第706話 ミッション1、龍試を突破せよ。
『――その方法は、フーマー大学園の【龍試】を突破することです』
「フーマーってのは、さっきの説明にあった『一番でかい国』だな。その学校の……『龍試』を突破するといいと……ふむ、なるほど。で、その龍試って?」
『簡単に言えば、最も履修するのが難しい科目です。普通、一つの科目で、1~2単位しかもらえないのですが、龍試で合格すれば、10単位が貰えます』
「おお、5~10倍かぁ、いいねぇ。けど、つまり、それだけ難しいってことだな」
『はい』
「ふむ。なるほど、実にRPG的だな。ラスボスを倒すためには、『南大陸』に行く必要がある。南大陸に行くには『冒険の書』が必須。冒険の書を得るためには、冒険者試験を突破するのが必須。すでに始まっている今年の冒険者試験を受けるためには、フーマー大学園で『龍試』を突破して、『予選&一次の免除資格』を会得する必要がある、と。OK、完全に理解した。『だいぶ自由度少なめ』かつ『お使い感』が強くてウザいが、まあ、念願の異世界転生に免じて、そこは妥協してやろう」
そう言って歩き出そうとするセンエースに、
また、ソルが、あわてて、
『あの、ちょっと……どこに行く気ですか?』
「はぁ? どこって、あんたバカか? そのフーマーって国を探すに決まってんだろ。そして、大学園に入るための方法を探すんだよ。たぶん、受験費とか入学金とかも諸々必要だろうから、金も稼ぎつつ、な。てか、それ以外にする事なんかねぇだろ」
『すいません、説明が遅れていましたね。ここは、フーマー大学園の敷地内です。そして、あなたは、既にフーマー大学園に入っています』
「……既に入っている? ……ほう」
『先ほど、私は、あなたに『憑依転生した』と言いましたよね。あなたの魂魄は、フーマー大学園の、とある生徒の体に憑依しました。その体の持ち主の名前は『ピーツ』。これから、あなたが名乗る事になる名前です』
「……憑依……肉体を奪ったってことか。となると、このピーツってやつの魂はどこにいったんだ?」
『あなたが憑依する直前に自殺をしたので、ピーツの魂魄はすでに、コスモゾーンにかえっています』
「おやおや、自殺とは……おだやかじゃないねぇ」
『ピーツは、成績最下位の学生でした。まったく勉強についていけず、周囲に蔑まれ、孤立し、ついには自殺をはかりました。あなたの魂魄は、その死体に乗り移ったのです』
「なるほど……じゃあ、まあ、こいつに遠慮する必要とかはないわけだ」
『はい』
と、そこで、センエースは、『ピーツの頭の中』を探ってみた。
深く深く『自分の中』にもぐっていくと、
まるで、『虫食いが酷い日記』をめくって確認しているかのように、
『この学校での記憶』のようなものが、ポツポツと浮かんできた。
自殺による影響か、ピーツの記憶は、かなり薄くなっていたが、
しかし、『学校生活に支障が出ないですむ程度の記憶』を回収する事には成功した。
「うっすらとだが……この学校での生活を思い出してきた……なるほど……こういう感じか……うん、OK。だいたいは把握した」
そこで、センエース(ピーツ)は、
ソルに意識を向けて、
「もう、他に説明する事はないか? ないなら、二限目の実技講義が始まるまで時間がないから、もう行きたいんだが」
『もう何も言う事はありません。あなたには期待しています。世界の未来、よろしくお願いします』
「まかせておけ! 今の俺に出来ない事はたぶんない! 気がする! 根拠はない!」
そう言って、颯爽と二限目の実技講義へと向かっていったセンエース。
そんな彼の『中』で、
ソルは、ボソっとつぶやく。
(――『P型センエース2号』の初動誘導は終了。ラスボス・プロジェクトは問題なく進行中。ただ、P2の『情動』に若干の不安定性がみられる。『本物』よりも、若干、『陽の気』が強く、妙に楽観的な思考を有している。時間経過と共にオートで『情動・気機調節』が行われる予定ではあるが、『なんらかの突発的な問題が発生する可能性』を考慮し、このまま『中』からの誘導を続行する)
『ピーツ』という名前の『低スペック少年』に憑依転生した『センエース』。
――正式名『P型センエース2号』は、1号と違い、『自分がプロトタイプである』という事すら知らない、なんとも可哀そうなD型の強化パーツ。
閃壱番(せんえーす)の記憶『のみ』をインプットされた超劣化コピー。
そんな彼の、『最下位劣等生』からはじまるフーマー大学園生活!!
P型センエース2号の明日はどっちだ!
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