「膨れ上がっただけの虫ケラが……はしゃいでんじゃねぇ」
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