第989話 ギャグ。
ソンキーの美しさに溺れているウラスケは、
しかし、それでも、
「はっ……はっはっはっはっはっはっ……っ」
心に喝をいれ、気合を入れなおし、
なんとか、集中しなおして、
一瞬でフローにもっていくと、
両手で円を描き、
(殺したる……つぅか、殺さんとヤバい……っ)
コアオーラを暴走させて、
限界を超える勢いで魔力をぶちこみ、
魂魄の芯――その最奥をフル回転で鳴動させて、
「……シッッ!!」
最短の呼吸と挙動で、ソンキーとの距離をつめ、
己が恐怖を食い殺すように、拳を突き出した。
豪速。
圧倒的な存在値という数の暴力。
常識を殺す一手。
オーバーカンストという超次の領域に達した拳。
そんなウラスケの拳を、
「ギャグはもういい」
小指でペンッと、
まるで子猫の前蹴りでもウザがっているかのように、サラリとさばいてはじく。
「……へ?」
疑問符の海におぼれる。
ウラスケにとって、先ほどの一撃は、
決して、様子見のジャブなどではなく、
最短で、最善の一手だった。
臆病と罵られても文句が言えないほど、ひどく慎重に、空間を演算して、
不利のフレームに至らない最善を通した――つもりだった。
しかし、
ソンキーは、そんなウラスケの最善を、ほとんど呼吸のような気安さで、最悪手にまで貶めた。
「さあ、本気の攻撃を見せろ。お前の全部で俺に立ち向かえ」
ソンキーの言葉は、いちいち、ウラスケの気力を殺す。
ウラスケの脳は渋滞した。
理解しきれなかった。
処理しきれない。
今のウラスケには、
ソンキーという最果てを理解できる下地がないから。
「こんな……アホな……」
ぶるぶると震えて、
「こんなもん……なにしたって……」
ツーっと、目から涙が流れた。
恐怖という言葉では表現しきれないマイナスの感情に包まれる。
「……ぅう……」
それでも、
「ふ、ふざけやがって……どちくしょぉ……」
家柄というプライドを糧に、
ウラスケは拳をにぎりしめる。
「そんな強さが! このぼくですら『どうしようもない強さ』なんてものが! あってたまるかぁあああ!」
踏み込む。
ありとあらゆる魔法で己をバフり、
サポートのジオメトリを有益に活用し、
お行儀よく世界を演算し、
破格の集中力でもって、
タナカ・イス・ウラスケは、ソンキー・ウルギ・アースに挑む。
――けれど、
もちろん、
「……まさか、それで本気なのか?」
指一本で、全てを受け切った。
『受けた』というか、ただ『いなした』。
それだけ。
「……ぁ……ぁ…………な、なんや、これ……どんな悪夢……どんな……ぃ、いや、なんでもええ……とにかく、はよ覚めて……もうイヤや……」
ソンキーは、心底がっかりした顔をして、
直後、
ピキっと、怒りをにじませて、
「その程度で……俺の前に立っていいと思っているのか……」
そうつぶやいた。
その怒りを受けて、
「……ひっ……」
ウラスケの体がピシっとかたまった。
別に魔法を使われたわけではない。
ただ、ソンキーの胆力にビビっただけ。
震えることもできず、
ただ、冷たい汗だけが、全身の各所から流れていく。
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