第758話 輝く道。


(この俺が、負けるわけねぇ……負けていいわけがねぇ……つぅか、てめぇ、俺を誰だと思っていやがる……俺は……世界最強の勇者ハルス・レイアード・セファイルメトスだぞ……てめぇごときに負ける訳がない風雅な刃……勝ち続ける事しか許されていない狂気の暴風……)


 血の流れが『内・下』から『外・上』へと変化したのが『原因』かどうか分からないが、


(……ン……?)


 今まで見えていなかったルートが見えてくる。

 線になって、高速で繋がっていく。

 一致していく。


(これは……)


 『この勝負は長引く』と思った。

 負けるにしても、かなり時間をかけた末の敗北だろうと思っていた。

 しかし、違った。


 道はあった。

 これは光。

 まばゆい閃光。


 複雑で、ねじ曲がっていて、

 答えに辿り着くまでに、おそろしく時間を必要とする困難な道――だが、


(……見える……見えてきた……繋がる……一致する……一手が光る……導かれる)


 ハルスは、




「……見えた……」




 ボソっとそう言ってから、

 パチリと、

 ――『正解』の一手を打った。

 たった一つしかなかった、勝利の一手。


 その姿を見た177番は、嘆息(たんそく)して、




「……本当に、驚いたねぇ……」




 ボソっとそうつぶやいてから、

 177番は、ソっと目を閉じた。


 そして、整えるように、心の中で、ゆっくりと30秒を数える。

 一定のリズムで、

 おだやかに、

 ゆるやかに、

 静かな時間が流れていき、

 ついには、






「30秒経過。170番((ハルス))の優勝! コングラッチュレーション!」






 司会の称賛の声など、今のハルスの耳には一ミリも届いてはいなかった。

 ハルスは、脳を使いきったような、憔悴した顔で、

 しかし、ギリっと強く奥歯をかみしめながら、


「……俺の……勝ちだ」


 絞り出したような声でそう言った。

 そんなハルスに、177番は、


「そうだね、そっちの勝ちで、俺の負けだ。悔しいよ」


 ゆっくりと頷いて、

 177番は言う。




「くく……ほんとうに、見事だ」


 薄く笑ってから、まっすぐな目で、


「その才覚は、嫉妬に値する」




 そう言って、ゆっくりと席を立つ。

 そして、177番は、ハルスの目を見ながら、


「ちなみに、君、さっき、『見えた』とか何とか言っていたけど、あれはどういう意味かな? いったい、なにが、どのくらい見えたのかな? 参考までに聞かせてもらえるかな」


「……俺は、お前がつくった問題を……詰将棋ってヤツを解かされただけだ」


 ハルスの言葉を聞いて、

 177番は、ニっと微笑んで、またゆっくりと頷いて言う。



「……いやぁ、ほんと、すごいねぇ……感心、感心」



 ハルスは、ギリっと奥歯をかみしめながら、


「……お前、何者だ?」


「何者? さあ、何者だったかな……敗北のショックで忘れたよ。確か、そこそこの存在だったと思うんだけど……でも、まあ、しょせんは君に負ける程度のちっぽけな人間さ」


 そう言って、177番はその場から去っていった。


 ハルスは、見えなくなるまで、ずっと、177番((運命を調律する神威の桜華))の背中を睨みつけていた。




 ★



「お疲れさまでございました」


 戻ると、深く頭を下げているアダムが出迎えた。

 アダムはスっと顔をあげると、


「しかし、あんなカスに負けてやる必要はなかったかと存じますが。もちろん、主上様には深い御考えがあったのでしょうが、しかし、主上様が負ける姿というのは、どのような理由があれ、見たくはないものです」


「ふっ」


 そこで、この上なく尊い命の王『究極超神センエース』は、ニヒルに微笑む。

 そんな『含みのあるセンの優美な横顔』を一心にみつめながら、

 アダムは、


「ちなみに、どのような理由から、あのカスに白星を譲られたのでしょうか? 参考までにお聞かせいただけませんでしょうか? ありとあらゆるすべての意義を知り、主上様のご意思に届くための一助としたく存じます」



「アダム、理解しておけ。俺がやる事には、とにもかくにも、深ぁい意味がある。あまりにも意味がありすぎて、たまに、『あれ? 意味ないんじゃないの?』と思ってしまうこともあるかもしれないが、しかし、それは勘違いだ。俺のやる事には、絶対的に意味がある」


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